突撃！ 隣の世界の晩御飯！

第136話 弱点

　蒸した時に魚から出た出汁は、絶対に捨てずに使いましょう。

　翔お兄さんとの約束だぞ☆

　というわけで蒸し工程を終えたシロミザカナモドキに熱した油をかけませう。

　ドキドキの初体験だね！

「油をかけると一気に香りが引き立つな」

　湯気が出るほどに熱したごま油を、スプーンで掬って魚に回しかける。

　野菜とかにかかると、パリパリ？　パキパキ？　みたいな、愉快な音が聞こえてくるの楽しいわ。

　んで、ラベンドラさんの分析はやっぱり鋭いね。

　油かけた瞬間に、生姜とかネギとか、香りがぶわって広がったよ。

　あと、もちろんパクチーも。

　この何とも言えない癖の強い香り。

　たまにでもないし無性にでもないけど、何故だか摂取したくなる日があるんだよなぁ。

　……ハッ！？　もしやパクチニストの第一歩か！？

「この匂いはなんだ？」

「色んな香草の香りだが？」

　と、部屋中に充満した香りに、マジャリスさんが反応。

　ん？　気のせいか？　ちょっと不満気か？

「そうか……」

　なんかテンション低いな。

　だが！　しかし！　駄菓子菓子！

　この蒸魚を食べてみれば変わるだろう！！

　さぁさ、早速おあがりよ！！

「わぁ！！　物凄くいい匂いがしますわ！！」

「こりゃあ食欲がそそるわい！！」

　お出しした途端リリウムさんとガブロさんの反応がこれ。

　やはりね、嗅覚って脳にダイレクトに届くよね。

　ちなみに蒸魚には、油をかけた後に醤油とオイスターソースをサッとかけてある。

　レシピにそう書いてあったし。

「身は柔らかくしっとり！　そして香草の香りが強く引き立っていますわ～！！」

「身自体の味がしっかり引き立ち、臭みは香草がバッチリ消しとるぞい！！」

「この香草の香りは独特だな、かなり癖が強いがこの料理と相性がいい」

　ホラ、美味しい。

　――ん？

　いつもより感想が一人分足りんな。

　えーっと……リリウムさんが最初に感想言ってて、ガブロさんがシロミザカナモドキの臭みを香草が消してるって話してて。

　ラベンドラさんが、パクチーの香りに言及してる。

　……マジャリスさん！？　感想はどうしたおぉぉんんっ！？

「どうした、マジャリス？　食べないのか？」

「い、いや……そのだな……」

　蒸魚に一切手を付けてないマジャリスさんが、ラベンドラさんに詰められてる。

　マジャリスさんのこんな反応新鮮だな。

　ウケる、撮っとこ。

「美味しいですわよ？」

「そうじゃぞ、カケルが不味い料理を出すはずがないんじゃ」

　と、リリウムさんとガブロさんにも言われ。

　マジャリスさんは、ごくりと唾を飲むと、固く目を閉ざして蒸魚を口へと放り込む。

　そして――。

～Nice boat～

　今回の件で俺が得るべき教訓は、マジャリスさんは文字通りひとかけらどころか匂いすらパクチーがアウトだという事だ。

　まさかリバースするとは……。

　慌ててラベンドラさんとリリウムさんが訳分からん魔法を駆使して掃除してくれたよ。

　……というわけで現在はマジャリスさん用にパクチーを鷹の爪に変えたものを蒸してる途中。

　正直、既に調理を終えちゃってるから、パクチーの匂いはどうしようもない。

　ので、我慢してもらうしかない。

　今回に関しては、だけど。

　今後はパクチー控えるか、どうしても使うときはマジャリスさん用にパクチー無し版も作るとするか。

　……いずれは俺の料理の腕とラベンドラさんの腕を持って、克服させてやろう。

　フハハハハハ、楽しみに待っているがよい。

「身はふっくらで、香草が油によって香ばしくなっている。……ピリリと舌に来る辛みが食欲を増進させるな」

　ちなみに作り直した蒸魚は好評でしたわよ。

　マジャリスさんが一口しか手を付けてないパクチーの乗った蒸魚は、他三人が取り合うように分け合ってた。

　さて、俺も食べますか。

　身をほぐし、香草と一緒に汁に絡め。

　それらをご飯の上に乗せていき、簡易丼の形に。

「カケル……何をしている？」

「何って、蒸魚丼にしてるだけですけど」

　別に、おかずをご飯の上に乗せただけだが？

　いやぁ、作ってて思ったんだけど、絶対にこの食べ方が美味いはずなのよ。

　というわけで、蒸魚丼を掻っ込む！！

「うっめぇ……」

　問、魚と醤油とご飯の組み合わせが合わない場合を答えなさい。

　答、ねぇよ！　んなもん！！

　というわけで、最高に美味い。

　ふっくらしっとりのシロミザカナモドキ、それらを包む香草たち。

　シロミザカナモドキの出汁がたっぷりと出て、醤油とオイスターソースの絡む汁。

　それらの土台になり、甘みで全体を丸く押さえている米。

　最高にして至高。まーじで美味い。

「む、このみそ汁、いつものとなんだか違いますわね」

「ふぅむ……尖った塩味が目立たんな」

「カケルが作った……文字通り手作りしたみそ汁だ。これまでのものとは違うのも当然」

「具が多いのがいい。あと、豆腐が美味い」

　とまぁ、みそ汁をここまで褒めてくれる人たちも居ねぇわってくらいに褒められた。

　でもなぁ、俺としてはインスタントの味噌汁も好きなんだよなぁ。

　楽だし、洗い物少なく出来るし、楽だし。

「このみそ汁も作り方を見たなら再現出来んか？」

「出来ない事はないだろうが、再現しても米はないぞ？」

「む、そうか」

「パンに合うかと言われると微妙だろう。やはりみそ汁には米だ」

　ズズー。

　はぁ、やっぱり自分で作ったみそ汁は落ち着く味だぁ。

　にしても蒸魚、初めて作ったけど美味かったな。

　今後は俺の料理レシピに記録しておこう。

　白身魚なら大体合うみたいだし。

　にしても、

「でも、みそ汁だけでも飲みたい日はあると思いますわよ？」

「どうせみそ汁を飲んだら米も欲しいとか言い出すだろうに」

「そうじゃ、そうなったらカケルの所に転移する時間まで果てしなく待つことになるぞい」

「もう農業ギルドにこの世界の稲作の技術を伝えてだな……」

　みそ汁一つでここまで熱く議論出来るの、なんかおもろいな。

　ウケる、撮っとこ。