第134話 異世界調理事情
応答せよ、HQ、HQ。
こちら翔、ただいまラベンドラさんの揚げ物の横に潜入中。
ソースを温めなおす事には成功している、追加の指示を。
――チッ、返答なしか。
本部は潜入好きな蛇にでもやられたか。
「カケル、揚がったぞ」
「それじゃあ、油を切ってご飯の上に」
さて、タイムリミットという名のフライが揚がる時間が来たのでラベンドラさんに指示を出し。
盛られたフライの上から、煮詰めたトマトソースをかけましてっと。
はい完成。おかわりだし、全体的な量は初動の八割位になってる。
だが思い出して欲しい。あの人たちには大盛り以上にご飯を盛った事実を。
というわけで、今の丼の中身は普通盛りと遜色ない盛りをしているのだ。
この人達の胃はブラックホールかな?
あ、キングベヒんもス飼ってるんでしたね。これは失敬。
「おお! 赤が入ると一気に見栄えが良くなるな!!」
で、おかわりを出した瞬間これですよ。
この人ら、既に超大盛完食してるんだぜ?
それで見た目がどうとか言えるのマジで凄いわ。
「先ほどのタレとは違う、さっぱりとした酸味が目を見張るな」
「先ほどのタレとは別ベクトルで揚げ物に合いますわね。ブラックペッパーの香りと香草の香りがとてもその……美味しいです!」
「やはり米の万能感が凄いな。酸味にすら絶妙にマッチする」
「『太刀魚』にトマトが合うのも発見じゃないか? 元の世界で、合わせて調理した代物はちょっと思いつかんぞい」
だ、そうです。
魚にトマト……結構ポピュラーじゃない?
そりゃあ日本じゃ馴染み無いけど、イタリアとかにはあるでしょ、無数に。
トマト煮とか真っ先に浮かんだしね。
「そもそもあまり野菜と肉や魚を一緒に食しませんもの」
え? マジで?
流石に嘘やろ?
「だな。盛り付けで同じ皿に盛る事はあるが、同じ鍋で煮込んで~と言った料理はあまりない。それこそ、チャウダーくらいなものだ」
「そもそも俺たちの世界では野菜は全てマンドラゴラだ。マンドラゴラを他の魔物と調理する、という発想にあまり至らない」
あー……なるほどな?
こっちでは野菜でも向こうじゃ魔物だもんな。
魔物と魔物を一緒に調理ってなると、こっちの世界だと豚と魚を一緒に調理とかになるのか。
そりゃあ、そうなるかぁ。
「ふぅ、ごっそさん! 美味い飯じゃったわい」
なんて話してたらガブロさんが完食。
漬物も、みそ汁も全て綺麗に平らげてくれましたわ。
「もう少し味わって食ったらどうだ?」
「? 美味い物は掻っ込み、頬張って食う。これが一番美味い食い方じゃろうが」
まぁ、考え方は人それぞれだしね。
ちなみにその意見には俺も概ね賛成。
結局口一杯に頬張って食うのが一番美味いんよ。
「ふぅ。流石にこれ以上は食えん」
と、丼を置いてお腹をさすりながら言うマジャリスさん。
安心してください、誰ももっと食えとか言ってませんから。
「こういう、異なる味付けの食べ比べは興味深いものでしたわ」
ほら、リリウムさんを見習いなさいな。
上品に口元拭きながら――やっぱりお腹さすってますね。
結構無理して食べたのかな?
「戻ったらマンドラゴラと肉や魚の煮込みなどを試してみよう。――む、ラーメンも作ってみるのだった……」
ラベンドラさんとか凄いわ。
俺なら満腹の時に次の飯の事なんて絶対に考えられない。
まぁ、皆さんへのお持ち帰りご飯は作りますけども。
というわけでラベンドラさん? また揚げ物よろしくお願いします。
本日のおみや、白身魚のフライ・タルタルとトマトソースのサンドになります。
揚げて貰ったらソースと一緒に挟むだけ。
簡単でよろしい。
*
「で、私達に依頼をしたい、と」
「そ。他の冒険者たちにも声をかけたんだけど、海中の魔物は勘弁ってさ」
元の世界に戻り、一夜明け。
アキナと共に白身フライサンドを齧っていた時。
レシュラック領の沖合に出現した魔物の討伐依頼を、ギルドマスターから持ち出され、
「別に受けても構わんが、報酬は?」
別に断る理由も無い、と話しを進めていく。
「討伐対象の素材は全部そっちに一任。で、報酬金も出す。あと、こっちの倉庫にある素材も好きなの一つ持っていっていい」
「随分太っ腹な条件だな」
「それだけその魔物に手を焼いてくれるって事。で? 『夢幻泡影』さんは受けてくれるのかしら?」
「構いませんわよ? で? 私たちは何を討伐すればよろしいので?」
リリウムが尋ねると、アキナは周囲を警戒し。
顔を近付けるようにジェスチャーをし、全員が顔を近付けたところで。
「コロッサルなんだけどさ」
と小さな声で呟いた。
「コロッサル……強大な八本足の怪物ですわよね?」
「そう。それが見つかっちゃってさ」
「確か文献には、船を襲って沈めたとあったはずだが……」
「既に何隻かやられてるのよ」
「こりゃあ骨が折れそうじゃわい」
と、三人が言う中、
「待て」
ラベンドラだけが待ったをかける。
「どうした?」
「何か不満でもありますの?」
そのただならぬ様子に不安げに尋ねるマジャリスとリリウムに。
「大事な話を聞いていない」
と、宣言した上で。
アキナへとグッと顔を近付けたラベンドラは、ただ一言。
「味は?」
とだけ尋ねるのだった。
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