第168話 オムレツ実食
それではオムレツ、入刀です。
……ちなみに誰との共同作業でもない。
というか、何だったら作業なのかすら怪しい。
マジャリスさん、リリウムさん、ラベンドラさんが操るナイフが空中に浮き。
これまた宙に浮くオムレツをカット。
そのオムレツは、切られたままの状態を維持し、それぞれのお皿へと移動して。
最終的に、俺が作ったスペイン風オムレツと、スフレオムレツ以外のオムレツがドッキング。
そして、まるで何事も無かったかのような、一つのオムレツへと形が戻る。
……そうはならんやろ。
「空間ごと断絶させたから、中の具材が混ざる事も無い」
「カケルの作る料理で、見た目も大事だという事はしっかりと理解しましたし、こうして形を崩さずに盛り付けてみましたの」
「中々に遊び心がある試みだと思う」
で、やったエルフ三人は満足顔なわけだ。
……ズルい。俺だって魔法使って盛り付けとかしたい!!
――出来ない事は理解してますよ? でも、魔法を使いたいって思うのは男の子みんなの総意じゃないですか!!
エルフっていつもそうですよね! 人間の気持ちとか考えたことあるんですか!?
……無さそうだな。
「ま、まぁ、とりあえず食べましょ」
と促して、まずは萎む前にとスフレオムレツにスプーンを入れる。
すると、抵抗なくスプーンがオムレツへと吸い込まれていって。
感覚的に、生クリームをスプーンで掬ってるみたいな感じ。
ほとんど重さを感じないの。
「いただきます」
もうこの辺で俺は警戒してた。
きっと衝撃を受けるんだろうなと。
で、意を決してオムレツを頬張って――。
「すっげ、溶ける」
美味しいとかより前に、驚きが来た。
あのスフレのシュワって感じの食感。
その直後に、口の中からオムレツが消えるのよ。
卵の濃厚な美味しさと、塩コショウの塩味。
パセリの風味を残して、フワッと。
残念ながらご飯が進む感じではないけど、単品料理として滅茶苦茶美味しい。
少しケチャップを垂らして甘みと酸味を加えてもいいし、ちょっとレモンを絞っても絶対に美味い。
「面白い食感だな」
「初めての感覚ですわ!!」
「かなり上品な味わいだ」
「こりゃあハマるわい」
四人の評価も中々高い。
そりゃそうか、美味いもん。
「む、少し萎んできたか」
「早めに食べきらないといけませんわね」
と、食べ進めてたら既に目に見える範囲で小さくなってきた。
なので他のオムレツより先にスフレオムレツを平らげまして。
……かなり満足。
滅茶滅茶においしかった。
「それじゃあ、いよいよこちらを……」
というわけでいよいよ中身色々オムレツへ。
切り分けた都合上、誰のオムレツも並びが一緒じゃないんよな。
そこがまた面白い所でもあるけど。
「ガブロがリクエストした具か。……甘辛いタレが卵のうま味と絡み合い、ご飯が進む味になっているな」
ラベンドラさんのオムレツ一番端は、鳥の照り焼きそぼろオムレツだったらしい。
鳥と卵の相性というか、もう言うに及ばずって感じだし。
疑問に思うなら黙って食えとまで言えそうな、王道コンビ。
こいつらが不味いとすれば、それは味覚がおかしいか、美味しいという概念がひっくり返ってるしかないわな。
「慣れ親しんだ、ラベンドラのオムレツの味だ。……なんと言うか、落ち着く味だ」
マジャリスさんはラベンドラさんが作った異世界のベーシックオムレツを引き当てた。
これもまぁ、トマトと卵とチーズが不味いわけなくない? って組み合わせで、トマトの酸味とチーズの塩味が絶妙にマッチ。
ちなみにラベンドラさん、トマトのゼリー状の部分って言うの? タネの部分は具に混ぜずに卵と混ぜてた。
だから、中に入ってるトマトは果肉の部分だけで歯ごたえもしっかり。
ゼリー状の部分が苦手って人もいるからね、ラベンドラさんらしい配慮だと思うよ。
「やはりエビとクリームの相性は抜群ですわ!!」
リリウムさんはしっかりと自分がリクエストしたエビクリームオムレツを食べてた。
……まさかそうなる様に配列を組んだとか――。
有り得るな。
「エビが少しだけ物足りない気がしますけど、それでも抜群に美味しいですわ!!」
で、異世界のエビダトオモワレルモノと比べちゃいかんよ。
あれと比べたらこちらの世界の伊勢海老も甘えびになっちゃう。
「まぁ、エビはしょうがないですよ。また持って来てもらえるといいんですけど」
ちなみにこれ、普通に失言ね。
その証拠に、この発言した瞬間、四人の眼が怪しく光って厳しくなった。
多分、小さい子供とかが見たら泣くレベルで。
で、悟ったね。あぁ、近々エビが来るぞ、って。
「カケルの作ったこの平たいのは……オムレツなのか?」
「オムレツですよ。この世界のある国でよく食べられてるらしいものです」
って言った後に思ったけど、スペインの人はスペイン風オムレツ食べるよね?
日本が魔改造して勝手にそう呼んでるだけとかないよね?
一応調べるか。
……大丈夫だった。ちゃんとスペインの人も食べてたわ。
――トルティージャね、覚えた。
「じゃがいもが入っているのか」
「それと、刻んだソーセージも入ってます」
ちなみに俺が作るスペイン風オムレツは、ジャガイモだけじゃなくソーセージやベーコンも入る。
いや……肉が欲しかったんです。許してください。
「ほう。こりゃあ美味いわい」
で、一番に食いついたのはガブロさん。
どうやら気に入ったみたいよ?
「とんかつソースが合うな」
「ケチャップも中々だぞ?」
「卵にも味が付いているのですからそのままでも美味しいですわよ?」
「全部酒に合う味なんじゃ……」
速報、スペイン風オムレツ、異世界人に人気。
まぁ、ジャガイモ的なのは異世界に……あるのか?
そもそも根菜系ってあるんだろうか?
「ちなみに聞きますけど、この具材って異世界にもあるものです?」
「ん? ……ああ、マンドラゴラの亜種のような立ち位置の魔物が該当するな」
えー、居ました。じゃがいも。
マンドラゴラだそうです。やっぱり。
野菜系はどうもマンドラゴラに置き換わってるみたいですね。
……じゃあ向こうの世界の農家大変じゃん。
収穫の度に命の危険があるって事でしょ?
こっわ、とづまりすとこ。
台風とか来た時に畑の様子見てくる、とか言ってるのかな?
マンドラゴラが土から出てないか確認するために。
そもそも台風という概念があるか怪しいけど。
「この料理なら無理なく向こうで再現出来そうだ」
「卵の調達位ですわね、障害は」
「極論卵を使ったスイーツを作るためとソクサルムに伝えれば、いくらか融通が利きそうだが」
「あまり頼ると縛られるぞい」
この辺の会話は無視すると決めてる。
にしても、このオムレツたちは美味しかった。
結局一番は慣れ親しんだオニオンツナオムレツだったな。
やっぱ食べ慣れた味が一番だったわ。
……卵の美味しさとか、明らかに食べ慣れてた味とは格が違ったけれども。
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