第121話 バレテーラ

「お邪魔しますわ~。……あら? あらあらあら?」

「どうかしました?」


 いつも通りに魔法陣を潜ってきたリリウムさん。

 来るなり辺りを見渡したり、何やら匂いを嗅いだり……。


「物凄く美味しそうな食べ物の匂いがする気が……?」

「昨日のフライの匂いが残ってるんですかね?」


 なんて軽く誤魔化しつつ、他の三人を待っていると。


「邪魔するぞい。……ん? 酒に合う飯の匂い」


 なんかガブロさんが斜め上な反応してきた。

 どんな匂いだよ、酒に合う飯の匂いって。

 ――ゴメン、何となく分かるわ。

 魚介とニンニクの匂いとか、絶対に酒に合うだろうなって思っちゃったわ。


「スンスン。これは――カケルの昼飯の匂いか」

「植物油の香りとニンニクの香りがするな。……あとは、『――』の匂いか」


 マズイ……。この人ら、妙に鼻が利くぞ。 

 ちゃんと食事の後は換気扇回して、室内用消臭スプレーも使って掃除したのに。

 あと、ラベンドラさんにはコレ全部バレてるだろってぐらい把握されてるわ。


「カケル」

「はひ」

「後学の為に尋ねるが、どんな料理を昼に食べたのだ?」

「えーっと、アヒージョって料理で……」


 で、調理の前にアヒージョの説明を求められ。

 俺は一人で楽しんでいたお昼ご飯の事を、洗いざらい吐かされるのだった。



「なるほど、そんな料理が……」

「再現はどうだ?」

「絶対に美味しいのですから私たちも食べてみたいですわ」

「酒にも合うじゃろ。……白ワインとかが合いそうじゃな」


 アヒージョの説明を終えたら、こんな感じの反応をされたよ。

 まぁ、誰一人間違ってないと思うよ?

 だって、美味しかったし。


「植物油が少し手に入りにくいくらいで、再現は簡単だ」

「じゃあ早速明日にでも――」

「だが、聞け。この料理は味付けも調理法もシンプルなものだ。そして、そういう料理は素材の良さが味に直結する」

「つまり……?」

「最上の食材を用いることでこそ、この料理の真価が発揮されるということだ」


 アヒージョの話で盛り上がり始めたが、そろそろ晩御飯の調理に入りたい。

 というわけで取り出したるはうなぎのタレ。

 既に見るのが二回目なそのタレの容器を、四人の視界の端に入れてやると……。


「じゃあ明日は食材の調達から――」

「油はお任せしますわ。私は――」

「香辛料ならいつくか手持ちが――」

「そろそろ腹が減った――」


『そのタレは!!!?』


 皆さん、仲いいですね。

 まぁ、パーティ組んでるんだから当然か。


「今日はこのタレで焼いたものを丼に乗っけます」


 瞬間、上がる歓声。

 昇る熱気、バイブスは急上昇。

 やはりうなぎのタレは正義。はっきり分かんだね。


「カケル!! 早速調理を始めよう!!」


 いつの間にかドラゴエプロンを装備したラベンドラさんが、興奮気味にコンロの前に立ってた。

 あまりにも早い移動。俺は見逃しちゃったね。


「もう絶対に美味いわい」

「楽しみですわね~」

「人事を尽くして天命を待つ」


 なお、三人もテーブルに着いて待機済みなもよう。

 あと、マジャリスさんのそれ、翻訳間違えてない?

 出来る準備は全部やったから、後は運が向いてくれるだけ、みたいな意味でしょ?

 食事を待つような場面で発する言葉じゃなくない?

 これあれか? 既に翻訳魔法がバグってるって事か?


「とりあえず、適度な大きさに切ります」


 まぁ、気にしたら負けか。

 今に始まった事じゃないし。

 ……ただなぁ、このせいでマジャリスさんが俺の中では急に変な口調になる面白イケメンなんだよなぁ。

 変な口調になるのを抜きにしても面白イケメンなんだけどさ。

 と、カイルイフシギキノコが切れたら、玉ねぎもくし切りに。

 今日の材料はこれだけ。簡単でいいね。


「これらをタレに絡めて炒めれば完成か?」

「ですです」


 本当の牡蠣とかホタテを使う場合はぬめりを取ったりするんだろうけどさ。

 このカイルイフシギキノコ、何とぬめりとかが無いんだよね。

 ごめん、盛ったわ。ぬめりがないは嘘。

 ただ、本来の牡蠣やホタテと比べて圧倒的に少ない。

 水洗いすればそれだけで済むくらいのぬめり。

 というわけで一度水洗いし、水気をよく切って。

 軽く片栗粉をまぶし、先に玉ねぎをフライパンに投入。

 油を敷いて熱したフライパンで玉ねぎを炒め、しんなりしたらカイルイフシギキノコをフライパンへ。

 キノコに火が通るまで炒めたら、うなぎのタレの登場。

 しっかりと絡めて、完成……と思うじゃん?

 なんかねー、調べたら蜜柑の皮を刻んで乗っけるらしいのよ。

 というわけで買ってきました国産の蜜柑。

 こいつを一つ皮ごと水洗いし、皮を剥きまして。


「あ、こっちの世界の果物ですけど食べてみます?」


 今日用事があるのは皮の方だから、実は使わない。

 だったら、エルフ達に餌付けしちゃおうと思って声をかけたら。


「食べてみたい」

「私もいただけます?」

「ま、また変な味のモノじゃありゃせんか?」

「正真正銘の果物だ」


 とのこと。

 食事の前だし、今剥いたのは一つしかないから、仲良く喧嘩してもらって蜜柑を四等分に。

 俺はその間に、皮の裏側の白い部分をスプーンで削いでいく作業。


「ん! かなり瑞々しく甘いな!」

「程よい酸味が爽やかでいい」

「さっぱりとしていて香りが素晴らしいですわ」

「果物ですらこちらの世界は美味いのだな……」


 そんなエルフ達の食レポを聞きながら、皮の裏の白い部分を削ぎ終わりまして。

 この皮を、細かく刻んで……と。


「ご飯大盛りより盛る方ー?」

『ハイ!!』


 全員が超大盛を希望なので、丼にご飯をよそって。

 刻み海苔を敷き詰め、炒めた具をたっぷりご飯の上に。

 タレもしっかり回しかけ、最後の仕上げにさっき刻んだ蜜柑の皮を散らせば……。

 完成! 牡蠣とホタテのかば焼き丼!

 いざ、実食!!

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