第65話 それは紛れもなくやつさ

 むぅ。

 寒い。

 急に冷えこんできたな、最近。

 ニュースで暖冬とか言ってた気がするのに、当たり前に雪とか降ってさ。

 『本日は氷点下を下回る地域が多く……』とか天気予報でも言ってやがるし。

 知らんのか? 人間は寒すぎると仕事をする気が失せるんだぞ?

 ……こうなったらアレだ。

 体が温まるものを作ろう。

 外出はしたくないが仕方ない。

 温まるためだ。

 必要な食材をパパっと買って、帰ってきて風呂に入ろう。

 ……作りたい物はすぐに出来るしな。

 そうしたらビーフジャーキーを干す作業にでも入って、ゆっくり夜まで待とう。

 ――マジで寒い。



 あーさっぶ!!

 ちくしょう! 地球はそんなに人類が嫌いかっ!?

 こんな嫌がらせみたいな寒さにしないでもいいだろ全く!!

 ちょっと外に出ただけで手足がかじかむ……。

 うう……俺を温めておくれヒーター。

 ちょっとの間。ちょっとお風呂が準備が出来る間でいいんだ。

 ……あ、そうだ。ビーフジャーキーの塩抜きをしとかないと……。

 ボウルに水を張って、その中に肉を浸して大体二時間くらいかな。

 ――冷たっ! ただの水が突き刺すような冷水みたいなんですけど?

 風呂上りにこの水から肉を取り出す作業するの……?

 正気……?

 まぁ、言っても仕方ないんだけどさ。

 やるし。

 とりあえずお風呂の準備が出来たから入って来よう。

 せめて、せめて安らぎのひと時を……。



 ふぅ。

 風呂上りはコーヒー牛乳に限るね。

 あるいはフルーツ牛乳。どちらでも構わんよ。

 我、寛容なり。

 というわけで風呂から上がってダラーんとしたあと。

 塩抜きを終えた肉を水から取り出し。

 好みの大きさにカットしていく。

 厚過ぎると噛み切るのが大変だし、薄すぎると噛みごたえがない。

 この肉の厚みの最適解を探して試行錯誤するのが楽しい所。

 まぁ、プロじゃないので厚みはバラバラになりまして。

 そうしてカットしたお肉に爪楊枝をぶっさし、靴下とかを干すときに使う洗濯ばさみの付いたアレに間隔を開けてぶら下げていく。

 一応下には新聞紙を引いて、垂れたりしても大丈夫なようにセットし。

 昨日押し入れから引っ張り出した扇風機ちゃんを首振りモードにしてスイッチオン。

 風通しのいい所に干すってあるんだけども、別に風を起こせば問題なくね? ってことで。

 部屋の扉は開放し、そこだけの空気が留まらないように気を付けて。

 あとは出勤前と帰宅後にカビとかがないかを確認すればオッケー。

 再来週くらいに燻製機にかけて完成って感じかな。

 時間が掛かりますわねー。


「……待てよ?」


 その時、俺に電流走る。

 これさ、リリウムさん達に頼んだら何とかなる説ない?

 なんというか、時間跳躍とか使えそうな雰囲気してない?

 聞いてみたらいとも簡単に、


「そのような事ならお安い御用ですわ」


 とか言ってくれそう。

 ……聞いてみるか。

 っと、お腹すいたな。

 お昼にするか。

 ギュウニクカッコカリを適当な大きさに切り出し、カット済み野菜と一緒にフライパンで炒め。

 ニンニクの芽を入れて焼き肉のタレをドバー。

 どんぶりにご飯を盛り、真ん中をくぼませて卵黄を乗せ。

 炒めた肉野菜をドサッと乗せれば。

 肉野菜炒め丼の完成。

 本番は夜だからね、お昼はこれくらい雑な料理でいいんですよ。


「うめ。うめ」


 何より美味いし。

 結局、肉と野菜を焼き肉のタレで味付けすりゃあ外れんて。

 そこに卵黄ですよ? 思わず右手が突き上げられるってもんですわ。

 ギュウニクカッコカリも脂身が無いから割とあっさりしてるし。

 ちょっと筋っぽいとはいえある程度の範疇だしね。

 んじゃ、後片付けして休みを謳歌しますか。

 具体的に言うと人をダメにするソファ―にダメにされてくる。

 そんな時間なんぼあってもいいですからね。



「お邪魔しま……あら?」

「寝ているな」

「寝てるな」

「起こした方がいいのかのう?」


 んー? 今何時……。

 えっ!?


「あ、皆さんこんばんは」

「おはようございますわ」

「涎、垂れてるぞ」


 苦笑されながらリリウムさんに挨拶され、マジャリスさんに涎を指摘され。

 袖で拭いながら、慌てて立ち上がる。

 やべー。かんっぜんに寝てた。

 ちょっとダメにされすぎちゃったや。


「疲れているのか?」

「大丈夫。ちょっと油断してただけなので」


 次からアラームかけとこ。

 反省反省。


「それで? 今日の料理は?」

「ふっふっふー。今日の料理も驚く料理を作りますよー」


 立ち上がり、冷蔵庫から今夜使う材料を取り出して。


「カケル……これらはまさか?」

「香辛料です! 今日の料理にはたっぷり使いますからねー」


 エントリーナンバー1! 花椒ホアジャオ! 痺れる辛さの元凶! 

 エントリーナンバー2! 山椒!! こっちはピリリと辛いぜ!!

 エントリーナンバー3! 赤唐辛子!! からぁいっ!! 説明不要!!

 あとは豆板醤と甜面醤てんめんじゃんも使うわぞー。

 さてさて、ここまでいったら何作るか分かるよね?

 そう! 食うものに汗を噴き出させ、口内を暴れ回り。

 翌日のトイレがちょっとだけ怖くなるあの! 悪名高き!!

 麻婆豆腐だぁっ!!

 ドンドンパフパフ―。

 ……いやぁ、仕事ある日なら企業が出してる豆腐と混ぜるだけのやつを使うんだけどさ?

 折角の休みだし、一から作ろうかなーと。

 幸いそこまで難しい料理でもないしさ。

 というわけで、花椒や山椒を試しに舐めてみて凄い顔をしているラベンドラさんを尻目に……。

 料理、作っていくぅ~。

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