第364話 ダイレクトシュート(胃袋)
皆が見守る中、とりあえずカツだけを持ち上げ、口元へ運ぶ――ガブロさん。
皆の無言の多数決の結果、最初の毒見おっと、一番最初に食べるのがガブロさんに決定しましたとさ。
というわけで大人しくカツを食べるんだけど……。
「むほほ! しっとり柔らかく、噛むほどに肉汁が溢れてくるぞい!!」
正直カツの方を食べて欲しいわけじゃないんだ、うん。
問題は緑色の卵の方なんだ。
なので、カツの感想より、その後に放り込まれるであろう卵とご飯の反応に着目してたんだけど……。
ガブロさん、カツの後、もはや色とか気にする素振りも無く掻っ込んでさ。
「あっ」
というマジャリスさんの反応に、
「ん? ああ、そう言えば卵が違うんじゃったな」
とか言っちゃってさ。
警戒してた俺らがバカみたいな反応だったよ。
しかも、
「ふうむ……別にあまり変わらん気がするなぁ」
という、あまり信用できないコメントもいただきまして。
俺とラベンドラさんと、顔を見合わせて軽くため息。
「熱い内に食べましょうか」
「そうだな」
なんて会話を交わして、異世界カツ丼に着手。
で、まるで示し合わせたかのようにまずはお互いに卵から味見。
「あー……」
「なるほどな」
ガブロさんがあまり変わらない、と言ってた理由が分かったかも。
まず、あまり卵の味がしないんだ。
味がしないは語弊があるか。調味料の味がめっちゃ浸みてる。
でも、ちゃんと感じられはするよ?
俺が普段食べてるタマゴに比べて、まずは風味が弱い。
味は少しコクがあるかな。
あと、まろやかさもこっちの方が上。
かなり癖が無くて、たまにいる卵の香りが苦手な人でも全然美味しく食べられると思う。
「このカツが最高に美味しいですわ!!」
「カツ、卵、ご飯、全員でジェットストリームアタックを仕掛けられている感じだ!!」
どこで習った? そんな言い回し。
あと、三人呼び掛けてるんだけど……。
声の主誰だよ。ジェットストリームアタックは三人の連携だぞ?
「おお! これは肉との相性が素晴らしくいいぞ!」
というラベンドラさんの言葉に釣られ、まずはカツをパクリ。
あ、まずカツが最高でござるな?
とんかつとかと違って、若干肉に固さはあるものの、歯を立てたらシャッキリ嚙み切れてさ。
衣のザクッ、お肉のシャキッという歯ごたえと共に、カツの衣から出汁がジュワッと。
さらにその後から、衣の周りの卵からも出汁の追い打ちが溢れて来て。
普通の卵より強いコクがここで生きてくるよ。
あと、滑らかさが肉汁と混ざり合って最高になる。
最高にハイって奴だ。
「最高に米が進むな」
「玉ねぎの食感や甘みもいいアクセントじゃわい」
「私は丼の境地に辿り着いたかもしれん」
「この丼は確かに到達点かもしれませんわね」
……盛り上がってますね。
ちなみに不要かもだけど、丼の歴史上最初に作られたのは天丼。
あるいはうな丼、らしい。
まぁ、そもそもカツ丼は出てくるのが遅かったわけなんですけれども。
それにしては奮闘してると思うよ。
好きな丼を聞いたら絶対上位だしね、カツ丼。
「肉の厚さも、もう少し欲しいと思っとったが、こうして食べてみるとこの位が丁度いいわい」
「肉の固さで最適な厚さは変わる。ジライヤタンの部位にもよるだろうが、この使ってある部位はこの厚さが最適だな」
「肉は厚ければ厚いほどいいのではないのか?」
「火の通り方や食べた時の食感を考えると、限度がある」
「そうですわよ? 度が過ぎればむしろ食材を殺してしまいますわ」
カツ丼には三つ葉を乗せたい気持ちもあったけど、この緑色じゃあねぇ。
色の映えも無くなっちゃうし、リボーンフィンチの卵を使うときは緑色の食材は控えた方がいいかも。
そこんとこどう思う? たった今分身して出てきたリボーンフィンチの卵さん。
――アイエエェェ!? タマゴ!? タマゴナンデ!?
お前冷蔵庫にぶち込んでた筈だろうが!? めっ! 勝手に出てきたらめっ!!
「む、分身か」
「ベースは冷蔵庫に入れてるはずなんですけどねぇ」
とりあえず融合しないように引き離しとくか。
……窓際でいいべ。
「……待て」
「はい?」
「既に一度分身しているんだよな?」
「ですよ?」
「もう二度目の分身を?」
あ、なんかこのパターン知ってる気がする。
こっちの世界の環境に適応しちゃって、普段より分身のペースが速い奴だ。
俺は詳しいんだ。
「普通は一週間から一月に一度くらいのペースのはずでは?」
いや早スギィッ!!
はえぇよ!! 7~30分の1は想像の五倍は早いんよ。
お前まさか、異世界に来られてはっちゃけてるとか無いか?
どこぞのエルフみたいに。
「とりあえず我々も冷やしてみるか」
「ですわね。毎日卵が安定確保出来るなら栄養的にも大助かりですわ」
「カケル、他に卵に何かしたことは?」
「香水をかけたとか!? アイスでも食べさせたか!?」
「酒じゃろ、酒」
「いや、マジで何もしてないんですけど……」
とりあえず皆さん落ち着いて。
俺まだカツ丼食べてる途中ですから。
「よし、お代わりを作る。丁度卵も確保できたしな」
で、先に食べ終わってた四人は、追加のカツ丼を作り始めました。
えーっと、リボーンフィンチさん、元気に卵を分身させたところ申し訳ないのですが、向かう先はエルフとドワーフの胃袋の中です。
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