第161話 現代甘味のお味は……?

「卵を使った……デザート?」

「すまない、カケル。これはどういったものだ?」


 えー、プリンをお出しした時の反応がこれです。

 ……あんまり馴染み無さそう?

 プリンくらいはあるもんだと思ってたけど、まさか異世界には存在しないのか?

 そんな馬鹿な。


「えーと、卵と牛乳と砂糖を混ぜ合わせて蒸したものになります」

「卵と、砂糖と、牛乳……」


 だけどもラベンドラさんの反応がその事を示してるし……。

 あと、俺のイメージでは即座に飛びつきそうだったリリウムさんが反応薄い。

 聞いてみるか。


「もしかして、卵を使ったデザートというのはない感じです?」

「……そうだな。少なくとも私はあまり聞いたことがない」


 ラベンドラさんが知らないってんなら無いんだろうな。

 ……てことはこの人ら、プリンは未知の味ってことぉ?

 カラメルも入れてやればよかったかな……。


「その……美味いんか?」

「この世界だとかなり人気のスイーツですけど……」

「魔物の素材を甘くするという発想がな……」

「一応、クッキーやタルトなどに卵は用いることは用いる。……が、こうして卵をメインにしたスイーツというのは……」


 ん~?

 一応お菓子文化というか、クッキーやタルトはある感じなのね。

 でもプリンはない、と。

 あー……そういや、卵は食材として珍しい的な事言ってなかった?

 このデカクカタイタマゴも、王都のレストランですら滅多に扱えないとか言ってた気がするし。

 ……つまり、贅沢品になる的な?


「とりあえず、一口食べてみてください」

「そう……ですわね」


 という事で皆にスプーンを配り、注視。

 先鋒は誰だ? ……皆に無言の視線を浴びせられ、ラベンドラさんがプリンにスプーンを入れていく。


「かなり柔らかい」


 そして、少し掬ってそのまま口へ。

 どんな反応をするのかと、俺含めた全員が見守る中……。


「美味ぁ……」


 という言葉を残し、ヘブン状態へと突入。

 今までのラベンドラさんからは想像も出来んほどに表情が緩んでおられました。

 あと、語彙がないなってた。

 いつもならこう、滑らかさがどうとかコメントしてそうなものを、たった一言だもんな。


「そ、そんなにですの?」


 と、ラベンドラさんの反応を見て、我慢出来なくなったらしいリリウムさんが二人目の犠牲者。

 ただ、ラベンドラさんの教訓を生かし、食べる前にまずは匂いを嗅いで、味のイメージをしてみる作戦らしい。


「とても甘い匂いで、それでいてフルーティな香りですわ……」


 多分バニラエッセンスの香りかな。

 いい匂いだよね。


「では……」


 頭の中にしっかりと味のイメージを付けたリリウムさんが、意を決してプリンを口へ。

 ――そして、


「ん~~~~♪」


 もうくっそご機嫌になられました。

 見てるこっちが嬉しくなるくらい、美味しいって感情を表情に表してたよ。

 これだよこれ。

 この反応を待ってたんだ。


「ちょ、何しとるんじゃ!」


 で、リリウムさんは手を付けていないガブロさんとマジャリスさんのプリンを奪おうと手を伸ばし。

 すんでのところで二人ともに回収され、収穫は無し。

 

「そこまでか……」


 そのリリウムさんの反応から、ごくりと唾を飲みこんだマジャリスさんが三人目のチャレンジャー。

 そっと掬い、口の中へ。


「ふええぇぇぇ……」


 なんか聞いたことない声出してた。

 そしてなんと言うか、変な確信があるんだけど、これ多分翻訳魔法さん仕事してないな。

 誤訳とかじゃなく、マジャリスさんが吐いた言葉そのままな気がする。

 というか、こんな言葉翻訳出来ないだろうし……。


「滑らかで、冷たく、甘くて、美味い」

「卵を使ってこのようなスイーツが出来るとは……」

「レシピを聞きましょう! そして向こうの世界で王に献上するんですわ!!」


 と、三人のエルフが盛り上がる中。

 一人取り残されたガブロさんは。

 俺だけが見守る中、そっとプリンを一口。

 ――そして、


「なんちゅうもんを食わせてくれたんや……なんちゅうもんを――」


 あ、これ俺知ってるフレーズだ。

 絶対翻訳魔法さんのおふざけだろこの翻訳。

 お前は次に、自分の世界のスイーツはカスや、と言う。


「これに比べたら、わしらの世界のスイーツはカスや」


 ハッ!?

 まぁ、そうなるよな。

 どれどれ、俺も食べてみますか。


「んぉおおっ!?」

 

 思わず叫んじゃったよ。

 なにこれウッマ。

 なんと言うか、衝撃的すぎて自分が急速落下してるような錯覚を覚えた。

 伝わる? 伝われ。

 まず卵の味。

 他の料理でも言われてたけど、まず味が濃い。

 で、その味の濃さが牛乳で引き延ばされ、まろやかでクリーミーになってて。

 そこに加えられた砂糖の甘みが、黄身の濃厚さと相まって舌に爆撃みたく降り注ぐんだ。

 いやぁ、美味い。

 

「こりゃ無限に食えそうじゃわい」

「カケル、このレシピなんだが……」

「卵を使ったスイーツは他にもあるのか!?」

「これも、おかわりとかあったりしませんの!?」


 で、そんな美味しさの余韻に浸ることを、エルフ達は許してくれなかったよ。

 というか、この人らどんだけ食うんだ?

 ご飯はしっかり食べた後に、大きめのマグカップで作ったプリンペロリか。

 あれか、甘いものは別腹ってか?

 せめて俺が食べ終わるまで待ってろください。

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