第40話 夜ご飯の準備

 姉貴と共に水餃子の実食。

 いやぁ、大きくし過ぎたと心配したけど、これはこれで食べ応えがあっていい。

 あと、皮も分厚いけどそれに見合った中身がさ。

 自分で叩いたのもあって、結構塊があるんだけど、そこがまたいい味出してる。

 エビダトオモワレルモノはプリップリで美味しいし、ブタノヨウナナニカもトリッポイオニクも最高。

 何がいいって、塊を噛んだ瞬間に口一杯に広がる肉汁よ。

 口の中のスープの味を上書きするように広がって、すんごい幸せな感じを広げてくれる。

 で、そこに広がるスープの野菜の甘みやうま味ね。

 いやこれ大成功だわ。やっぱ餃子は美味い。


「相変わらず美味しいわね。エビもいいけど、私はこっちの肉の方が好みかも」

「というと?」

「やっぱり肉特有のガツンと来る感じがいいわね。皮に負けてない感じ」


 姉貴はどうやらブタノヨウナナニカとトリッポイオニクの合わせ肉餃子がいいとのこと。

 まぁ、ぶっちゃけどっちも美味いよ。

 ブタノヨウナナニカのほんのりとした甘みとジューシーさ。

 トリッポイオニクのシャキシャキした歯ごたえとさっぱりとした脂の旨味。

 これらが流れ込んでくるんだもんだからそりゃ美味いって話で。


「俺はさっぱり目のエビの方が好きだけどな」


 けど、しつこさは結構あるんだよ。やっぱり肉だからさ。

 その点エビダトオモワレルモノはいいぞ?

 エビの旨味と甘みはもちろん、脂ってものをまるで感じないからな。

 肉の方は二、三個食べたらもういいやってなるけど、エビの方はいくらでも行ける。

 ……現実的にそっちもそこそこな数で満腹になるだろうけども。

 ていうか作り過ぎたな、スープ。

 夜ご飯に回すべ。


「ふぅ~。満腹……」

「皮が厚い分、かなりボリュームあるわよね。私もお腹一杯」

「残ったのは夜に残してあの四人にも振舞うよ。……夜は焼き餃子の予定だったけども」

「餃子三昧でいいんじゃない?」


 姉貴も結局おかわりもすることなくスープ一杯でご馳走様。

 作った俺が言うのもなんだけど、やっぱ大きすぎたな。

 次からはもうちょっと控えめに作ろう……。


「そう言えばなんだけどさ」

「なに?」

「あんた、あの人たちの事どれくらい知ってるの?」


 姉貴の丼を下げ、ざっと洗い流して食器洗浄機に入れてる時にきた姉貴からの質問。


「名前くらいじゃない? あと、結構な実力者なことくらい」

「やっぱり強いんだ」

「強くないと別の世界に繋がる魔法陣なんて作れないって」

「魔法陣使って来てんだ!?」

「最初は事故と言うか、偶然こっちに来たらしいんだけど、そっからは座標を覚えた的な事言って来るようになったな」

「座標を覚えれば何とかなるもんなの?」

「多分ほとんどの人には無理的な事も言ってたと思う」


 なんて話しながら、俺は夜に向けての準備をしていまして。

 具体的には、焼き餃子用の具の仕込み。

 水餃子に使ったのを同じように焼き餃子の具にするつもりだから、また包丁で叩くところから。

 しかも今度は六人前。

 ……一体どれほどの量になるんだろうね?

 ちなみに皮は市販のやつを使います。作ってられんて、六人前も。

 市販の餃子の皮、百枚入りを三つほど。

 ――作らんよ!? 餃子三百個も!

 ただ保険と言うか、二百個作ったところで、あの人らだったら一人頭三十個とか余裕そうだったからさ。

 だったらもう、もう百枚買っちゃえって……。

 と、とりあえず、無心で餃子作っていきますわよ。

 ちなみに姉貴、手伝ったりは――あ、ソファに寝そべって宝石の本読み始めた。

 こりゃ駄目だろうね。

 しゃーなし。一人で無限餃子包み編でもしましょうかしら。



「今日は何なにー!?」


 早朝、四人の姿を見つけたアキナは声を張り上げ、一瞬の内に肉薄。

 四人が気付いた時には、すでに懐に入られている状態で。


「今日は、エビカツバーガーを貰って来た」


 その動きの早さに驚きながら、ラベンドラがエビカツバーガーを差し出すと。


「聞いたことない名前! いっただきまーす!!」


 ひったくる様に受け取ったアキナは、即座に頬張る。

 ――すると……。


「ーっ!? うっま!! なにこれ!?」


 その美味しさに目を丸くし。

 ラベンドラ達を確認。

 そんなアキナを尻目にラベンドラ達は、エビカツバーガーをさも当然のように頬張っており。


(うっそ……。こんな美味しいのにそんな当たり前みたいに食べる!?)


 アキナはその光景に驚きを隠せない。

 

(まずパン。ふわふわで柔らかくて美味しい。んで、メインのエビカツ? どんな調理法かは分からないけど、ガーディアンシュリンプの身を固いものみたいなので覆ってる。でもその固いものも固過ぎず、普通に歯で噛み切れる)


 これでも一応はギルドマスターの一人。

 少なくない給料を国から貰うアキナは、多少は美味しいものに詳しい自負があったのだが。


(ソースも美味しい。濃厚で、程よい酸味と強い旨味に溢れてる。……卵も入ってるわね。ソースだけでもかなりの満足感)


 初めて食べる揚げ物、初めて味わうタルタルソース。

 それらに、文字通りハンマーで殴られたような衝撃を受けるアキナは。


(当たり前に入ってる千切りの野菜も瑞々しくて美味しいし、何より味が全体的に高い所でまとまってる!)


 そこから、もの凄い勢いでにエビカツバーガーを平らげて。


「美味し過ぎるんですけど!?」


 頬を膨らませ、理不尽な怒りを四人に向ける。

 ――が、


「分かりますわ。本当に怒りたくなるくらい美味しいですわよね」

「これを食べたら大変だぞ? 普通の店で食事をするのが躊躇われるくらいにはな」

「わしらの悩みの種じゃな。普段の食事の悲しさと言ったら……」

「一応できる範囲で再現はしてるんだがな。……やはり食材がいくつも足りない」


 リリウムからは同意され、マジャリスからは悪い顔をされ。

 ガブロからはため息付きでやっぱり同意され、ラベンドラからは希望の糸が垂らされる。


「再現!? 出来るの!?」

「俺を誰だと思っている? 現にいくつか再現に成功した料理があるんだぞ?」

「買う!! 言い値で買う!!」


 そんな希望の糸に即座に飛びつくが。


「待て。そう気軽に作れるようなものじゃあない。何度も言うが素材が足りないんだ。……そうだ、そっちのギルドに都合がつく素材はないか? 俺が今探しているのは……」


 その日を境に、レシュラック領の冒険者ギルドでは、魔物の素材に関する買取が従来よりもいい値段で行われるようになったという。

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