第123話 翔の勝手な挑戦(VS翻訳魔法)
ブタニクタカメウマメの時もそうだったけど、今回もかば焼きとくれば焼きおにぎりでしょ。
というわけで、さっきと同じく柄キノコと笠キノコをかば焼きのタレで炒めまして~。
本日のおにぎりは、天むすスタイルでご提供予定。
具材がちょっぴり米からはみ出した、あの食欲そそる形ね。
「おにぎりか」
「ですです」
「美味しいですわよね。手に持って食べられるお手軽なのもいいですわ」
「移動しながら食事が出来るっちゅーのは嬉しいもんじゃわい」
調理工程を観察していた三人から、こんな事を言われた。
まぁ、移動中の食事にもなるか。
冒険者だと。
「まぁ、基本的に歩きながらとかの食事は行儀が悪いんですけどね、この国だと」
ただしお祭りなどの出店で買った食い物類は除く。
あれらは買ってすぐ食うのが一番うまい。
……とうもろこしとか、たこ焼きとか、焼き鳥とか。
――高いけど。
「我々も出来る限り腰を落ち着けて食事はとるぞ?」
「飯の時くらいはゆっくりしたいわい」
「そうですか。……あれ? でもリリウムさん、転移魔法が使えるんじゃ……?」
「使えますわよ? でも、どこでも使っていいものではありませんの」
そう言って目を伏せるリリウムさん。
なんか決まりでもあるのかな。この世界の交通規則みたいな感じで。
「使用者が少ないせいで、転移魔法を使えると分かると教えろと詰め寄られますの」
「だから、近い町に行くときは普通に歩いて移動する」
「人目に付かない場所があれば転移はするが、そこから町まで距離があったりするからな」
「そういう意味で、移動中に摂れる食事というのはありがたいんじゃ」
ふーむ。なるほどなぁ。
異世界では異世界なりに苦労してそうだなこの人ら。
……もっとも、その苦労は他人からすれば贅沢な話かもしれんが。
だって、転移魔法を知られたくないから町から離れた場所に飛んで、そこから歩いてる。でしょ?
そもそも転移魔法は使えんのよ。
エルフっていっつもそうですよね! 魔法が使えない人たちの事考えたことあるんですか!?
……ないだろうな。うん。
「焼けたら、これをご飯に入れておむすびに……」
で、具材は焼けたらそこまで言って、あれ? と思ったね。
俺、おにぎりって表現はしたことあるけど、おむすびってあったっけ? と。
でも、
「この間のようにすればいいんだな?」
ラベンドラさんは気にしてない様子。
ははーん? さては翻訳魔法がおむすびもおにぎりも一緒の言葉に翻訳してるな?
だったら試してみるか。翻訳魔法の性能とやらを。
「ですです。あ、で、この握り飯からすこし具がはみ出るようにします」
「む、こうか?」
握り飯、セーフっと。
あとは……。
「そしたら、今日は油で揚げましょう」
「油で……?」
「カツとかみたいに油はいっぱいは使わないんですけどね」
フライパンに軽く油を引き、そこできつね色になるまで揚げ焼きを行う。
こうすると、焼きおにぎりより香ばしさとコクが出るってさ。
「揚げ焼きが終わったら、おつくねにタレを塗って完成です」
「なるほど。おにぎりにも色々派生先がある、と」
おつくねも突破か。なんだ、割と翻訳魔法ってガバガバか?
少なくとも、おにぎりに関してはどの表現を使っても『おにぎり』として翻訳されてるっぽいな。
いわゆるライスボールとでも訳されてんのかね。
「これは楽しみになってきたな」
揚げ焼きを終え、タレを塗り。
海苔で包んだ完成形を持ち上げ、見つめながらラベンドラさんの眼がキラキラと光る。
まぁ、もう恒例の言い回しだけど、不味くはならんて。
というわけでこのおにぎりを都合二十個ほど作りまして。
四人に持たせて魔法陣へ消える姿を見送っていると……。
「そうじゃあぁぁっ!!」
消える寸前にガブロさんが叫んで戻ってきた。
なんだなんだ?
「次の食材を渡しとくぞい!!」
そう言って渡されたのは……魚?
それも白身。既に何枚かに下ろされていて、その一枚だと思うんだけど……。
でけぇよ!!
長いから折りたたまれてるんだけど、折りたたんでやっとテーブルに切り乗ってるくらいのデカさだよ!
なんで! こう! 異世界産の食材はどれもこれもデカいんだ!!
「『太刀魚』じゃ。美味い料理を期待しとるぞい!!」
で、そうだけ伝えて魔法陣へと消えたガブロさん。
…………天地明察。
この魚――太刀魚であってたまるかぁっ!!
でけぇんだよ!! 太いんだよ!! あとなんかお腹の所がぶっといんだよ!!
あんまり表現が上手くないけど、腹の部分と思われる場所はヒラメとかの方が見た目が近い。
んで、そこから尻尾にかけて細くなっていくんだけど、尻尾の部分位だと思う。
太刀魚って言われて納得すんの。
……あー、これあれか?
キノコと同じく、部位によって味が変わるパティーンの魚か?
で、尻尾の部分が太刀魚に該当するから、翻訳魔法が太刀魚と翻訳した?
やっぱりガバガバじゃねぇか翻訳魔法。
よくもまぁ魚をこよなく愛する日本人の前でこんな雑な翻訳してくれたもんだぜ。
……はぁ、塩茹でにして食うか。
いや、魚なら焼きたいな。
――十分に火を通せば大丈夫だろ、うん。
異世界の魚は加熱しろ、ってね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます