第264話 やらかしコンビ

 さっきまでカパカパ飲んでたのに、貴腐ワインの作り方を知って滅茶苦茶チビチビ飲み始めてて笑ってる。

 そのワインと一緒に食べるものが焼けましたわぞ~。


「パイ、か」

「確かにワインと合わせるには最適ですわね」


 というわけで、アップルパイを六等分に切りまして。

 フォークと共に、皆へと配る。


「……綺麗だ」

「光沢を感じられるパイの焼き加減……職人の腕が伺えるな」


 とかなんとか言ってますけども?


「姉貴、アレどこで買って来たの?」

「駅前のケーキ屋さん。お店の人に言って、おっきいの焼いて貰った」


 ヒソヒソと小さな声で姉貴と密談。

 職人……職人か。

 まぁ少なくともケーキのスペシャリストではあるよな。

 アップルパイに限らないってだけで。


「パリパリとパイ生地一枚一枚が香ばしく焼かれておる」

「中の果物が素晴らしい。絶妙な酸味、主張し過ぎない甘み」

「たっぷりと使われているバターも上質なものですわ。香りがとても優雅なものですの」

「そしてこれと共に味わうデザートワインが――」

「「すこぶる合う!!」」


 ダソウデス。

 ではではわたくしも……。

 おお!

 いや待て、デザートワイン云々よりまずアップルパイがうめぇ。

 パリパリサクサクのパイ生地はもちろん、熱が入って柔らかく、より濃厚になったリンゴがうめぇや。

 元々のリンゴの固い食感はないけど、シャク! って感じの柔らか固い食感がパイ生地と絶妙にマッチ。

 あとバターの香りも確かにすごい。

 リンゴの酸味の後にふわりの鼻へと抜けてくる、かなり香ばしいバターの香り。

 全体を取りまとめてるシナモンの香りが最後に主張してきて、俺が食べたアップルパイの中でもかなり上位の美味しさだった。

 ……そこにデザートワインを合わせてみると――。


「!!?」


 しゅごい。

 それまでの香ばしさや酸味、甘みを塗り替える濃厚な甘さは。

 口の中にあった風味全てを含んで急成長。

 ほんの僅かにあった渋味を助力とし、アップルパイの後味を殺すことなく爽やかな風味へと昇華。

 こう、角が取れて丸くなった、みたいな表現があると思うけど、このデザートワインとアップルパイの場合はむしろ楕円。

 綺麗な円でないがゆえに、その歪んだ場所にそれぞれの個性が出てるみたいな。

 なんと言うか、一気にデザートワインが好きになった。


「これ美味しー」

「姉上殿が買って来た二品の相性が最高じゃわい!!」

「素敵ですわお姉さま!!」

「デザートでデザートワインを飲む。思った以上に合うものだ……」

「中のフルーツとも喧嘩していない。……果物だけでも合いそうだぞ」


 テンションぶちあがってらっしゃいますわね。

 分かるわー。

 あと、誰かが言ってたけどそこまでアルコール分が高くないのがいい。

 俺でもある程度気にせず飲めるもん。


「この独特な香りは何だ?」

「果物由来ではありませんの?」

「いや、違う。果物の香りではないが、確実に果物の風味を底上げしているんだ……」

「多分、シナモンですね」


 で、アップルパイの中のリンゴを器用にフォークに乗っけてさ。

 匂いを嗅いだり、恐らくは『鑑定』をしていたラベンドラさん。

 だけど、その疑問はどうやら迷宮入りしそうだったので、助け舟を出してあげた。


「シナモン?」

「えーっと、少々お待ちください」


 悲報、俺氏。シナモンについて、スパイス以外の情報を知らなかった。

 えーっと、なになに?

 ……シナモンって木の内皮なの? 初耳なんだけど!?


「木の内皮らしいですね」

「こんな香りのする木があるのか!?」

「……みたいです」


 そら驚くわ。

 俺だって木から出来てるって知って驚いたんだから。


「この世界には不思議な木があるのだな……」


 異世界からエルフがそれ言います?

 そっちの世界にはもっと不思議な木位あるでしょうよ。

 大体、さっきの枝豆の時に軽くスルーしたけど、蜜を豆状に溜める植物ってどんなのだよ。

 やっぱりいいわ。なんか怖い説明がされそうな予感がしたから。


「そう言えば、ホットワインにシナモン刺して、香りをつけながら飲む人とか居たよ」


 はいここで姉貴が爆弾発言です。

 知らんぞ、俺は。


「ホットワインに……?」

「この香りの香辛料を……?」

「……ぜっっっっっっっっっっっっっったいに美味しいじゃありませんの!!」

「贅沢な飲み方じゃのう」


 ほらぁ。

 ……えーっと、シナモンスティック、通販っと。

 ――あ、全然買える。

 買っておいてやるか……。


「もしかしたら我々が気が付いていないだけで、この香辛料と似たような魔物が居たのかもしれない」

「わざわざトレント系の魔物の内皮なんて嗅ぎませんものね」

「視界に入った瞬間燃やしていたからな」

「一度断裁して内皮を確かめてみるか」


 えー……まだ見ぬ俺の知らない魔物の皆さんへ。

 犯人は俺じゃありません。姉貴です。

 呪うなら姉貴と、好奇心旺盛なエルフ達へお願いします。


「ふぅ。満足も満足、大満足な食事じゃった」

「特にワインだ。今日のワインはどれも美味かった」

「デザートワインが非常に興味をそそられた。向こうでも作る事が出来れば……」

「難しいように思いますわ。作る条件が厳しいですもの」

「一応、貴腐ワイン以外にもアイスワインって種類もありますけどね」


 ……はい、エルフの皆さんが帰るのが十分遅れました。

 俺のせいです。

 アイスワインの製法を見せていたからです。

 ちなみにお持ち帰りは前に流行った萌え断のサンドイッチを。

 たっぷりのマヨやタルタルと共に作って持ち帰ってもらった。

 これでだいぶ冷蔵庫の中もスッキリしたよ。

 ……まだまだマンドラゴラは残っているけどね。

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