第16話 閑話 オフチョベットしたテフをマブガットしてリット

 と思ったのだが。

 ラベンドラさんから、


「俺らが持ち帰る分、材料だけ貰う事は可能か?」


 なんて尋ねられた。

 別に構わないけど、と答えると、


「であれば、レシピも教えて欲しい。向こうで出来立てを食いたくてな」


 だそうで。

 というわけで向こうで作るならと豚キムチチャーハーンのレシピを教えてあげたよ。

 こま切れにしたブタノヨウナナニカ肉、徳用キムチ2㎏、あと塩コショウを少々。

 後は米を渡して炊き方も教えて、見送ることに。

 本当はパンに挟む予定だったから、米は多く炊いてなかったんだよね。


「それじゃあ、今日も世話になった」

「今日も変わらず美味かったぞい! 次も酒があると嬉しいわい!」

「次回も、楽しみにしていますわね」

「そろそろ肉も尽きる頃だろう? また素材を持って来るさ」


 紫の魔法陣を出現させ、別れの言葉を口にする四人に、


「あっ! 最後に何ですけど、教えた料理は火力が命です。うんとフライパンを熱して作ってください!」


 と叫ぶと。

 ラベンドラさんが、こちらを振り向かずにサムズアップして魔法陣を潜っていった。

 …………さて、と。風呂入って寝ますか。

 ほんの少し酔いが回り、ちょっとだけふらつく足取りで食器洗浄機に今夜使った食器をセットし起動して。

 俺はそのまま風呂に入り、ベッドへと倒れこむのだった。



「一体何が始まるって言うんだ?」


 元の世界に戻った四人は宿屋にて就寝。

 そして目を覚ますと、ギルドに出勤前だったオズワルドを捕まえて。

 宿屋の主人に断わりを入れ、あらかじめ炊いていた米を回収して、町の外へ。

 訳も分からず連れてこられたオズワルドは、神妙な顔で詠唱するエルフ三人を見ながらそう戸惑っていると。


「始めるぞ。下がっていろ」


 詠唱を終えたらしいエルフ三人の内、リリウムとマジャリスがオズワルド、ガブロと並ぶ位置まで下がってきた。

 そして、


「フレイムウォール!!」


 リリウムが、範囲型の対炎効果のある魔法障壁を展開。

 その直後、


「セルフバーニング!!」


 ラベンドラの身体が、猛烈な勢いで発火。

 火だるまになりながらラベンドラは虚空へと腕を突っ込み……。


「な、鍋?」


 オズワルドが困惑する中、取り出した底の浅い、中華鍋のような形状の鍋を抱き抱えて熱し始めた。


「な、何をしているんだ?」


 おおよそ普段では考えられない、火だるまになりながら鍋を抱き抱えるエルフという光景に驚きの隠せないオズワルドへ。


「調理に決まっているだろう?」


 と、至極当然のごとく真顔で言い放つマジャリス。

 自分の知る調理とはもはや逸脱しすぎた光景に、オズワルドの脳はいよいよ理解を拒み始めるが。


「よし」


 ラベンドラが小さく頷き、鍋の中に材料を投下。


「お、おい。ありゃあなんだ?」

「あれはスノーボアの脂身を細かく刻んだものと、薄く小さく切った赤身だ。あれを超高温で熱し、脂を十分に鍋に馴染ませながら火を通す」


 ようやく調理の範疇に入り始めた映像に脳みそが理解を示し。

 自分の想像で足りない部分をマジャリスからの補足説明で補っていくオズワルド。

 そんなオズワルドにはお構いなしに、次々と作業を進めていくラベンドラ。


「あれは?」

「さっきまで宿屋で炊いていた米という食べ物だ。その直後に入れたのは溶き卵」


 手際よく米、卵と鍋に投入し、勢いよく鍋を振りながら米に卵を纏わせて炒め。

 そこに塩コショウを振りまき、翔から受け取ったとっておきの調味料を投入。

 味覇……!! 中華最強の万能調味料……!! 半練りタイプ……ッ!!

 なお、流石にチューブごと渡すわけにはいかないと思ったらしく、小皿に必要量出して渡してあるようだ。

 そしてこれらも全体に馴染んだところで、いよいよ登場キムチ……ッ!!

 徳用……っ!! 2㎏……っ!!


「お、おい。あの真っ赤なのはなんだ!?」


 終始驚きっぱなしのオズワルド。


「あれこそが今回の目玉。譲り受けてきた特別な漬物」

「たっぷりの香辛料で舌にピリリと来る辛みが特徴的じゃわい」

「ただ辛いだけじゃありませんわ。辛みの奥にうま味、程よい酸味。様々な味が絶妙なバランスで調和していますの」

「どうした急に?」


 キムチについてオズワルドが三人から説明を受けている間に、調理はいよいよクライマックスに。

 キムチの汁気が飛び、全体に馴染んだところでラベンドラはセルフバーニングを解除。

 それを見てリリウムはファイアウォールを解除すると。


「ぐっ……」


 胸を押さえて膝をついたラベンドラに駆け寄り、魔法によって鍋を浮かす。

 一瞬鍋を受け取ろうとしたが、つい先ほどまで加熱されていた鍋は到底素手で持てるような熱さではなく。

 かと言って鍋を受け取らなければ、ラベンドラは地面に落としかねない。

 そう考えての行動だった。


「思った以上に魔力の消費が激しい。……セルフバーニングの長時間使用がここまでキツイとはな」

「普段は一瞬で充分だもんな、お疲れさん」


 膝をついたラベンドラにマジャリスが労いの言葉をかけ、ガブロがどこからともなく皿を用意。

 その皿に、リリウムの裁量で出来立てのキムチチャーハンを盛り付けていく。


「これが……例のシェフのレシピか?」

「ああ。恐らく完全再現だ。必要な材料は全て譲り受けてきたしな」


 ガブロから皿とスプーンを受け取り、初めてのキムチチャーハンを目の前に、喉を鳴らしたオズワルドは。


「料理名は……」


 食べる前、敬意を払う為にこの料理の名称を聞いた。

 それに対しラベンドラは……。


「この料理の名前は――チャハハーンだ!!」


 間違えて覚えてしまった名前を、迫真の勢いで言ってしまうのだった。

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