第141話 ぬめりぬめぬめ

 買い物……ヨシ!

 押し入れの中に眠ってたホットプレートを引っ張り出す作業……ヨシ!

 そのホットプレートに取り付けるタイプのタコ焼き器……ヨシ!!


「こいつら使うの久しぶりだな」


 どこの家庭にでもあるホットプレートとタコ焼き器のセット。

 買ったはいいけどあまり使う機会がなくて、気が付けば年末の掃除とかで押し入れの奥底とかに押し込まれるんだ……。

 流石にホットプレートとタコ焼き器はどこの家庭にでもあるよね?

 あるな? あるって言え。

 とりあえず引っ張り出した直後なので丁寧に洗いまして。

 アルコールスプレーで拭き上げて消毒も完璧。

 タコ焼きといえばな竹串も準備済みだし、爪楊枝ももちろんある。

 今日の俺は、ねじり鉢巻きを頭に巻いた、屋台のたこ焼き屋の店主な気分。

 あくまで気分だけども。

 というわけで、各種材料の準備をしてきましょう。


「ありがてぇ……っ! キンッキンに冷えてやがる……っ!!」


 前日切り分けて冷凍庫にぶち込んでいた異世界ダコ――こいつを一旦流水解凍。

 で、解凍している間に他の材料の用意。

 既に刻まれたネギ、刻まれた紅ショウガ……こいつらには手を加える必要はない。

 んでですよ、こんにゃく! こいつを塩揉みして臭みを抜いて行きましょう。

 タコ焼きにこんにゃくを入れるのはあまりメジャーではないかもしれない。

 けど俺めっちゃ好きなんだよな。

 タコとはまた違った食感で、その違いのアクセントがいい感じなんだ。

 というわけで塩揉みしたこんにゃくを角切りに。

 大きすぎるとタコより主張が強くなるし、小さいとあまりにも主張をしなくなる。

 このこんにゃくの大きさが俺流タコ焼きの秘訣といっても過言ではないだろう。

 なお、切る大きさは大体で適当なもよう。食えりゃあええねん。


「解凍出来たか?」


 流水解凍してたタコがいいっぽいんで、こいつをボウルに移し。

 たっぷりの塩で、ぬめりを落としていく。

 他の料理には塩を揉みこみ過ぎると影響出るけど、今回はタコ焼き。

 そんな多少の塩辛さなんざ吹っ飛ばすソースを使うんでね、普通より遠慮なくも見込んでも問題ない。


「にしてもすっげぇな、ぬめり」


 というか、塩をケチってどうこうなるぬめりじゃない。

 解凍した瞬間、持っても滑り落ちるくらいの強いぬめりが復活したよ。

 昨日の夜は大変だった……。ぬめりのせいで包丁が滑ってさ。

 あわや……なんて場面が何回かあったもん。

 で、塩で揉んだらもうぬめりで濁った塩がさ。

 これでもかと出てくるんだ。マジで引くくらいのぬめりだったわ。

 ラベンドラさん達はこのぬめりを処理しないで食ったの? と思わず絶句したくなるほどには量出てきたぞ。


「こんなもんか」


 流水で濁った塩を洗い流し、まだぬめるからと塩揉みダブルツインマークツーセカンドを開始して。

 ようやく俺の知るタコの手触りになった事を確認し、再度洗い流し。

 ふぅ、下ごしらえだけでも一苦労ですねこりゃ。

 ともあれぬめりが落ちたので、一旦茹でまして。

 そこからタコ焼き用の大きさにカット。

 タコ焼き器の大きさと比べて、ギリギリ入るくらいの大きさに欲張ってみました。

 タコ焼きのタコはデカい方が幸福感が強い。

 あと美味い。

 というわけでタコが切り終わったら、ちょっと味見。

 これでタコの味じゃなかったら大爆笑ですわよ。


「んー!! んっめ!!」


 安心してください、タコでしたよ。

 例に漏れず異世界産の魔物は美味いなぁ。

 ただ茹でただけでジュワッとうま味の汁が溢れてくるし、食感は当たり前に柔らか。

 タコ特有の噛み切れなさはあるものの、それも許容範囲。

 あー……桜煮もいいなぁ。

 某漫画の入れ歯ですら噛み切れる桜煮。試してみたかったんだよなぁ。

 ていうか、醤油も何も付けてないのに身の味だけで普通に美味かったな。

 ふぅむ……命名!! たった今から貴様の名前は、『ニンテイタコカイナ』だ!

 十中八九タコだろうが、異世界だと多分呼び方違うでしょ。

 こっちの世界でもデビルフィッシュなんて呼ばれてたし?

 じゃあこれくらいあやふやな名前の方がしっくりくるって事よ。


「んじゃあ生地を作って待っときますか」


 ニンテイタコカイナの試食も済ませたところで、いよいよ準備は最終局面へ。

 取り出したるはソースと同じくお面をパッケージにしているたこ焼き粉。

 それの大体百個ほど作れるやつをご用意。

 流石にあの四人と言えど、たこ焼き百個は食えねぇだろ。

 食えないよね? 大丈夫だよね?

 一応同じのがもう一袋用意してはいるけど、そっちにまで手を出すことになったらどうしよう……。

 さ、流石に大丈夫……なはず。

 いくらお腹にキングベヒんもスを飼っているとはいえ……。


「どうしよう……百個分とかどれだけの量になるか想像がつかん……」


 で、いざ作ろうとしたら普段使いしてるボウルで足りるのか問題が出てきた。

 というわけでもう一度押し入れ大捜索をかましまして。

 風呂桶レベルの大きさのボウルを引っ張り出してきたわぞ~。

 こいつを丹念に洗い、アルコールで消毒しまして。

 袋に書いてある分量を正確に測り、たこ焼きの生地の完成。

 残りは、四人が来てからなり。

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