第135話 新規開拓

 ふへ。

 ふへへ。

 近所にハーブ類を取り扱ってる店を開拓しちゃった。

 これでわざわざデパートとかまで行って仕入れてたハーブ類が近場で買えるぞ……。

 感謝……っ!! 圧倒的感謝……っ!!

 というわけで早速下ごしらえから料理の準備をしていきましょう。

 本日の料理は蒸魚ツェンユイなるお料理。

 文字通り蒸した魚に生姜だのネギだのを乗せ、その上から熱した油を回しかけるという料理にござい。

 油の香ばしさと香草の香りが引き立って、白身魚と非常に合うとのことで。

 作り方を詳しく調べて、今日が初実戦。

 ただ、こう言うとアレだがそこまで手の込んだ料理じゃないし。

 蒸し時間とかさえ守れば誰でも美味しく作れそうな料理ではある。

 中間部分の歯ごたえグミ部分を消化したくてね、調理時間がある程度変えられる蒸しにて消化する所存。

 あの歯ごたえが正直どうなるのかなんて予想付かんね。


「えーっと、まずはネギを皿に敷き詰める、と」


 というわけでレシピ通りに作っていきましょ。

 初めて作るレシピは自我を出さない。書かれている通りに調理する。

 これ、失敗しない鉄則ね。


「で、白身魚を乗せて――」


 その時、俺に電流走る。

 これ、異世界の魚でも同じことをして大丈夫なのか? と。

 具体的に言えば、油をかけた瞬間よく分かんない反応して襲って来ないとも限らないじゃん?

 ……ま、ないか。そんな凶暴な食材、渡さないか、渡すにしても無力化してから渡すでしょ。


「んで、スライスした生姜、ネギ、と」


 そしてここで登場。

 俺がわざわざ近場の香草売ってる場所で手に入れた食材!

 中国語で香菜シャンツァイ! 英語でコリアンダー!

 だが日本で一番馴染みのあるのはタイ語のパクチー!!

 そう、俺はパクチーを求めていたのだ!!

 だが勘違いしないで欲しい。俺はパクチーをこよなく愛する人種、パクチニストとは違う。

 至って普通のエルフ達に食事を提供しているだけの日本人なのだ。

 ――えーっと、普通、普通……普通ってなんだっけ?

 特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま、か。

 じゃあ普通だな! 自己分析ヨシ!!

 というわけでパクチーも大量に散らし、準備完了。

 あ、事前にシロミザカナモドキには塩コショウで下味をつけてる。

 そしたら蒸しあがった時にかける油の用意……は蒸してる途中でいいか。

 ほな、四人が来るまで移動。



「邪魔するぞ」

「いらっしゃ~い」


 というわけでやってきました四人組。

 『夢幻泡影』の方々で~す。

 ……今日はちょっと遅かったな。

 おかげで風呂掃除まで終わっちまったよ。


「今日の料理は?」

「今日は蒸してみようかと」

「蒸しか、なるほど」


 いつものようにテーブルに着席する三人と、エプロン付けながら寄ってくるラベンドラさんとに別れまして。

 ラベンドラさんに、今日の料理の説明。


「香草と一緒に蒸して、蒸しあがった後に熱した油をかけます」

「ほう。その心は?」

「魚に香草の香りや油の香ばしさを移す目的があります」

「なるほど。興味深い」


 というわけで乗り気のラベンドラさんを引き連れ、調理開始。

 まずは蒸し器にそれぞれ用意した皿をセットしまして。


「中ほどの身を使ってますけど、蒸し時間はどれくらいです?」

「む? 千二百秒ほどあれば身は柔らかくなるはずだぞ」


 ……。

 ええっと、千二百を六十で割って……二十分か。

 レシピには十五分前後って書いてあったから、まぁ許容だな。


「じゃあ、蒸してる間にみそ汁を作っていきましょう」

「む、わかった。今日は早めに作るのだな」


 とまぁラベンドラさんはやっぱりみそ汁=インスタントで覚えちゃってるか。

 今日は正真正銘俺が作るんだけどな。

 鍋に水を張り、沸騰させて。

 増えるワカメをぶち込み、続いてお豆腐。

 絹ごし豆腐を手の上でサイコロ状にカット。

 ラベンドラさんが何か言いたげだったけど、多分同じことを思い出したんだろう。

 麻婆豆腐の時にさ、手が切れるみたいな話をしたんだよね。

 全く同じ事を言おうとして、思い出して踏みとどまったんじゃない?

 知らんけど。


「後はここに味噌を溶かして完成です」


 既に刻まれている油揚げも投入したら、出汁入りみそをお玉で掬って溶かしていく。

 ほんと出汁入り味噌大好き。

 これさえ入れればみそ汁になるんだもん。

 ノーベル日本食賞があったら俺は投票するね。

 出汁入り味噌を発明した大天才にさ。


「カケル、すまない。その調味料は?」

「これが味噌です。味噌を溶かしたスープだから、みそ汁」

「なるほど……。少しいいか?」


 と言われたので少量掬ってラベンドラさんへ。

 ちなみにこの味噌は合わせ味噌にござい。

 ただなぁ、味噌自体をそのまま味見してもなぁ。

 味が濃すぎて分析どころじゃないと思うんだけど……。


「……なるほど。発酵食品か」


 出来るんだ。

 エルフの舌ってすげー。


「このままでは塩味が強いが、薄めたり伸ばしたりすれば肉や魚に合いそうな味だ」

「味噌漬けとかは確かに両方ありますね」


 んで分析もしっかりしてる、だと?

 えぇい、エルフの舌は化け物かっ!?


「そろそろ蒸しあがるな」

「じゃあ、上からかける油の準備をしていきますか」


 ラベンドラさんからの報告で、いよいよ調理は最終局面へ。

 右手にフライパン、左手にごま油。

 燃えろ! バーニングハートっ!!

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