第279話 あ、合ってた……
「どのパンも恐ろしくクオリティが高い……」
「バゲットとソーセージの組み合わせが最高じゃな!!」
「外はカリっとしているのに、中のモチモチ具合は本当にどうやって作っているのでしょう……?」
「チョコ以外の甘味も全然合う!!」
そろそろエルフ達も分かって来ただろう?
我が日本の菓子パン系統は世界一、だと。
「ソーセージもハーブが効いて、その香りがまたパンと合うんじゃ~」
「抹茶というこの味は気に入った。甘いだけじゃなく深みがある」
「塩バターパンのシンプルながら誤魔化しがきかない味がとてもお気にですわ」
「食感の対比が絶妙に美味い。と思えばフワフワのパンも美味いのだから手が付けられない」
みんなそれぞれ大満足ですわよ。
……姉貴?
ああ、姉貴ならミニクロワッサンキャラメル味を自分で淹れたラテと共に楽しんでる。
自分から言い出したくせに、途中からパン飽きたとか言って来たからね。
んなもん放置一択よ。
「あんこ、だったか。豆を甘く味付けするのは面白い発想だったな」
「豆は私たちの世界でも食べますけれど、トマトと一緒に煮込んだり程度ですものね」
「最初は甘い味の印象が無いから困惑するが、脳が受け入れたらスッと溶けるような甘さの広がりがたまらなくなる」
「甘すぎんのがいいわい。これまでのクリームとかと比べると……そうじゃ、きんつばに近い甘さじゃな」
「まぁ、きんつばって本来は小豆で作りますし」
こう、甘いのは得意じゃないって言ってるガブロさんだけどさ。
得意じゃないからこそ、鋭いって感じがする。
カボチャやサツマイモの甘さの方が、クリーム系よりあんこに近いってさ。
知ってる人からしたら当たり前かもだけど、こうして馴染みが無いのにそう思えるのって凄い事だと思う。
「ご馳走さまでした」
そうして一足先に食べ終えたラベンドラさんは、あごに手を当て何かを考え始め。
「どうした?」
「いや、クロワッサンの層を再現するにはどうするべきかと考えていてな」
「ラベンドラの作るパンも美味しいですわよ?」
「それはありがたいが、これは調理士としてのプライドだ。恐らくは五十層は超えるであろうあの生地、再現して見せる」
静かに、闘志を燃やしていた。
そういや、読んでたパン漫画は六十四層だとか、百二十八層だとか言ってた気がする。
俺は知らない事だから、まぁ頑張れとしか言えない事だけどね。
「一つ、提案があるんじゃが」
「どうした?」
「こうした燻製肉などの加工、わしがやってみようと思ってな」
で、こっちはこっちでガブロさんが何か言いだしてる。
「ツマミか?」
「最初はそう思っとったんじゃが、こうしてパンの具材にもなるならば作り得じゃろ?」
「確かに……だが、香草や香辛料はどうする?」
「――チラッ」
こっちを見るなこっちを。
いやまぁ、そりゃあ頼まれたら買って来ますけども……。
「別に構いませんけど……」
「恩に着る」
「であれば今まで通りの宝石量ではいけませんわね。もう少し量を……」
「あー、待って。今より多くなると産地の誤魔化しや仕入れに紛れ込ませるのにも限界が……」
「――そう、か」
宝石量が増えるって話で姉貴から待ったが入る。
というか、誤魔化しだとかなんとか聞かない方が良かった単語無かったか?
……うん、聞かなかったことにしよう。
「じゃあどうする?」
「わしの提案じゃ、わしが見返りをする」
「ガブロさんが?」
「こう見えてもドワーフの端くれじゃからな。あらゆる加工に精通しとるぞい」
う~ん……と言われましても。
特に加工とか、何かして欲しい事は……。
「あ、そういえば包丁の切れ味が最近悪くなってきたんですよ」
「お、研ぐぞい研ぐぞい」
色々切って来たからねぇ。
主に異世界食材を。
というわけで普段使いしている包丁をガブロさんに渡し。
「それで? 最初に何を燻製とかにするんです?」
「まぁ、まずはこの間渡した『トキシラズ』じゃな」
「じゃあスモークサーモンがおすすめですね」
「うむ。というわけでそれに合う香辛料を頼む」
「はい。……あれ?」
今、物凄く自然な流れで『トキシラズ』って言わなかったか?
ちょっと確認してみよう。
「他に、トキシラズで作りたい保存食はあります?」
「特にないのぅ」
つ、つ、通じた~~!!
てことはあれじゃん、俺の適当ネーミング、大当たりを引いたって事じゃん。
やったぜ。
「あ。そういえばなんですけど」
「なんだ?」
「生ハムってそちらの世界にもありますよね?」
「ありますわね」
「同じ要領で『トキシラズ』の生ハムを作ったら……美味しそうじゃないです?」
「…………ガブロ!!」
「任せんか!!」
よし。
家で作ろうと思ってたけど、面倒だしガブロさんに丸投げしちゃえ。
材料というか、香辛料渡すんだし、それくらいはして貰ってもばちは当たらないはず。
「では帰る前に香辛料はお渡ししますね」
「包丁は研ぎ次第姉上あてに転送するぞい」
「宝石みたく頭の高さから落ちて来られたら怪我不可避だから、私を目印にはして欲しくないかな……」
「……では、このテーブルに目印用の魔法陣を書き込んでも?」
「構いませんよ」
姉貴のわがままを許容し、テーブルに魔法陣を描くエルフ三人に背を向けて。
冷蔵庫に入ったフルーツカスタードタルト達を取り出しまして。
一体いつから、俺のパンフェイズが終了したと錯覚していた?
デザートフェイズにすら、俺のパンフェイズは浸透しているのだよ!!
静かに、四人の前にフルーツカスタードタルトを提供するのだった。
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