第122話 神の取り分ってそういう……

 まぁ、うん。

 不味いわけ無いんだわな。

 だって牡蠣とホタテとうなぎのタレだぜ?

 この材料使って不味く調理できる奴は恐らく特級呪物扱いだろうよ。

 

「甘辛いタレがよく絡んで美味い……」

「本当にタレだけでもご飯が進みますのに、そこに『――』もあるだなんて」

「掻っ込まん方が無理っちゅー話じゃわい」

「やはり火を通すと『――』は味が濃くなるな。こうして強い味のタレと絡めても、しっかりと味を主張してくる」


 流石に初見ほどのリアクションは無かったけどね。

 でもまぁ、逆に言えば、味を楽しむのに集中出来るって話で。

 みんなじっくり噛み締めて堪能してたよ。

 ん? もちろん俺もさ。

 ていうか蜜柑の皮は最初少し疑ってたんだけどさ。

 合うね。絶妙に。

 あの柑橘系の香りが甘辛いタレのくどさをリフレッシュしてくれるわ。

 一瞬鼻に抜けるさわやかな風味。これだけで、白い部分を頑張って削いだ甲斐があるってもんよ。


「上にかかっている柑橘系の皮がいいアクセントだ」

「こうしてみると、様々な料理に合うのでしょうね」

「思えばジャムくらいしか食べたことが無いな」

「けど肉に合うのはジャムじゃないか? 皮は魚介系と合う印象が強いぞい」


 四人もこの通り、すっかり蜜柑の皮にハマったようだ。

 んで、珍しくガブロさんが的を射た発言したね。

 肉にもまぁ、レモンとかは合わせるけど、柑橘系って魚と合わせるイメージが強い。

 ……大体寿司のせいか。

 イカの上にレモンの皮とか一般的だし。

 そういや、期間限定で回るお寿司にあったみかんブリってネタが美味しかったな。

 本当に身から蜜柑の香りがするんだ。

 というわけで寿司……というか、魚とは相性がいいと思うよ、柑橘系。

 焼いた秋刀魚にかぼすとかすだちとか、最高だよね。

 最近じゃあ秋刀魚も高くなって、中々手を出せなくなってきちゃったけど。

 七輪で焼いた秋刀魚に大根おろし、醤油、すだちの三点セット。

 薄い皮をパリッと箸で割って、脂の染み出る身に醤油をかけた大根おろしを乗せて、一気に口へ。

 ジュワッと溢れる脂のくどさを大根おろしで中和しつつ、即座に白米! 

 あー……秋刀魚食いたくなってきたなぁ。


「柄の方は甘みが強くなるな」

「傘も柄も、どちらも捨てがたいですわ……」

「正しく甲乙つけがたい……」

「どっちも抜群に美味い、で良かろうに」


 そんな俺の気持ちを当然知らない四人は、今度は柄――つまりはホタテの方を食べて盛り上がり中。

 どれどれ俺も――。

 おー、確かに甘さが強い。

 けどあれだな、タレの甘さとはまた違う甘さだ。

 しっとりしててサッと消える、けど決して薄くない甘さ。

 砂糖とかとはまた違う、食材が持つ特有の甘さとでも言うの?

 それがハッキリとしてる感じ。

 そこに追い打ちでタレの味が来るわけですよ裁判長。

 ハチャメチャが押し寄せてきやがる。

 これに対抗するには白米を口の中に放り込むしかねぇ!!


「絶対に酒に合う……絶対に酒に合う……」

「諦めろガブロ。飯まで提供してもらって酒までねだるわけにもいかん」

「第一、元の世界に戻ればお酒はあるでしょうに」

「……? そう言えば、『こっちの世界でも飲むんじゃ!』とか言って、酒瓶を一本抱えていなかったか?」


 む? ガブロさんそんなことしてたの?

 でもこっちに来た時手ぶらだったんじゃ……。


「世界渡る寸前に没収されたわい……」


 物凄く項垂れてそう発したガブロさん。

 没収? 誰に?


「もしかして、神に?」

「うむ。脳に直接、『それはこちらの世界のものだ。異世界には持ち込ません』と響いたわい」

「ふむ……」

「あのー……もしかして、異世界に何か持ち込むのって、神様的にご法度だったりします?」


 ひょっとすると俺は知らない内に異世界の倫理から外れた事をしていたのでは?

 そう恐怖してたんだけど……。


「いや? もしそうなら今までの食材はそもそも持ち込めていない」

「? それもそうですね。じゃあなぜ……」


 そこまで言って、俺はとあることを思い出した。 

 ビーフジャーキーを作る時、時間を進める魔法に関する話の事だ。

 『神の取り分』が無くなるからと、液体に時間を進める魔法を適用出来なくした神様の話。

 まさか……、


「恐らくだが、持ち込もうとしたのがワインだったのがダメだったんじゃろう」


 ですよねー。

 んでも待て? 俺はガブロさんに日本酒を持たせたぞ?

 こっちから向こうの世界に行くのはいいのか?


「そういや、カケルから酒を貰った時は、『それはいいや』と聞こえたな」


 好みの問題か。

 いや、神様の好みってなんだよ。

 神様ってどんだけワイン好きなんだ?


「ねぇガブロ? もしその話が本当なら、こちらの世界からワインを持ち込んだら?」

「多分、盗られるぞい。下手すりゃ全部」

「という事はつまり……?」

「協会の手を介さなくても神に直接捧げものが出来る?」


 お? なんだなんだ?

 面白そうな話してるぞ?


「神への捧げものをするためなのに、仲介料や手続きが面倒だと思っていましたの。でも、もしこの方法で神に直接捧げることが出来るなら」

「他の冒険者達よりも、神の加護を受け取れる可能性がある、か」

「ちなみにカケル、この世界のワイン事情なのだが……」


 ヘイ俺! この世界のワインに関することを教えて!!


「えーっと……銘柄が滅茶苦茶ありますね」

「100とか200とかか?」

「……4桁はいってると思います。何なら五桁あっても不思議じゃありません」

「――嘘やん」


 あ、マジャリスさんがバグった。

 訂正、マジャリスさんの翻訳魔法がバグった。

 マジャリスさんはそんな事言わない。


「ちなみに値段は?」

「ピンキリですよ。お手頃なのから、雲の上の存在のワインまで」

「ふぅむ……」


 そう言って考え込んだ四人は。


「とりあえず、カケルのチョイスで一本買って来てくれないか? もちろん、値段分の宝石は上乗せする」

「ですわね。私からもお願いしますわ」

「追加で私に一本頼む。この世界のワインの味を知っておきたい」

「あ、ズルいぞい! それならわしにも――」


 てな事で、俺チョイスでワインを買ってくることになりまして。

 ワインなんて数えるほどしか買った事無いぞ……。

 ワンチャン姉貴に聞いてみるか。

 少なくとも、俺よりは酒を飲むから詳しいかもしれん。

 なんて思いながら、俺はお持ち帰り用のご飯を作るために席を立った。

 もちろん、ドラゴンエプロンを装着しながらラベンドラさんも。

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