第297話 ぷるぷるふるふる

「ラヴァテンタクルスか……」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……かなりおるのぅ」

「探知によれば、奥には産卵直後なのか幼体も居るみたいですわよ?」

「薄皮を剥く必要はあるが塩茹でにするだけでも美味い」


 火山地帯ダンジョンの下層4階。

 いわゆるボスエリアに鎮座するは、表面を冷えた溶岩に覆われた無数の触手。

 触手と言っても、そのサイズの一本一本の太さは成人男性程だったりするが。

 そんなラヴァテンタクルスを前に、『夢幻泡影』の四人は作戦会議中。


「テンタクルス種はスライム系からの派生。体のどこかに核となるコアがある」

「そのコアを破壊さえすれば無力化出来るんじゃな」

「そうだ。だが、表面は冷えた溶岩に覆われているし、そのおかげでああして溶岩の中を移動できる」

「多少溶岩の装甲を剥がせたとしても、すぐに潜って補充できてしまいますわね」

「となると……やはり」

「ええ、アレしかありませんわね」


 そんな四人の状況を、翔は当然知るはずもなく。


「レンジでチン。あらゆる装甲を無視して直接内部を破壊出来る便利な魔法」

「問題は準備に時間がかかる事と範囲が狭い事」

「ガブロに気を引いて貰い、マジャリスと私でコアの位置の特定」

「特定後、速やかにその位置に転移してのレンジでチンの発動……ですわね」

「ま、死なん程度にやるわい」


 そして、自分が教えた電子レンジの原理が、おおよそ必殺技的な立ち位置になっている事など、当然知るはずもないのだった。



 暑い。

 ていうかさ、なんなら梅雨入り前から暑いって言ってなかったっけ?

 なのになんであそこが頭打ちじゃないんだ?

 ……令和ちゃん? 流石にもう六年目だから温度の調節は出来るよね?

 まぁ、そんな事言っても涼しくはならないわけで。

 会社の昼休みに飯食いに行って、そのままかき氷なんて食べたりしてね。

 デザートにかき氷なんていいかなーとか考えてたらですよ奥さん。

 一つ、思い出したデザートがありましてね?

 それだけならほぼカロリー無しとか言うヘルシーデザート。

 しかも作るの簡単で暑い季節にピッタリ。

 というわけで今日のデザートはそれに決定。

 初めて作るからうまく出来ると良いんだけど……。



 ただいま。

 買い物して帰宅しましたよっと。

 と言ってもデザートの材料は揃ってるから、それに付する物をね。

 どうせならそれらはいいものを使いたかったし。

 後は昨日のホイル焼きで再確認したけど、鮭とキノコの相性がべらぼうにいいからね。

 キノコも購入してきました。

 まぁ、今日は付け合わせに使うだけだけども……。

 というわけで今日の晩御飯の下処理をしつつ、デザートを作っていきましょう。


「ミネラルウォーターなんて初めて買ったよ……」


 まずは買ったものの紹介から。

 いやさ、日本に住んでて、水買う事になるとはね。

 そりゃあ人によっては日常的に買ってる人とか、ウォーターサーバーを契約してる家庭とかあるだろうけど。

 ぶっちゃけ一人暮らしの成人男性なんて、買っても蛇口に付ける浄水器くらいじゃない?

 俺がそうってだけだけども。

 んでまぁ、なんで水を買ったかというと、これがデザートの主成分だからですね。


「えーっと、水がこれ位」


 初めて作る料理はレシピ通りに作れ。これ、親から教わった一番大事な事ね。

 変にアレンジしようとすると絶対失敗するって口を酸っぱくして言われたな。


「そこにアガーと……お砂糖……」


 んで、使う材料はこれだけだったりする。

 材料を混ぜたら火にかけて、沸騰するまで放置。

 ちなみにアガーってのは寒天とゼラチンの中間みたいな感じの凝固剤的な。

 透き通るようなゼリーの仕上がりになるって事で、ビジュアル重視な時に使ってたのよね。

 主に満足するのは俺だけだったけども。

 というわけでご紹介、本日作るデザートは――水信玄餅!!

 何ぞや? って思う人もいるかもだけど、すっごくざっくりした説明をするなら水ゼリー。

 ただ、固まる最低の量ギリギリでゼラチンや寒天を入れるから、口に入れた瞬間に溶けて水になる、みたいな。

 使うのアガーだけど。

 で、それ単品じゃあって事で、買って来たのはきな粉と黒蜜。

 どっちも普通のより値段のするやつを買って来たよ。

 きな粉は、青きな粉って言う緑色のきな粉を買ってみた。

 うぐいす餅とかに使われるらしいきな粉で、味見させて貰えたんだけど、すっごい風味が強い。

 あと、俺が知ってるきな粉より甘みがあった。

 続いて黒蜜。こっちは沖縄県産黒蜜100%の瓶詰の奴を購入。

 こってりとした甘さとコクが深くて、これも俺の知る黒蜜よりもランク高いなぁって思う味わい。

 あの四人に色々料理作り出して思うんだけどさ、やっぱり高い食材って高いなりの理由があるんだよな。

 味わってみて思う。そりゃ高いわって。

 ……正直、ワインだけはその値段に見合う味なのかは分からない。

 けどまぁ、そっちはあの四人が判断してくれるし、ええか。


「お、そろそろか」


 火にかけてた材料たちが沸騰したら、約一分そのままにし、時間が経ったら火を止める。

 そしたら後は固めたい形の容器に入れて、冷やして完成。

 水が辛うじて固まってる状態の仕上がりになる都合上、冷蔵庫から取り出したらすぐ食べなきゃらしいよ。

 あの四人がそんな時間かけるとは思えないけど。


「うし、じゃあ続いて晩御飯」


 続いては本日のメインを作る……下ごしらえをば。

 まぁ、トキシラズ切って、塩振って、酒と醤油に漬けとくだけなんですけれどね。

 後はラベンドラさんにお願いするだけですわ。

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