第169話 現代異世界ティータイム
「それで!? 食後のデザートなのだが!!」
全員食べ終わり、食器を流しにつけて戻って来ると、マジャリスさんからクソデカ大声で話しかけられた。
どんだけ楽しみにしてたんだこの人。
「はいはい。すぐ持ってきますからね」
というわけで冷蔵庫からシュークリームを取り出しまして。
それをみんなの目の前に。
「ほう」
という声は多分、見たことない食べ物に対する興味だと思う。
で、マジャリスさんが手を伸ばそうとしたとき。
「待て」
ラベンドラさんがそれを止める。
「なんだラベンドラ」
止められたマジャリスさんは不満顔で、何ならラベンドラさんを睨んでたりするけど。
「カケル、前に話した私たちの世界の茶葉を持って来た」
そんなのは意に介さずに、ラベンドラさんが俺に何かを差し出して。
見れば、何というか。
道端に落ちてる枯れ葉みたいな、よくある葉っぱが五枚。
少なくとも、俺の知る茶葉ではない事は確かで、果たしてこれはどうやって飲むんだろうか……。
「これは普段どうやって飲んでます?」
「お湯に抽出して飲むが、抽出する前に粉々に砕く」
「砕いた葉がコップとかに貼りついたりするんですのよね」
飲み方は変わらんな。
という事は……。
「じゃあ、これに入れて作ってみましょうか」
お茶パックの出番ですわね?
その名の通り、茶葉を入れてお茶を出す時に使うパックである。
鰹節とかで出汁とる時とかに使うと、引き上げとかが楽。
個人的には鰹節はダシに入っててもあまり気にならないから使う事は少ない。
ちなみに俺の知り合いは、インスタントラーメンの粉末スープに入ってるネギを取り除くために、このお茶パックに粉末スープを入れてお湯に溶かしてたな。
パックを抜けられないごまやらネギやらをまとめて駆逐できるんだとさ。
普通に食えよ、って思いました。
「温度とかって、何度がいいとかあります?」
「熱ければ大丈夫だ」
うん、聞いて思ったけど、多分異世界人って温度とかを細かく考えてないよね。
少なくともこの世界みたく、熱さを数値化とかしてないんじゃないかな。
俺の勝手な想像だけど。
「あ、いい香り」
で、紅茶を入れたらふわりと広がるフルーティーな香り。
でもお茶って感じの匂いじゃない。
近いのはメープルシロップとかの香りかな?
ちょっと甘くて、くすぐったい感じ。
「もう待ちきれん! 食うぞ!!」
ちなみにここらへんで痺れを切らしてマジャリスさんがシュークリームに手を伸ばし。
「この外側を外せばいいんだな!?」
なんでかシュー生地部分を外そうとしてた。
既視感凄いなぁ。
とんかつの時も衣を外そうとしたんだっけ。
学べ。俺がそんな手間な料理を出すわけ……。
あるかも。明言しないでおこう。
「そのまま食べられますから!!」
危うくクリームだけを食べそうになるマジャリスさんに、間一髪俺の声が届き。
ぺリペリと剥がした生地を何とか元に戻してた。
で、大きな口を開けて一口かぶりつく。
「――!!? ~~~~っ!!」
口に含んだ瞬間固まって、恐らく美味しさを理解出来たら満面の笑みへ。
そのまま、握り拳を細かく振って、美味しい事をアピール。
動きだけ見たら園児みたいなんだけどなぁ……。
俺より身長高くて、イケメンなエルフがこれしてるんだぜ?
出すところに出したら尊死しそうなお姉さま方が一杯いそうだ。
「生地がパリッとした食感で、中のクリームと相性がいい」
「これ無限に食べられますわ~!!」
「生地自体にも味が付いとるし、その味もクリームと喧嘩せん」
遅れて食べた三人もこの反応。
やっぱりシュークリームは好評ですわね。
「ち゜ゃ~~~」
マジャリスさんから某電気鼠みたいな声聞こえてきたんだけど。
大丈夫か? 色々とバグってないか?
「貴族の茶会に並ぶような……いや、違うな。並んだうえでメインになる様なスイーツだ。マジャリスもああなるのは納得だ」
平常運転なんだ。
エルフってすげー。
「ほぅ。紅茶ととても合いますわ」
初めの一つを完食し、ホッと一息ついたリリウムさん。
そうじゃん、異世界紅茶、飲んでみないと。
……いただきます。
「……あ、うま」
そっとコップを傾けて紅茶を口に含めば、最初に感じたのはトロミ。
口に入れてハッキリわかる程、異世界の紅茶はトロミがあって。
そのトロミがまるで膜のように、口の中で盛り上がり。
そこから、堰を切ったように紅茶の風味や味が広がっていく。
風味はやっぱりメープルシロップ。でも味は……なんと言うか、紅茶だった。
こう、銘柄に詳しくないからあれだけど、多分この世界にも似たような味の紅茶はあると思うよ。
渋みが少なく、スッキリした味。
主張自体は強くなく、スッと消えてく繊細な感じ。
色は濃い琥珀色。
美味しいけど、紅茶自体はこの世界のものとそこまで変わらなかった。
良かった、豚骨ラーメン味とかじゃなくて。
「カケル、後でこのレシピを教えてくれ!」
「え? あ、はい」
俺が紅茶の余韻に浸ってると、そう言われた。
……て、そう言えば焼くだけにしてあるシュー生地はあるんだった。
てことはクリームの作り方だけ教えれば大丈夫か。
って、気付いたらシュークリームがもう残り一個になってる!!?
流石に俺でも一つは食べたい。
そこでマジャリスさんと目が合う。
相手は狩人の眼だ。
……だが、負けない!!
なんとしても一つくらいは俺もシュークリームを!!!
――なお、勝者はリリウムさん。
転移魔法で手元にシュークリームを転移させてた。
ズルいじゃん。最強じゃん。
「流石に食べすぎですわよ? カケルにお譲りなさい」
なんてマジャリスさんに言いながら、俺にシュークリームを差し出してくれた。
え? 女神?
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