第184話 閑話 出来ちゃった……
「久しぶりにこの町に戻ってきたな」
そう発し、周囲を見渡したラベンドラは。
翔と出会ってからしばらくは拠点にしていた町、ドムリラへと戻ってきていた。
戻ってきた、と言っても、当然パーティの他三人も同行しており、ただぶらついて懐かしむために戻ってきたと言うわけではなく。
「まずは調理士ギルドからか?」
「私たちは冒険者なのですから、先に冒険者ギルドに顔を出すのが筋なのではなくて?」
いわゆる、冒険で手に入れた素材や知識を換金するために立ち寄った様子。
あらゆる商人や冒険者で賑わう商業都市だからこそ、自分たちの売り物に高値が付く。
そう目論んでの事だったが……。
「お前たち!!」
これから向かおうとした冒険者ギルド。
そこの長たるギルドマスターのオズワルドが、四人の姿を見つけて走って来て。
「いいところに!!」
どうやら自分たちを探していたらしい事実に、四人は顔を見合わせ、軽く頷いて。
「あ! おいこら!! 逃げるな!!」
リリウムの転移魔法にて、その場を離脱。
本能的に面倒事に巻き込まれると予感してのこの行動は、半分正解。
ただし、
「お前らが他の町で振舞ったレシピや、それに関する知識についての殺到がすげぇんだよ!!」
という言葉から、少なくとも浸透し始めてきている『たこ焼き』の存在や。
昨夜仕入れたばかりの焼き鳥の情報を売る絶好の好機と判断。
オズワルドの背後に、距離にして数メートルほどの位置に転移していたリリウム達は、その言葉を聞いて再び転移。
先ほどと変わらない位置の、オズワルドの目の前へと戻ってきた。
「他の町で振舞ったと言うと……コロッサルを使った鉄板焼きの事か?」
「それもだが、お前ら割といろんなところでソースだのなんだの情報を売ってやがるだろ?」
思い当たる節しかないオズワルドの問いに、黙って頷くラベンドラ。
「もう調理士ギルドからは、『あいつらはまだまだ隠し持ってるから可能な限り吐かせろ』とか突き上げられるし、冒険者ギルドには魔物の素材の在庫確認の連絡がすげぇ」
「そういや、弟からも連絡が来とったな。頼んでいた刃物が出来上がったが、出来が良すぎて公表するか迷う、だとか」
ここで、さらにオズワルドの頭を悩ませる話題をガブロがポロリ。
ガブロの弟……工聖とすら呼ばれる当代トップと言っても過言ではない存在が、出来が良すぎると評した武器。
それを聞いて、当然無視するという事は出来ず……。
「サラッと言いやがったが待て? お前の弟って確か――」
「ペグマ工房の頭領じゃな」
「文句無しの国内最高峰工房だよな……。そこの頭領が公表するか迷うレベルの刃物だぁ!? 一体どんな――」
と、オズワルドの言葉が言い終わらない内にリリウムとガブロの姿が一瞬で消え。
数秒後、戻ってきたときには。
「これがその刃物じゃな」
一本の刀を持って来ていた。
翔が見れば、驚いていただろう。
何せ、自分が動画で見せた日本刀。そして、その鞘に瓜二つの物が作られていたのだから。
「ここじゃあなんじゃ。ギルドの方に行くぞい」
「あの製法で作った武器に興味がある。素材はあるんだろ? 性能を見るための試し切りとしよう」
と、オズワルドそっちのけで話が進むが。
オズワルド自身も、
(性能を見なくちゃなのは確かにそうだ。それに、俺自身も工聖の作った武器には興味がある)
ギルドマスターとして、新しく出てきた武器の性能の把握。
そして、オズワルドの興味という観点から、素直に『夢幻泡影』を冒険者ギルドの素材置き場へと案内することに。
もちろん、手の空いている職員を呼び、試し切りの結果や情報を事細かく調べることは忘れなかった。
*
「ふぅむ。革命じゃな」
一通りの魔物の素材を試し切りしたガブロが、刃こぼれも、僅かな傷すらもついていない刀の刃を見つめて呟いた。
柔らかい肉質の素材から殻に覆われたような硬い素材まで。
実に20を超える素材を試し斬りし、そのことごとくを両断した、その結果に。
ギルド職員も、オズワルドすらもあんぐりと口を開けて驚愕。
中には物理攻撃が効かないとすら言われていたスライム種すらも両断しており、その性能が高いどころか間違っているのでは? とすら思えるものだと証明され。
「いくらになるんだよ……」
その事実に、この武器の適正価格を想像して頭を抱えるオズワルド。
しかし、
「世間一般の冒険者には手が出せん金額じゃろうな」
「そ、そんなに高い素材がいるのか?」
「製法が特殊過ぎる。わしらドワーフが口を揃えて未知かつ謎の技法と言うくらいじゃぞ?」
「そ、そこまでか……」
ガブロの口から、日本刀の製法を知ったドワーフの感想を聞き、たじろいだオズワルドは。
「じゃあもう、その一本は王に献上させちまおう」
面倒事を抱え込みたくない一心で、そう提案。
すると、
「それが一番じゃろうな」
と、ガブロも賛同。
ただし、
「ただ、この一振りは試作品。完成はしたが、魂がこもっとらんと弟は言いよったぞい」
目の前で、信じがたい性能を見せつけながら、なお試作品である事実に再度頭を抱えるオズワルド。
「しかも、わしが言うのもなんじゃが、かなり扱いにコツがいる。下手が使えばすぐダメになるぞい」
そして、そのガブロの一言に、オズワルドは一つ決心。
「その新しい武器、お前たちが管理しろ……」
その言葉に、記録を取っていたギルド職員がどよめくが。
「お前たち、この武器については他言無用だ。お前らも、そんな武器を持っている事を他の冒険者に知られるな」
「ふむ……なるほどの」
「時間が経てば、安価で量産されるようになるかもしれない。そうなるまで待ってから、公表する腹積もりか」
「今すぐ公表すりゃあ、取り合いになるのは必至だろうしな」
オズワルドの考えを読んだラベンドラ達は納得の様子。
また、それを聞いたギルド職員も、確かに、と納得の様子を見せ。
「王に献上するとなりゃあ製法も同時に献上されるだろ。そうすりゃ、後は国が公表するかの判断を下す」
「ようは、自分らが発端になりたくないって事だな」
それらしい事を言ってはいたのだが、それもマジャリスの核心を突く言葉に詰まらされ。
「悪いかよ。誰が好き好んで面倒な事に首を突っ込みたがる……」
オズワルドも、開き直ったように四人へ向けてそう言って。
再度その場に居る全員に、他言無用と念押しし解散。
別れ際に、
「そうだ、ワイバーンの可食部と言うか、滅茶苦茶美味い部位が確認出来た」
「マジかよ。ちょっとその情報は寄越せ」
焼き鳥で得た知識をオズワルドに共有し、ご機嫌取りを行ったところで。
「で? 刀だけじゃなかったんだろ?」
「む? もちろんじゃわい。誰の弟と思っとる」
オズワルドの背中を見ながら、ガブロに詰め寄ったラベンドラ。
そのラベンドラに、
「新しい解体用のナイフじゃな。もちろん、あの刀の製法で作られとるぞい」
そう言って、箱の中の数本の刃物を見せた。
箱の中には、柳葉包丁、出刃包丁、蛸引き包丁、フグ引き包丁の四本が入っていた。
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