第495話 抜け道

 ……ちょっとヤバいものが出来たかもしれない。

 宝石蟹の蟹つみれ……色がヤバい。

 あいつら、溶けあわないんだね。

 絵具みたいに。

 何が言いたいかって言うと、比喩でも何でもない七色の蟹つみれが出来てしまったって事。

 海外というか、アメリカだと七色ケーキみたいなのあるイメージじゃん?

 ただ、その文化ってあまり日本に渡って来てないじゃん?

 何故か。

 それは日本人がそんな色の食べ物を食べるのに慣れてないから。

 じゃあアメリカだと慣れてるのかって言われると、その通り。

 子供の頃から原色バッチバチのお菓子とか食べてるから、色に対しての抵抗が無いのよ。


「まぁ、クリーム煮にした見た目がダメって話なんだけどね」


 作っておいてなんだけど、宝石蟹、それぞれ個体別につみれにすればよかったかも。

 何も全部混ぜたりしなくて良かったんだよ……。

 まぁ、作っちゃったわけだし、食べるけど。

 その前に神様たちにお供えだね。

 炊き込みご飯をよそい、蟹の味噌汁もよそいまして。

 蒸し蟹は虹の配色通りに並べちゃって、焼きガニは殻から外して重ねていき、バターを落として醤油を一回し。

 最後に七色蟹つみれのクリーム煮を添えて、神様達へのお供えが完成。

 そっくりそのまま俺たちのご飯と同じですけれどもね。


「じゃあ、神様。八百万の神様達に届けてください」

(むぅ……)

「この後神様にもお供えしますから」

(仕方が無いのぅ)


 …………うん。

 これだけは確実に言える。

 この日本の中において――いや、全世界において。

 神様に供えた物が、目の前で消えたという体験をしたのは、俺が最初だろう。


「あ、飲み物忘れてた。神様追加で」

(だいぶ神使いが荒いぞい?)


 神様の言葉を無視して湯呑にお水を注ぎ。

 ついでに清酒とお猪口も合わせて再度お供え。

 二礼二拍手一礼……と。

 うん、消えたね。

 あ、食器とかは返すようお伝えください。


(分かったぞい)


 よし、じゃあ今度は異世界の神様用によそって……。

 どうぞ。


(ひゃぁっ! いただくぞい!!)


 ……なんだろうな、普通に神様の存在を認めるまでは良いとしても、こうやってやり取りしてるって考えたら、今更ながら大丈夫かと不安になって来た。

 少なくとも、誰にも言わない方が良さそう。

 言うつもり無いけど。


「おっ」


 なんて考えてたら、魔法陣が登場。

 四名様ご来店で~す。


「すでにいい匂い!!」

「食後か!?」

「違います。神様へお供えしてたんですよ」

「なるほどですわ」


 早まらないの。

 大体、俺だけ先に食べてるとかしたことなかったでしょ、今まで。


「……出来てるのか?」

「焼きと蒸しは食べる直前に作ろうと思ってたんでまだです。でも、味噌汁やクリーム煮はもう作っちゃってますね」

「……レシピだけ頼む」


 あぁ、ほとんど料理が出来てると知ってラベンドラさんの元気メーター(エルフ耳)が見る見る下がっていく。

 動物かな?


「酒蒸しにするか?」

「あー……美味しそうですけど神様へのお供えは普通に蒸しただけなんで……」


 流石に、神様に供えた物と別のにする勇気はない。

 つい昨日、それで異世界の神様にお代わり作ったし。


「そうか」

「そう言えば、ワイン蒸しとかも調理法としてありましたね」

「こちらの世界のワインを使えば美味しく仕上がるだろうな」

「そちらの世界のワインはまだまだ時間がかかりそうですね」


 口ぶり的にね。

 やっぱり時間跳躍魔法が使えないのがネックだよね。


「一応醸造ギルドには、ワインに混ぜて味が変わりそうなものを片っ端から預けたが……」

「それで味が変わるまでに、何年待つ必要がある事やら……」


 ……ん?

 待てよ?


「ワインに時間がかかるのは跳躍魔法の対象に取れないからですよね?」

「そうだ。もっとも、ワインだけではなく液体全般が対象に取れないわけだが」

「その原因は時間跳躍を使うと神の取り分が無くなるから、それに怒った神様が対象から外しちゃったからですよね?」

「そうだぞ」

「どうしましたのカケル? 今更そのような事を確認して……」


 俺の考えが確かならだよ? ワインの味が変化するかどうか、すぐに分かっちゃうんだけど……。


「それって、神様本人に試させるのはダメなんですか?」

「――なんじゃと?」


 神様が魔法の対象を自由に弄れるならば、自分の使う時間跳躍の魔法に液体を加えることだって可能なはず。

 であるならば、神様本人は即座にワインを作っちゃえるハズな訳で……。


「だが、確認のしようがないぞ?」

「リアクションを俺が聞きます。そうすれば、神様は味が変化したワインを楽しめるので神の取り分を気にする必要がありませんし、それで味が変化すると分かれば、それを醸造ギルドに報告して結果を共有できる」

「……お待ちくださいな。神様は何と言っておりますの?」


 どうです神様? 俺の提案。


(わし本人からどうこう言えんのじゃが……そうじゃな。先程貰った蟹の料理達に合いそうなワインが飲みたい気分ではあるのぅ)


 なるほど。

 という事は……、


「無理みたいです」

(なぜそうなる!!?)


 冗談ですよ。


「というのは冗談で、実は皆さんが来るより先に俺が今日食べる料理をお供えしたんですけど」

「だからいい匂いがしていたのか」

「その料理達に合うワインが飲みたい気分だそうです」

「……なるほどな」


 よし、これで伝わったろ。


(ふふ、楽しみじゃな~。どんなワインになるのかのぅ~)


「であるならば、我らも料理を食べてどんなワインが合うか考える必要がある」

(ん?)

「ですわね」

(いや、割とすぐワインを飲みたいんじゃが……)

「じゃあ、ご飯とか味噌汁とかよそいますね」

(のぅ? 聞いておるか?)

「神へ捧げるワインの為だ、しっかり味わって食べねば」

「じゃのぅ」


 ……神様、と言う訳でもう少しお待ちください。


(なぜじゃぁっ!?)

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