第370話 コロッケの胃流れ

 ううむ……。

 並べてみるとやっぱり凄いな。

 サラダに、ポタージュにコロッケにトルティージャ。

 こうして見るとフルコース感強くてわくわくする。

 ……洋食だのスペイン料理だの混ざってるけども。


「パンも焼けたようだ」


 はい、懺悔します。

 あれだけ料理が出来上がる時間を気にしていたというのに、この翔という男。

 今日の主食であろうパンを焼き忘れておりました。

 いやぁ……マジャリスさんの、


「ご飯は炊いてないようだが今日はパンか?」


 という言葉で思い出さなかったらもっと遅れてたところだよ。

 時間にしてざっと三分。ギリ耐えって感じ。

 たまにはマジャリスさんの食いしん坊も役に立つじゃん。


「それではいただきましょう」

「あ、オムレツにはケチャップやソース、コロッケにも同様にありますんで好みでどうぞ」


 一応、コロッケにもトルティージャにも味は付けてるけどね。

 薄いなと感じたら、ケチャップでもソースでも好みで付けておくれ。

 だがまずはスープから。

 静かに掬って口に運べば……。


「ほう」

「凄く滑らかで、とてもクリーミィですわね!!」

「口の中に流れては来るが、しっかりと存在感を感じる」

「トロリとしておるが、しっかり侯爵芋の粒が感じられるな!!」


 という四人の言葉通り、かなり滑らかなポタージュだった。

 例えとしては、レストランで出てくるようなコーンポタージュを思って貰えると大体合ってる。

 濃厚な侯爵芋の旨味が、牛乳によって引き伸ばされ。

 伸びたところにコンソメが美味い事入りこんで、合間合間に玉ねぎの風味や甘み、旨味が感じられる。

 パセリの香りも素晴らしい。

 惜しむらくはクルトン……。あれがあるだけで一気にスープとして、完成に近づいただろうに……。


「この一杯の為だけに店に並ぶ自信があるな」

「分かりますわ。この一皿が、そのお店の看板メニューになっていてもおかしくありませんもの」

「ここにパンを浸して食べると最高でしょうね」

「カケルが悪魔みたいな事を言っとるぞい」


 誰が悪魔じゃい。

 パンはスープに浸すものでしょ。

 俺はカップスープに焼いた食パン浸して食べてたぞ。

 パンの耳だけ先に食べといてさ、フワフワカリカリの部分をスープに浸すんだよ。

 最高だったな……思い返せば。


「でもやるんですね?」

「やらいでか!!」


 俺の事悪魔とか言ってた癖に、みんな当たり前にスープにパンを浸し始めるの笑うんだよな。

 まぁ、俺もするんですけどね。


「美味い……」

「焼いたパンの香ばしさと固さが、スープが染み込むことによって柔らかくなりますわね」

「そもそもパンと相性がいいスープだ。外れる訳がない」

「美味いのぅ……美味いのぅ……」


 いや、本当に美味いよ?

 というか、これスープの満足感じゃないな。

 当たり前にメイン食べたみたいな満足感あるけど。

 ……ただ、パンに付けるならもう少し味が濃くて良かったかも。

 コンソメとか、もっと効かしたいな。

 後は……マッシュルームとか、キノコ系も混ぜたら美味しいと思う。

 マジでスープをメインに据えるなら、だけど。


「驚くことにまだスープなんだな……」

「コロッケも、オムレツもあるぞい」

「侯爵芋……入手難度の高さを無視するなら、常に確保しておきたい食材だな」

「大体の食材がそうでしょうに。カケルの所に通い始めて、今まで見向きもしなかった食材を買いあさる姿をよく見ますわよ?」


 通う言うなし。

 ほぼそっちの押し掛けだったの、忘れたとは言わせんぞ?

 最初は武器構えてたし、ヘタすりゃやられるんじゃ? みたいな恐怖があったんだよな。

 それが今じゃあ食欲に忠実な無害なエルフとドワーフになっちゃって。

 やはり、食べ物。食べ物は全てを解決する。


「次はどちらを……?」

「オムレツ……いや、コロッケを出来立ての内に……」

「俺はコロッケ気になりますから、そっちに行きます」


 悩むエルフ達を置いてけぼりに、俺はコロッケにフォークを突き立て。

 大きいからね、ナイフで一口大に切っていくと……。


「うわ、すっご」


 切り口から、トロリと中の具が流れ出てくる。

 ただのじゃがいもの――侯爵芋のコロッケなのに、クリームコロッケよりもさらに滑らかなのヤバいな?

 切り分けた一口大の方に、お皿に流れ出した中身をナイフで掬って塗って。

 いざ、侯爵芋コロッケ!!

 ……不味いはずが無い!


「やっばい」


 もうマジで、比喩でも何でもなくすすらないとダメな位中身が液体。

 そうこうしてるうちに切り分けた方からどんどん中身が流れて来ちゃうし。

 とりあえず別のコロッケに切ったコロッケを立てかける様にしてそれ以上の中身の流出を防ぎ。

 既に皿へと流れだした中身は、責任持ってパンにまぶして食べる事にします。

 ……そのパンがうめぇ。


「ここまで滑らかに!?」

「口の中が美味しいで溢れますわぁっ!!」

「侯爵芋は液体、ヨシ、覚えた」

「さ、さ、さ、酒ぇぇっ!!」


 みんなコロッケの流動性に驚いてるね。

 ただ……これ、油断してると口の中火傷一直線だな。

 注意しないと口内全部ただれるぞ……。


「ちょっと滑らかにし過ぎましたかね?」

「味わい的にもインパクト的にも、最善だと言えるだろう。唯一の欠点は食べやすさが伴わない事だが……」

「空間保存、空中浮遊。その他魔法で補助すればどうとでもなりますわ」

「俺がどうともなりませんけどね?」

「わしもじゃ」


 当たり前に食べるために魔法必須なのはあまりにもエルフ優先思考過ぎるのよ。

 特殊賞味食材かな?

 さて、最後は俺作のトルティージャですか。


「コロッケの衝撃が凄かったですもの」

「こちらのオムレツも、覚悟しなくてはいけないだろうな」


 あ、あの。

 そんなハードル上げんでもろて。

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