第39話 自作水餃子

「で? 姉貴は何してんの?」


 朝食を終え、しばしのリラックスタイム。

 ……であるというのに、姉貴はノートパソコンと睨めっこ中。

 だもんで何してんのかと尋ねてみたら。


「ちょっとヨーロッパ行きの格安チケットを確認中。あと宿も」


 とのこと。

 旅行か? とも思ったわけだが、


「仕事だからね?」


 聞く前に念を押されちゃったよ。


「宝石の買い付けに行こうと思っててさ。何でも、ドイツがいいらしいのよ」


 と、聞いてないのに補足説明までくれた。

 その『いい』って言うのは値段的にかい? それとも質的にかい?


「あと、中国にも行っときたい。何人か顔知ってる人居るから」


 なんて言いながらまたノーパソと睨めっこ。

 アレだね。宝石商なんて言うから船に乗って優雅に~みたいなイメージを勝手に想像してたけど、これが現実か。

 ……まぁ、姉貴だしなぁ。

 船に乗ってワイン片手に優雅な仕事なんてのは想像つかんわ。


「失礼な事考えてない?」

「滅相もございません」


 勘だけはいいんだよな。

 危ない危ない。


「あ、そうそう。お昼のリクエストしていい?」

「あんま難しい料理は無理だぞ?」

「知ってる。いや、今中国の人と話してたんだけど、餃子が美味しいみたいな話になってね?」

「……作れと?」

「そ。よろしく」


 よろしく、と言われたが餃子ねぇ。

 出来れば夜にしたいんだが……!!

 いいねぇ! 餃子!! いいじゃん!!


「思いついたから買い出し行くけどなんか欲しいものある?」

「果汁100%のオレンジジュースとナッツ系の入ったチョコ」

「あいあい」


 姉貴からのお使いもついでに引き受けて、いざ、スーパー!!



 帰宅。

 いやぁ……久しぶりに作るなぁ、餃子。

 気合入れて材料買ってきたけど大丈夫かな?

 消化しきれるか?

 ……まぁ、平気か。

 というわけで早速お昼ご飯の仕込みをやっていきましょう。

 まずは皮作りから。

 ……え? 普通皮から作るよね? ――冗談です。

 今日のお昼は水餃子にする予定なので、その為の皮作りです。はい。

 本場中国だと確か餃子って主食なんよな。米と一緒。

 だから、日本の餃子より皮が厚くて、もちもちしてる……らしい。

 なので折角だからそれを再現しようかなぁと、ね。


「ん、お帰り」

「ただま。ほい、頼まれてたやつ」

「さんきゅ。出来たら呼んで」

「あいよ。手伝うとは言わんのね」

「私の料理の腕とか知ってるでしょ。手伝わさすな」

「はいはい」


 姉貴の料理の腕前は色々と酷い。

 いや、メシマズってわけじゃない。

 ……卵を割ると絶対に殻が入ったりとか、包丁を使うと指の皮か肉を絶対に巻き込むとか、そんな感じ。

 色々と気を付ければ料理は出来るんだろうけど、やろうとしない。

 料理以外はマジで優秀なんだけどね、姉貴。

 全教科で俺より上だし、何ならスポーツも出来る。

 高校はバスケやってて、結構いい所までいってた。

 ……だからなんだろうね。

 姉貴が苦手な料理を俺が頑張るようになったの。

 勉強も、スポーツも、姉貴に勝てなかったから、唯一姉貴が苦手な分野を練習したんだろうね。

 ま、今となってはその姉貴が苦手な料理が俺の趣味になってるなんて、分からないもんよ。


「じゃあまずは……と」


 買って来た強力粉と薄力粉を混ぜ、水をちょっとずつ加えながら捏ね捏ね。

 艶が出てくるまで必死に捏ねるべし!

 艶が出てきたら濡れ布巾を被せて放置。

 放置中に具の準備をしますわぞ~。

 取り出したるは冷凍していたブタノヨウナナニカ、そしてエビダトオモワレルモノ。

 ブタノヨウナナニカはレンジに放り込んで解凍モードで解凍。

 その間にエビダトオモワレルモノの仕込みをば。

 エビダトオモワレルモノ、生姜、ニラ、ニンニク、醤油を細かく叩いて混ぜ合わせ。

 はい、エビ水餃子の具、完成。

 こんなんなんぼあってもいいですからね。不味いわけないし。

 そして解凍の終わったブタノヨウナナニカ肉を適当に切り出し。

 ネギ、ニラ、生姜、ニンニク、シイタケ、白菜。そして生ハムの原木のようなトリッポイオニクを、ブタノヨウナナニカと共にエビダトオモワレルモノと同じく包丁で叩いて混ぜ合わせる。

 ……もちろんだけど物理的に叩いてるわけじゃないよ?

 こう、包丁で切りながら混ぜるというか……。

 ネギトロを思い出して、あれをブタノヨウナナニカやエビダトオモワレルモノでやってるって想像して貰えば間違いない。

 んで、ブタノヨウナナニカとトリッポイオニクが叩き終わったら、ここに塩コショウ、ごま油を垂らし、ついでにお酒も少々。

 そっからさらに叩いて混ぜて、具の完成。

 市販のひき肉とは比べ物にならないくらい肉が塊で残ってるけど、むしろそっちのが美味しそうじゃない?

 こう、肉肉しい餃子ってそれだけで美味いじゃん?


「今から皮に包むけど、手伝う気は?」

「出来たら声掛けて~」

「カフェオレ買ってきたけど飲む?」

「飲む~」


 姉貴はああなので引き続き一人でやってきましょう。

 一時間ほど放置した生地を適当な大きさにちぎって押しつぶし、広げましたら具を落とし。

 包んで閉じて、ハイ完成。

 以下、五千倍速。

 ――――出来ました。疲れた。

 単純作業が一番つらいね。弁当にタンポポを乗せる仕事とかやったら発狂する自信があるわ、俺。

 ……まだ餃子が出来上がっただけなので、こっからスープの作成。

 と言ってもスープは楽よ。

 もやしとニラと薄く切ったニンジン入れて、塩コショウ。

 そして味覇……!! 中華最強の万能だしっ……!! 半練りタイプ……っ!!

 こいつで味を整えたら、後は餃子を……先に茹でましょうね。

 うん。流石に別で茹でよう。

 というわけで餃子は別でしっかり茹でて、スープに投入して完成。


「姉貴ー、出来たぞ~」

「ん~」


 今の返事は多分了解の意。

 つ~か姉貴、昨日帰ってきて寛ぎ過ぎじゃね?

 いや、間違いなく自分の家ではあるんだけどさ。


「そういや、まだ姉貴の部屋残ってたろ? そっちに居りゃあいいのに」


 流石にいくら姉とはいえ勝手に部屋とか使ってないし、なんて思ったら、


「埃っぽ過ぎて無理」


 だとさ。


「掃除くらいしなよ……」


 呆れて言うと、


「あんまり家でゆっくりしないだろうからなぁ」


 だそうで。

 まぁ、早速海外に宝石を買いに行こうとしてるしね。

 そういう生活するんだろうね、今後。


「ま、とりあえず出来たから食おう。不味くはないはずだから」

「あいあい」


 スープを大きめの丼にたっぷりよそい、昼食。

 ……餃子、デカくし過ぎたかな。握り拳くらいの大きさになっちゃってるや。

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