第204話 イセカイショクザイアラタ

 ……逃げられなかった。

 後世にこの記録を残すため、私はこのメモをここに記す。

 ――めし、うま。


「どーすっかねぇ」


 まぁ、茶番はさておき。

 まだ口の中がひりひりする夜明け過ぎ。

 冷蔵庫には昨日渡された白身魚っぽい肉が鎮座。

 300個も餃子作ったらさ、そりゃあ肉も消費するわけじゃん?

 で、やっとワイバーン肉も終わりが見えてきたなぁなんて、若干の名残惜しさを感じつつ思ったわけ。

 そしたら、


「そろそろ無くなる頃合いだろう?」


 とかラベンドラさんが言いだしてさ。

 どうもラベンドラさん、普段の素材の消費量から、俺の手元にどれくらい材料が残ってるかを把握してるっぽいんだよな。

 全体像見てないのにだぜ? 凄くない?

 ……エルフだから透視魔法とかで冷蔵庫の中身を見られてないとは限らんけども。

 というわけで渡されちゃったこの白身魚っぽい肉。

 確か、唐揚げにして美味しかったって言ってたんだよね。

 んで、もちろん素材アキネーターも行いましたとも。

 結果、魚じゃありませんでした。

 いや、どうなんだろ。多分、分類上は魚じゃないはずなんよ。

 

「魚系の魔物ですか?」

「違うな」


 って言ってたし。

 でも、


「水辺に住む魔物ですか?」


 って問いには、


「居る場合もある」


 とのこと。

 そこからしばらく進めていったら……。


「……もしかして蛇ですか?」

「そうだ」


 ダソウデス。

 蛇……蛇かぁ。

 まぁ、食べられない事は無いんだろうし、某潜入任務ゲーでは蛇食って美味いとか言ってたし。

 某漫画でも、蛇をスープにして菊の花で匂い消し、みたいな事をしてた記憶もある。

 ただなぁ……皮とかが奇麗に取られてるとはいえ、やっぱり抵抗はあるもんで。


「とりあえず茹でますか」


 いつも通り、塩茹でにして食べてみることに。

 これがなぁ、鰻とか穴子なら諸手を上げて喜んだのに。

 というわけで茹で上がりをパクリ。

 お味の方はと言うと……。


「全然癖がない」


 物凄くあっさりした白身魚……とはちょっと違うな。

 マジで鰻っぽい。

 それかウツボ。

 穴子って感じじゃないな。


「うわ、脂すっご!?」


 で、茹でた鍋を見たら表面に浮いた脂が凄い事になってた。

 食べた時に若干身がパサついてる感じがしたんだよな。

 これもしかして、茹でたの悪手?

 唐揚げにしたって言ってた時も、ジューシィだったとか言ってたはずだし。

 身の脂を抜くとパサついて美味しくなくなる感じか?

 目黒のさんまかよ。

 試しに焼いてみよう……。


「脂は出てるけど、茹でた時ほどじゃないっぽい?」


 パチッとか脂が弾ける音はするけど、フライパン全面を覆うほど脂は出てないし。

 さっきの茹でた時よりは身から脂は抜けてないはず。

 というわけで塩を振――らずに大根おろしと醤油じゃボケぇっ!!

 こんな美味しそうに焼けた白身には大根おろしじゃろがい!!

 なお、大根おろしは既に擦られたパウチの奴なもよう。

 そんなわけで大根おろしを乗せ、醤油を垂らしてパクリ。


「うわっ! うんま!!」


 結果、焼くの正解。

 大正解だね。

 茹でた時のパサつきも、身のもろさも無い。

 しっかりと形を保ちながら、口に入って歯に触れた瞬間にパァッと広がり。

 脂と肉汁をまき散らしながら、さながらバターのように溶けていってしまう。

 牛肉とかで口の中で溶けた、って表現はあるけど、まさか魚というか蛇で体験しようとは。

 いやマジで美味いな。最高じゃんか。


「これ、かば焼きにしたい」


 焼きが美味いと分かり、そして身質は鰻に近いとなれば、日本人なら誰でも思うよね?

 けどなぁ……鰻って、上手に焼くの難しいんだよなぁ。

 串打ちも難しいって話だし……。

 待て? 全行程をあの四人にやらせてみるのは?

 串打ちは俺より器用だろうから何とかなりそうだし、焼きはガブロさんに任せておけばいいのでは?

 ……これ、家で美味しい鰻のかば焼き――蛇のかば焼きが食える?

 ちょっとテンション上がってきたかも。

 ウナギのかば焼きもいけるとなれば当然ひつまぶしもやりたい。

 あとは鰻で出来そうな料理を調べて……。

 うん、楽しくなってきたかも。


「夢が広がりんぐですねぇ!!」


 仕事前に美味しいものを食べる。

 これ、俺のライフハックね。

 こうでもしなきゃやってられんとも言う。

 となれば今夜の買い物は、鰻のタレとー、あ、俺は俺でうまきとか作るか。

 うな重でもいいし、鰻のかば焼き定食にしてもいい。

 惜しむらくは肝吸いが作れないところだな。

 当然の如く肝とかなかったし。

 まぁ、そこはしゃーない。

 いつも通り、マツタケ味のお吸い物に頑張って貰いましょう。

 

「うし! んじゃあ今日も仕事は頑張らない!」


 張り切って怪我したり、無茶したりしたら困るのは自分なり。

 もちろん、仕事はするし、集中もするけどね。

 必要以上に頑張らない、これ、大事。

 ……あ、異世界蛇肉に名前だけ付けとこ。

 何がいいかねぇ……。


「ウマイウナギマガイとかでいっか」


 なお、朝方なので頭はあまり回っていなかった模様。

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