第14話 大人のやる気スイッチ

「いただきます」


 しっかりと手を合わせ、四人には悪いけど誰よりも先に手をつける。

 だってさ、作ってる時からずっといい匂いしてるんだもんよ。

 空腹だし、我慢出来んて。

 ブタノヨウナナニカキムチを程よく白米の上に乗せ、丼を傾けて掻っ込んで。

 ――ん~!! ガツンと来るニンニクの香り!!

 キムチの辛みとうま味!! そしてそれらに包まれた肉!!

 丼の具がちょっとご飯泥棒過ぎる。白米がいくらあっても足りんわこれ。


「い、いただきますわ」


 俺の掻っ込む姿を見た四人は、辛抱たまらんと言った様子で丼を持ち上げ。

 俺と同じように、丼を傾け、顔を差し込まんばかりに掻っ込んでいった。


「ふぉー-っ!! 口ん中が燃えそうじゃわい! こりゃなんの香辛料じゃ!?」


 掻っ込んだ瞬間に声を上げたのはガブロさん。

 反応的に多分ニンニクに対するコメントだな。

 ニンニク……向こうの世界に無いのかなぁ?


「風味的には『――』の実……? いや、もう少し強いか。辛みもあまり味わったことのないタイプだ。刺激はあるが尖っていない。丸みのある辛さ……」


 ラベンドラさんは食べながら分析しているみたい。

 ところどころ聞き取れない言葉があるから、向こうのモンスターの素材で似た味を探している感じかな?

 異世界で現代の飯を再現するってかなり大変そうだよなぁ。

 香辛料やら、化学調味料やらの関係で。

 出汁とかの概念もなさそうだし。


「チーズが抜群に米と具に合う。というか、これはいくらでも入りそうだ」


 色んな意味で騒がしい二人を余所に、静かに掻っ込み続けていたマジャリスさんは。

 ようやく丼から顔を離したかと思うとそう感想を漏らし。


「んっ、んっ、んっ、プハッ。飲み込んだ後のお茶が美味しいですわ~」


 男性陣とは違う楽しみ方を見出したリリウムさんには、ちゃんとお茶のお代わりを注いであげる。


「こういう力が湧く飯は、ダンジョンの最下層前に食いたいのう!」

「同意。ただ、中々再現するには骨が折れそうだ」

「それは今のままでは、だろう? 今後ランクが上がっていけば、まだ見ぬ素材に触れる機会が増える。そうなれば、また可能性は広がっていくはずだ」


 なんて男性陣が盛り上がる中、


「気になったのですけど、このお肉はカケルが薄く切ったのですか?」


 と、リリウムさんに質問された。


「え? あ、はい。この料理……というか、俺らの国ではこれくらいの薄さの肉を使う事も多いので……」


 薄切り肉って汎用性が高いんだよね。

 煮物とかにもいけるし、焼きにも、炒めにも使える。

 揚げ物だって、薄切り肉を重ねて作るミルフィーユカツとかあるしね。


「俺らの世界じゃ、こんな薄く切ってはあまり使わないな」

「というか、切り方とか気にしたことなかったぞい。好みの厚さに切って、焼いて終わりじゃ」

「だからこそ、冷めたら固くて食えたもんじゃなかったが……そうか、薄く切るのか」

「料理に時間を使うという習慣が、あまりありませんものね」


 まぁ、冒険者だしなぁ。

 悠長に飯作って、その間に襲われました、じゃ話にならんだろうし。


「それに、驚いたのは野菜と肉をまとめて調理している事だな」

「普通は野菜は野菜、肉は肉で調理しておったのぅ」


 ほーん? いわゆる肉野菜炒めが存在しない世界かぁ……。

 こう、勝手な偏見だけど、栄養偏ってそうだな。

 なんというか、あんまり野菜だけって取ろうとは思わなくない?

 カレーとか、丼とかに入ってたら喜んで食うけど。

 野菜炒めだけとかであんまり食べないよな……。

 いや、俺がそう言う料理を作らないだけかもしれないけどさ。


「普段はやはり肉中心の食事になるから、正直野菜が入っているのはありがたいな」

「体力回復の観点から、やはりそうなりがちですものね。栄養面を考えると、カケルのご飯はかなりバランスがいいですわ」


 どうやら四人も同じらしい。

 というか、急に褒めないで欲しい。びっくりするから。

 照れ隠しにご飯を掻っ込むと、案の定というか、予想通りと言うか。

 ブタノヨウナナニカキムチが結構残った状態で白米が無くなっちゃったや。

 結構計算して食べてたんだけどなぁ。

 仕方がない。


「俺、酒飲みますけど皆さんどうですか?」


 イメージ先行で申し訳ないが、多分だけど一人には聞く必要が無いんだよな。


「酒っ!? 飲む!! 飲むぞい!!」


 ドワーフっていっつもそうですよね!! 酒酒酒酒!! 恥ずかしくないんですかっ!!

 というのは冗談。もう共通認識でしょ。ドワーフが酒好きなのは。


「俺はいい。酒はどうも苦手だ」

「私も遠慮させていただきます。酔うと魔力が暴走する可能性があるので」


 マジャリスさんとリリウムさんが断る中、


「俺は少し貰おう。この世界の酒に興味がある」


 食の探究者、ラベンドラさんはエルフの中で唯一のテイストを希望。

 というわけで、エルフの加護……かは分からないけど、宝くじで当たった金で買って来たビールをドーーン!!

 今まで冷蔵庫で冷やしてたからキンッキンに冷えてやがるぜ!

 ちなみに黒丸に星のラベルのビールである。

 俺はめっぽうこれが好きでね……。

 二人にそれぞれビールを配り、プルタブの開け方を教えまして。

 プシュッ! カシュッ! カコッ! と、大人のやる気スイッチが三つ入ったところで、


「乾杯!!」


 三人で缶を合わせてそのまま呷る!

 グッビグッビと喉へと送り込むと、程よい炭酸とさわやかな香りに刺激され。

 スッキリとした喉越しに生を実感する。

 あ~……このために生きてんだなぁ!!


「カーッ!! ウマい!! 香りがちと弱いが喉越しが爽快じゃわい!!」

「驚いたな……。エールのようだが、どこか違う。ガブロの言う通り、喉越しがいいし、何より後味がすっきりしている」

「今日の丼の具をツマミにすると絶対合いますよ」


 というか、そうするために俺は出したし。

 ちなみにリリウムさんとマジャリスさんは麦茶を酒のように呷ってたから、無くなったらすぐ注ぎ足してた。

 俺らだけ酒飲むのもなんか申し訳ないし。


「ありゃ、もうなくなったわい」


 言われた通り、ブタノヨウナナニカキムチをツマミに飲み始めたら、直ぐに一缶飲み干してしまったガブロさん。

 ウマいよなぁ、缶ビール。

 んで、少ないよなぁ……。


「おかわりは?」

「もちろんいる!!」


 で、聞くまでもなかった、と。


「ラベンドラさんはどうです?」

「俺はいい。これをゆっくり飲ませてもらう」


 と、ガブロさんとは対照的にチビチビ飲んでいるらしいラベンドラさん。

 多分、また味の分析とかしてるんだろうな。


「ほい、どうぞ」

「すまんのぅ」


 ガブロさんに二本目を渡し、幸福の福音が聞こえたのを合図に、


「実は、気になってた事があるんですけど……」


 と、俺がずっと聞きたかったことを四人に尋ねてみた。

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