第162話 羹に懲りて膾を吹く

「ちなみに持ち帰りの料理は何になるんだ?」

「今日はシンプルにタマゴサンドを作ろうかと」


 俺がたっぷり時間を使ってプリンを完食し。

 コーヒーが飲みたくなったもののインスタントを切らしてまして。

 妥協で紅茶を飲むことに。

 妥協って言い方はアレだな、コーヒーを探してたら紅茶のティーバックを見つけたからそれでいいやってなっちゃったんだよな。

 で、四人もこの世界の紅茶にも興味あるって事で振舞った。

 砂糖やミルクは入れないけど、はちみつがあれば少し入れて欲しいって言われたけど、無かったんだなこれが。

 だったらストレートで、って事で、以下、四人が紅茶を飲んだ時の反応です。


「ふむ、悪くない」

「やや香りが控えめですけど、これはこれで美味しいですわ」

「食後の素晴らしいひと時だ」

「向こうと比べてくどくないわい。スッキリしとる」


 とのこと。

 むしろ俺が異世界の紅茶に興味を持っちゃったんだよな。

 という事で、今度持って来てもらう事に。

 ちなみに、


「魔物の素材から煮だした物、とかじゃありませんよね?」


 と聞いたら。


「大丈夫じゃわい。ちゃんと茶葉をお湯で開いて抽出するもんじゃ」


 だってさ。

 いやぁ……直近で卵に襲われたからね?

 そりゃあ警戒もしますわよって話。

 で、一通り団らんしたら冒頭へ。

 本日はシンプルなタマゴサラダでござい。

 俺調べでコンビニで一番売り上げてるサンドイッチだと思う。

 あと、海外の人が絶賛してるイメージのあるサンドイッチ。

 というわけで早速作っていきましょう。


「まず、ポーチドエッグを作ります」


 先ほどと同じくポーチドエッグを作りまして。

 使用する卵は5個分。コップで掬って沸騰している鍋の中へ。

 その内二つは黄身が固まらない内に取り出して、残りの三つは黄身まで完全に火を通す。

 こう、タマゴサンドの黄身は固まってるやつを使う方が美味いと思う。

 ただ、半熟の時のクリーミーさも欲しい。

 というわけで今回は両方をハイブリッドで作っていこうと思う。

 茹で上がった卵はボウルに移し、そこにマヨネーズ。

 塩コショウを振りまして、尖った酸味を丸くするために砂糖を少々。

 スプーンで白身を崩しながらよ~くかき混ぜていく。

 仕上げにブラックペッパーを少々と、パセリを振って、具の完成。


「後は挟むだけですね」


 挟むパンにはバターと、薄っすらカラシを塗っていき。

 そこにたっぷりとタマゴサラダを乗せていく。

 タマゴサンドの具は多いに限る。

 そうするために、わざわざ卵の黄身を五個分も使ったわけだし。


「かなりシンプルだな」

「その分味が想像できて腹が減るわい」

「間違いなく美味しいでしょうね。明日の朝が楽しみですわ!」

「マヨネーズがあれば向こうでも再現出来そうだ。……ただな――」


 お? まさかマヨネーズの再現が出来ないと悩んでらっしゃる?

 こう、異世界とかで食い物関係の作品とか見ると、結構な頻度で出てくるマヨネーズ。

 ただ、何というか……。材料だけ揃えても俺らが普段食べてるマヨネーズにはならないんだよな。

 成分表見ると分かるけど、調味料(アミノ酸等)みたいな表記がある。

 あれがいわゆるうま味成分って奴で、日本のマヨネーズには大体入ってるわけだ。

 で、海外のマヨネーズには入ってない。

 これが日本のマヨネーズの虜になる海外の人が多い理由。

 身体がうま味を求めてるんだ。


「見た目や風味はある程度の再現は出来た。だが……味がな――」


 つまりラベンドラさんは、下手すりゃ異世界には存在しないものが入ったマヨネーズを再現しようとしていらっしゃる。

 その道は修羅の道ぞ。


「一応確認なんですけど、この部分って読めます?」


 というわけでその事を把握しているのか、マヨネーズの袋に書いてある成分表の『調味料(アミノ酸等)』という表記を指差し尋ねてみると。


「読める事には読める。ただ、やはりそれが決めてか……」


 と明らかな落胆。

 マジ? 読めるの? なんて書いてあるんだ? 気になる。


「ちなみに、表記にはなんて書いてあります?」

「バイコーンの角の粉末とある」

「……バイコーン?」


 オッケー俺、バイコーンを調べて。

 ……二本角のユニコーンね、了解。


「ああ……極まれにダンジョンでの目撃情報はあるものの、正確な生息地が判明していなくてな」

「目撃されたダンジョンに行けばいいのでは?」

「ダンジョンも生き物なんですの。食物連鎖や冒険者の放つ魔法により、空気中に撒かれた魔力などが作用して、一定周期で生息するモンスターが変わると言われていますの」

「ちなみに余談じゃが、このダンジョンは生き物説は主にエルフが唱える考え方でな。わしらドワーフはダンジョンは建造物、建物の情報が変われば、自然に住む魔物も変化する、という考え方を持つ」

「そのせいでドワーフとエルフは対立しているが、今はそこは重要じゃない」

「価値観や考え方なんてそれぞれですもの。押し付け合うのは間違っているというのに、それに気が付かない『――自主規制』の多い事」


 あ、やっぱりあるんだ、エルフとドワーフの対立。

 あと、リリウムさんがちょっとトンデモナイ事口走ったから翻訳魔法さんがピー音入れたな。

 そんな事も出来るんだ、翻訳魔法ってスゲー。

 んでもってダンジョンの中は変化するのね。

 あー……そりゃあ冒険者なんて職業もやってけるよ。

 言うなれば同じ仕掛けで時期によって別な獲物が獲れる漁みたいなもんでしょ?

 いや、獲れるのは食材だけじゃないわけだけど。

 でも、比較的難易度の低いダンジョンも時間で変化するなら、素材が偏るって事も無いだろうし……。

 よく出来た世界です事。


「それじゃあカケル、明日も頼む」

「楽しみにしとるぞい」

「よろしくお願いしますわ」

「それでは」


 なんて考えてたら、四人は元の世界に戻る準備をして退散。

 ふっふっふ、明日が楽しみですねぇ。

 ようやく俺の携帯に連絡があって、明日届くって通知が来たんだよ。

 何が届くって? ……日本が誇る、海鮮食材たちが、ですよ。

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