第368話 ほんわかぱっぱ

「俺は朝は食わねぇ派なンだが……」


 異世界に戻り、朝を迎え。

 それぞれのセーフゾーンを結合し、合流した『夢幻泡影』、『ヴァルキリー』、『無頼』は。

 『夢幻泡影』の提案で、一緒に食事をとることに。

 朝は食べない、と言っていた『無頼』も、半ば強引に参加させられており。

 反面、絶対に美味しいご飯が出てくると知っている『ヴァルキリー』はかなりご機嫌。

 そんな『無頼』と『ヴァルキリー』に振る舞われるのは、当然翔から貰って来たジャムであり。

 そこに、ラベンドラが焼いたバターロールが添えられた。


「いつものパンか……。――こっちは?」

「秘蔵のジャムだ」


 という短い答えに、『無頼』は、僅かに眉を吊り上げ。

 半信半疑で、金柑のジャムを手に取ると。

 かなり控えめな量をスプーンで掬ってパンに乗せ、パクリ。


「……うめぇ」

「美味いな!!」


 小さくこぼした感想も、それ以上に大きく反応した『ヴァルキリー』のアタランテの声にかき消される。

 そして、自分でも素直な感想が出たことに驚いたらしい『無頼』は。

 今度はラフランスのジャムを掬ってパンに乗せる。

 もちろん、金柑のジャムの時よりも多い量を。


「マジでうめぇ」


 そうして、ほぼ美味いしか言わないBOTと化した『無頼』が、全てのジャムを制覇するため。

 バターロールのお代わりを所望するまでに、そこまで時間はかからなかった。



「う~む……」


 じゃがいもと卵、真っ先に思いつくレシピはスペイン風オムレツなんだけど……。

 作ったんだよなぁ……デカクカタイタマゴの時に。

 まぁでも、作るか。

 後は……じゃがいもと言ったらコロッケか。

 そう言えば、マッシュポテトにカレーをかけて食べたら美味い、みたいな話をどこかで見た気がする。

 まぁ、芋だし、主食として使われても違和感無いし。


「とりあえずはじゃがバターだな」


 ちなみに侯爵芋、男爵イモとかと同じく? 馬鈴薯系の特徴でさ。

 茹でたりすると、煮崩れしやすいみたいなんだよな。

 今茹でてみて実感してるよ。


「えーっと、バター、バター」


 冷蔵庫に残ってるバターを、茹でたての侯爵芋に乗せまして。

 少し溶けるのを待って、箸で崩して口の中へ。

 おほっ。

 うま、うま。

 バターの塩味と侯爵芋の味がかなりマッチしてる。

 あと、侯爵芋はやっぱり旨味が濃いな。

 その旨味も、純粋な旨味だから甘さもしょっぱさも合うんだろうな。

 口の中に入れた時はそのままなのに、一度歯を立てて崩すとそこから雪崩みたいに崩れて来てさ。

 最終的にはポテトのポタージュみたいになるんだ。

 ……ポタージュいいな。

 ポテトのクリームポタージュ。絶対に美味しいじゃん。


「サラダは適当に買ってくるとして、コロッケとポタージュとオムレツ……十分じゃね?」


 米を食えるかって言われると微妙なラインナップだけど。

 いやまぁ、コロッケとオムレツの味付け次第で余裕ですけど?

 このメニューなら俺はパンを選ぶね。

 折角だから、俺はこの柔らかいパンを選ぶぜ。

 そう言えばだけど、高級食パンって一時期ほど見なくなったね?

 俺だけ?

 まぁ、デパートに行けば売ってあるし、今日はそこに買いに行ったんだけども。

 ……高級食パン三斤くださいって言うの、中々に勇気が要った。

 どうせ持ち帰るだろうし、多めに……なんて思ったけど。

 三斤は多すぎたかもしれない。

 二斤で充分だったかも。



 さて、今日の料理は別段必要な工程も多く無いし、複雑でも無いから余裕があるわね。

 ――と思っていたのか?

 先にコロッケだけはタネを作っちゃいませう。

 というわけで侯爵芋を包丁で切り崩し、そいつを塩茹で。

 茹でてる間に玉ねぎをみじん切りし、狐色……柴犬色になるまで炒めまして。

 茹で上がった侯爵芋を一旦ざる揚げ。軽く水分が飛ぶまで放置。

 この辺で玉ねぎがいい色になったので、合いびき肉を投入。

 しっかりほぐしながら炒めまして。

 冷まし過ぎると芋が固くなるので、頃合いを見て潰す。

 どれくらい潰すかは完全に好みなんだけど、侯爵芋、押すだけで潰れると言うか崩壊していくんだよね。

 結局、塊がほぼ残らない位になったな。


「後はこれらを混ぜ合わせてっと」


 玉ねぎとひき肉を炒めているフライパンに、潰した侯爵芋を流し込み。

 塩コショウで味を調えて、全体を奇麗に馴染むよう混ぜればタネの完成。

 ……なんだけど、崩壊した侯爵芋が滑らか過ぎて、全然まとまらないなコレ。

 ラベンドラさん達が来たら、魔法で浮かせて形成してもらお。

 こういう時に便利だね、魔法って。

 さて、後はデザートの準備か。

 生クリームはある、バニラアイスもある。

 ジャムも追加で買い出ししてきた。

 サワークリームすらもある。

 って事はですよ? クレープの具が大体なんでもあるって事だな?

 というわけで、本日のデザートはクレープ。

 ただ、当然だけど俺はクレープを作った経験なんてない。

 となるとどうするか? 決まってるでしょ?

 全部ラベえもんにお任せですわよ。


「しょうがないなぁカケル君は」


 とか言わないかな。言わないか。

 言うとしても、


「しょうがないなぁマジャリスは」


 の方だな。

 なんて、バカな事を考えながら。

 俺は人をダメにするソファにダイブするのだった。

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