第296話 小癪な

「作っているのは見たが……どういったデザートなのだこれは?」


 スプーンの裏でペチペチ叩き、フルフルと震えるフルーチェを見ながら、ラベンドラさんの一言。

 どういったデザートって言われましても……。


「ヨーグルトとゼリーの中間的な?」

「なんとなくは想像がつくが……」


 フルーチェを食べた事無い人たちにフルーチェの説明するの滅茶苦茶難しくない?

 一応原理は調べたけどさ。

 ペクチンと牛乳が反応してゲル化する、とか言われてもちんぷんかんぷんじゃない?

 ぶっちゃけ黙って食べてみろくださいとしか……。


「どんな想像をしているのか分からんが、カケルが用意したデザートなのだぞ?」


 そんな二の足を踏んでいる三人を余所に、デザートだから。俺が用意したから、という理由で、率先してフルーチェを口に運んだマジャリスさんは……。


「あむ」


 皆に見守られながら、最初の一口。

 ……そして、


「なるほど、ヨーグルトとゼリーの中間とはよく言ったものだ」


 ゆっくり、味わうように咀嚼して。


「うむ」


 ……あれ? 思ったより反応薄いぞ?

 どうした?


「今までのデザートと比べるとそこまで騒ぐ必要もない」


 ……そうか。ダメだったか。

 まぁ、前回は結構値段のするようかんだったしなぁ。

 インパクト、足りなかったか……。


「だから、ラベンドラ。お前のフルーチェを少し貰うぞ?」


 ……ん?

 流れ変わったな?

 そこまでじゃないデザートってんなら、わざわざラベンドラさんの分を奪うような真似しなくていいもんね?

 って事はつまり……?


「? 断るが?」

「何故だ!?」

「何故も何も、そこまで騒ぐ必要のないものならばわざわざ私のものを奪う必要もない。それなのにそうやって言ってくるという事は……」


 まぁ、そういう事だよな。


「実は滅茶苦茶美味しいが、騒ぐと分けて貰えないと考え、平静を装って私から奪おうとしているという魂胆だな」

「な、何故バレた!!?」


 いや、子供かよ。

 なんと言うか、マジャリスさん、デザートに関することになるとIQ極端に下がらない?

 下手すりゃ一桁とかになってそう。

 ばななって言ってくれないかな。出来るだけアホっぽく。


「なんじゃ、そういう事じゃったか」

「美味しいものは素直に美味しいと言いなさいな」


 ラベンドラさんだけじゃなく、他二人も呆れてるな。

 まぁ、人間素直が一番ですよ? ……エルフだけど。


「で? 実際はどうなんだ?」

「……美味いよ!! 美味いさ!! さっぱりしててフレッシュ! 中の果肉も新鮮でしっかり甘い!!」


 ちなみに食べたのは苺のフルーチェ。

 わりかし果肉は入ってるんだよね。

 ちょっとジャムに似たようなあの苺果肉、しっかり甘酸っぱくて、でも酸味はそこまで強くなくて。

 牛乳のクリーミィな風味と、あのジュレみたいな食感とに包まれて、普通の苺より美味しく感じる気がするもん。


「確かに、マジャリスが言うようにサッパリした感じですわね」

「牛乳の感覚が割と残っとるな」

「でも邪魔してない。どころか、牛乳の風味と中に入った果肉とが絶妙にマッチしている」


 他三人にも好評ですよ。

 まぁ、フルーチェの美味しさは全世界どころか異世界共通だわな。

 んでは俺もいただきます……。

 ん~……これよこれ。

 やっぱ出来立てのと違って、しっかり口に残る感じの絶妙な固さがたまらないのよ。

 出来立てのトロトロした食感も好きだけどね。

 俺はやっぱり、冷やしてカッチリしたヨーグルトみたいな食感の方が好き。

 そのヨーグルトも結構固めのをイメージしてるけども。


「牛乳と混ぜるだけでここまでの味に……」

「素晴らしいですわよね。……国王に送ります?」

「何度もねだられるぞい。ただでさえカレーの催促がうるさいっちゅーに」

「カレー、催促されてるんですか?」


 フルーチェ食べながら気になる会話が出てきたな。

 確か、カレーパンにして王様には献上してるはず。

 その頃から催促されてたと考えるなら……結構無視してない?

 大丈夫なのか?


「まぁ、再現の目途が立てば振舞うつもりではいるが……」

「言い方的に進捗は良くなさそうですね」

「あれだけのスパイスを集めるだけで苦労するというのに、そのスパイスもただ混ぜるだけでは再現出来ん」

「余談ですけれど、ラベンドラはカレーのスパイスの調合専用に新たな羊皮紙を購入しましたのよ」

「自分の中だけでは整理できない。何かに記録する必要があっただけだ」


 ……えーっと。

 た、楽しそうだなぁ……。


「今は新たなスパイスを求めて、火山付近のダンジョンに潜っていますの」

「火山とスパイスに何か関係が?」

「単に気温が高い所にいる魔物からスパイスになりそうなものが手に入るだけじゃわい。『――』の鱗粉、『――』の果実。そうそう、『――』の爪なんかも有名なスパイスじゃな」


 うん、あのね、ガブロさん。

 熱心に教えてくれるのはいいんだけど、魔物は何一つ分かりませんよ?

 こっちの世界じゃ翻訳されないの、忘れてません?


「こっちのは果肉の食感が残っているな!!」

「果肉からとろけるような甘さの果汁が溢れてきますわ!!」


 あっちはもう桃のフルーチェに手を伸ばしてるし。

 にしても火山付近のダンジョンか。

 ……次の食材はそこから持って来られるんだろうなぁ……。

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