第278話 カリカリモフモフ

 焼いてカリカリになった表面。

 それを突き破ると、一転してフワフワもちもちの生地が歯を受け止め。

 塩バターを巻いて焼いたため、パンの中央はバターのたっぷり沁みたジュワッと生地。

 小麦の香りとほのかな甘さ。そこに入ってくる塩バターのコクと塩味。

 これぞパンの王道よ。

 やっぱ塩バターパンが最高ですわ。

 飲み物はコーヒーをチョイス。ミルクを入れていただきます。

 ……え、美味い。

 姉貴チョイスだから一切の信用が無かったけど、美味い。


「何か失礼な事考えてない?」

「滅相もございません」


 へー、あの姉貴がねぇ。

 こんなまともなコーヒー飲むんだ。


「カケル、時にこのパンなのだが……」

「メロンパンですか?」


 なんて感心してたら、ラベンドラさんがメロンパン持ち上げて何か尋ねてきた。

 どしたん? 話聞こか?


「焼くべきか?」

「俺はそのまま派ですかねぇ」


 焼いた方がクッキー生地がさらにカリカリになって美味しいと思うけどね。

 でも、焼かないままのちょっとしっとりした生地も捨てがたいと思うんだ。


「中に何か入っているのか?」

「ホイップクリームやカスタード、メロン果汁のクリームとかが入ってるやつもありますけど、これは何も入ってませんね」


 続いてマジャリスさんにも聞かれました。

 しまったな、メロンパンじゃなく、チョコチップメロンパンの方を買ってくるべきだったかもしれん。

 そっちの方が喜んだかも……。


「ふむ」


 一通り聞きたいことは聞き終わったのか、ラベンドラさんがメロンパンをパクリ。

 それに続いて、マジャリスさん、リリウムさん、ガブロさんもパクリ。

 いや、全員気になっとったんかい。


「おお」

「中はふんわりしっとりですのね」

「カリカリの外生地が美味い!!」

「外と中の食感のコントラストが絶妙じゃな」


 とまぁ評判良さげ。


「これはクリーム入りも是非食べてみたいところだが……」

「このパンの魅力は軽さじゃろ。バターや砂糖を使い過ぎていない」

「それでいて味のバランスがしっかりと取れている所ですわ」

「クリームの種類にもよるだろうが、今より重くなることを考えると味のバランスが変わってくる」


 あ、結構詳しく見てますわね?

 俺とか味のバランス云々考えた事無かったけど……。


「それもそうだな」

「カケル、これはパン生地とクッキー生地を合わせて焼き上げたパンだったな」

「ですです」

「別々で焼いたりしないのか?」

「あー、やってるパン屋もあると思いますよ?」


 あったよね、パン屋が主役の漫画で、パン生地とクッキー生地を分けて焼いてさ。

 食べる前に、メロンクリームを接着剤代わりに生地の間に挟む奴。

 あれ読んだ時は憧れたなぁ。


「無しではないのか」

「それこそ、アレンジの範囲だと思いますよ?」

「美味かったわい。甘すぎんのがええな」

「……そうだな、あの甘さならば甘味が苦手な者でも難なく食べられるだろう」


 なんて話してる間に、ガブロさんは完食。

 まぁ、口周りや髭にクッキー生地のカスや砂糖が付いちゃってるけどね。


「スマンが次はこのソーセージの入った奴を頼むぞい」


 というわけでガブロさんはソーセージフランス? をリクエスト。

 他の三人は……、


「私はクロワッサンを」

「俺はラベンドラが最初に食べた緑色のパンを」

「私はチョココロネをお願いしますわ」


 クロワッサン、宇治金時のカンパーニュ、チョココロネね。

 チョココロネだけ焼かなくていいから、お先にどうぞ。


「……どう食べるのが正解ですの?」


 なお、受け取ったリリウムさんはチョココロネを回して頭を見、お尻を見。

 結局どう食べるのか分からないと、俺に助けを求めてきた。


「好きに食べるのがいいと思います。俺は大きい方から普通にかぶりつきますね」


 宗派によってどっちが頭かの争いがあるからね。

 大きい方と細い方で呼び分けさせてもらう。

 ちなみに学生時代は細い方に吸いついて、チョコを吸いながら食べてた。

 今思えば行儀悪かったかも。


「そうですのね」


 で、リリウムさんが取った食べ方は……。

 細い方からクルリと生地を剥がし、穴から見えてるチョコにディップして食べ始めた。

 何その食べ方、お洒落さんかよ。


「チョコ……」


 で、マジャリスさんは隣で指咥えない。

 あなたの分もあるんだから。


「チョコを使ったパンも様々あるのか」

「滅茶苦茶ありますね。何なら、さっきのメロンパンにチョコを埋め込んだ奴もあります」

「思ったのですけれど、創作パンの大会も開くべきではありませんの?」

「たこ焼きの大会は大盛況じゃったからのぅ」


 お、なんか面白そうな話してんね。

 そういや言ってたっけ、大会が開かれるとかなんとか。


「どんなたこ焼きが勝ちました?」

「私は焼きではなく、油で揚げたたこ焼きに票を入れた。あの柔軟な発想は私には無かったからな」

「あげたこを出す人が居たんですね」


 そういや、揚げ物は伝えたし、そこを結び付ける人が居てもおかしくないか。

 世界は違っても同じような事考える人は出てくるもんだ。


「濃厚なソースを手作りしておった店を推したな。出来る事ならあのソースをエールで流したかった……」

「ガブロの推薦は食べましたけれど、あのソースは重くてくど過ぎですわ。その点、私の推した卵たっぷりのフワフワ生地のたこ焼きが軽くていくらでも食べられましたわよ?」

「その軽さが仇となり、他よりも薄い印象しか与えられていなかったがな」


 この四人の意見が奇麗に分かれてるな。

 それだけレベルの高いたこ焼き大会だったって事か。

 ……で? 優勝は?


「結局票を集めたのは、中にコロッサルの身だけでなく、様々な具材が入った五色たこ焼きだった」


 ……ん? ちょっと待て。

 今戦争の火種の音が聞こえたぞ?


「その五色たこ焼きというのは……?」

「コロッサル以外に、肉や魚などの材料を四種揃えてな。中身をそれぞれ別のものにすることで、味の変化と意外性を持たせたことが好評の要因じゃったわい」


 みんな! 丸太は持ったな!!

 いやいやいや、普通にギルティでしょ。

 たこ焼きにたこ以外を入れるとか邪道やろて。

 ギリ、たこと一緒に入れるならまだしも、たこを抜いて別のを入れたらそれはもうたこ焼きじゃないんよ。

 はぁ~あ、異世界さんよぉ、まだそのレベルか?

 ちょっとその内カチコミかけるぞ?


「カケル、焼けたぞ」


 丁度良くパンが焼け上がって命拾いしたな。

 と、どこかもやもやした気分を残しつつ、俺は焼き上がったパンをそれぞれに提供するのだった。

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