第15話 聞かない方が良かったかもしれない

「この間、ガブロさんがでっかい斧を振り回していたじゃないですか?」

「ん? おお! これの事か!?」


 と、頼んでもいないのに、どこからかガブロさんの全身が隠せそうな大きさの刃を持つ斧を取り出して。


「そ、それですけどとりあえずしまってください!!」


 一旦武器を引っ込めるようお願いし。

 それに従って、どこかへと斧を納めたのを確認して続きを切り出す。


「それで気になったんですけど、皆さんってどんな武器を使ってるんですか?」


 やっぱり男としてさ、気になるじゃん? 武器って。

 俺のイメージだけど、エルフは魔法とか弓矢とか、遠距離からの攻撃主体ってイメージだし。

 そうなると、斧持ってるガブロさんが前衛として、後衛三人ってのは前衛にかかる負担がデカくないか? と。

 気になったのなら聞いてみようという事で、こうして尋ねてみた次第。


「ワシは今見せた斧じゃな。雷属性と土属性を付与した特別な戦斧じゃぞい」


 そんな俺の問いかけに真っ先に答えたのはガブロさん。

 んー、仕事の上司の言葉だけど、相手から何か情報を聞き出す時は酒の席に限る。それも、一杯目を飲み干して、二杯目を注文してから聞くべしってのはハズレが無いな。

 あまり言いたくなさそうだったエルフ達三人も、半分呆れたような、諦めたような顔でガブロさんを見てるし。

 何度かあったんだろうなぁ、こういうの。


「俺が疎いだけでしょうけど、異なる属性二つを付与するって出来るんですか?」


 俺の武器に対する知識って、某狩りゲーのものなんだけど、そのゲームだと基本的に一つしか属性は付与されないはずなんだよな。

 双剣だと、片方ずつ別属性ってのはあったけど。


「普通は無理じゃぞい。ただ、ワシらのパーティには凄腕の付与士がおるからのぅ」


 どうやら四人の世界でも二種類の属性が付与されるのは珍しいっぽい?

 んで、それを可能にしている誰かが居る……と。

 リリウムさんは転移士って言ってたし、ラベンドラさんは料理人。

 となると、残ったマジャリスさんじゃないか?


「全く、ガブロは酒が入るとすぐにこれだ。ペラペラと喋りやがって」


 と、そこまで言ったガブロさんに悪態をつくラベンドラさんだが、


「カケルがワシらの情報を知ってどうこう出来るわけ無いわい」


 涼しい顔でビールを呷るガブロさん。


「おかわり!」


 で、おかわり要求。

 まぁ、この話聞く駄賃って事にしときますよ。


「ガブロが言う事も一理ある。……俺のはこれだ」


 ガブロさんにおかわりを渡すと、ラベンドラさんがこれまたどこからか双剣を取り出し、見せてくれた。

 双剣と言っても、かなり短い。どっちかと言うと、ダガーって表現する方が正しい気がする。


「風と毒を付与してあって、杖などに用いられる魔力媒体を芯に入れているから魔法も撃てる。初級の魔法を駆使して死角や隙を作り、急所に攻撃を叩き込むのが俺のスタイルだな」


 と、戦い方の説明までしてくれた。

 ……って、待て。近距離戦闘しながら魔法を使うの?

 俺のイメージ魔法は集中しなくちゃ行えないものだ。

 詠唱も、それを補助する目的もあるはずだし。

 それを前衛で戦いながら? 脳みそのリソースどうなってるの?


「はぁ……。俺は弓矢だ。付与属性は風だが矢筒にとんでもない魔法を付与している」


 先の二人の説明を聞き、ため息をついたマジャリスさんは。

 観念した、という様子で虚空から弓矢と矢筒を取り出して。


「矢筒に、矢の本数が減少しないという魔法を付与している。他にも、この矢筒の矢には必中の魔法と不可視の魔法が――」


 いや盛り過ぎぃっ!!

 まずそもそも矢が減らないって何!?

 物理法則いずどこっ!?

 んで必中はまぁいいや。それ自体はありそうだし。

 んで不可視!? 絶対に当たる見えない攻撃? クソゲーやんけ!!

 あとやっぱお前付与士だろ!! だからそんなに盛り盛りにしてるんだ!!


「最後は私ですわね……。これなんですけど」


 最後におずおずと出してきたのはリリウムさん。

 手に持っているのは……、


「チャクラム?」


 確かそんな名前だった気がする。

 要は円型の投擲武器で、刃物が付いてるやつ。


「よくご存じで。私はこれと、今は持ち合わせていませんけど杖を切り替えて戦いますわ。戦闘はもっぱら後衛。チャクラムの投擲と魔法とで前衛をサポートしますの」

「武器なのに、杖は今持ってないんですか?」

「はい。良い素材が手に入ったので現在強化中なのです」


 あ、なるほど?

 確かに狩りゲーでも武器強化あったわ。

 なんか、より上位の武器に買い替えるイメージが強かったのはなんでだろう。

 最近読んでた異世界漫画の影響かもしれん。


「チャクラムに付与されているのは五属性全て。それに追加で必中と召喚、炸裂の魔法も付与されています」


 ……ん? なんて?

 なんか耳を疑う言葉ばかりだったと思うんだけど?


「五属性?」

「はい。地、水、炎、風、雷の五属性が付与されています」


 ――もしかして、マジャリスさんが付与士じゃない?

 リリウムさんの説明聞くと、マジャリスさんの弓矢矢筒も控えめに感じるんだけど。


「召喚というのは……?」

「私が念じれば手元に戻ってくるという魔法ですわ」

「な、なるほど。では炸裂というのは?」

「私が念じればその場で炸裂し、刃片となって周囲を攻撃しますわ」


 えっと……リリウムさんって、結構容赦ない性格してる?

 いや、モンスター相手に容赦とかしてる場合じゃないんだろうけども。


「炸裂させたチャクラムも、召喚すれば元に戻って帰ってきますし、かなり便利ですわ」


 そりゃ便利だろうさ。

 そんだけ盛り盛りの性能してれば。


「じゃ、じゃあ俺は皆さんが持ち帰るご飯の用意して来ますね」


 恐らくそんな事はしないだろうが、ぶっちゃけいつそのチャクラムが炸裂するか分からない。

 俺に向けてそれが放たれることは無いよう祈りつつ、俺は、みんなへのお持ち帰りを用意するのだった。

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