第367話 バラ50本
「ラベンドラ、ポテトパンケーキお代わりだ!!」
「そう焦るな。私もまだ食べている途中だ」
「何を言う!? こんなにもジャムがあるんだぞ!? 全部食べてしまわないと!!」
……マジャリスさん? そりゃあちょっと厳しくない?
明らかに一日で消化する量じゃあないのよ。
いくら早めに食べる用のジャムだとしてもね。
「余った分は持ち帰ってもらって結構ですよ?」
「ラベンドラ、焼かなくていい。持ち帰って朝食にしよう」
「……だったらお前が抱いている大容量のアイスを手放せ」
ちなみにマジャリスさんは、生クリームとアイスの乳製品コンボが気に入ったらしく。
ポテトパンケーキのしょっぱさと、アイスや生クリームの甘さの組み合わせをマジでもうずっと食べ続けてる。
途中でジャムを使って味変したりはしてるけどね。
「こちらの果肉たっぷりのジャムが最高に美味しいですわ」
リリウムさんはジャムの中でも、特にリンゴのジャムがお気に入りっぽい。
あ、あとさ、このポテトパンケーキ、調べてみたらドイツとかに似たようなのがあるらしい。
そこではサワークリームとりんごソースが定番とかなんとか。
つまりはリリウムさんは定番の組み合わせに行きついたってわけだ。
「わしはサワークリームだけでええのぅ」
で、ガブロさんはサワークリームオンリーと。
何ならドイツでもツマミになってるみたいだし、もう少し塩とブラックペッパーを振れば、それだけでビール飲めるだろうしね。
「この世界の果物の味の良さと言ったら……。このジャムだけは、もしかしたら再現不可能かもしれん」
で、買って来た全部のジャムを試しながら、そんな事を呟くラベンドラさん。
まぁ、日本の果物もクオリティ高いからねぇ……。
苺にリンゴにラフランス、金柑に杏子に白桃。
どれもこれも最高に美味しいジャムですわよ。
「食後に紅茶かコーヒーなんてどうでしょう?」
「至れり尽くせりじゃな」
「ありがとうございますわ」
「紅茶……そうだ、フレーバーティーは無いのか?」
あー……そういえば用意する的な事言った覚えが……。
んでも、確かフレーバーティーは何回かご馳走したはずでは?
「そういえば、かなり種類があるとか言っていたな」
あー……。
言った覚えあるわ。
まぁ、あるんですけどね? インスタントだけど。
というわけで本日振舞うのはローズティーです。
文字通り薔薇フレーバーの紅茶。
特徴として、香りは甘く強いけど、味はそこまで変わらない。
なので、蜂蜜などを入れて楽しむと良いって書いてあった。
昔バラ園に行ったことがあってね? そこで買って飲んだことがあるんですよ。
強い香りが全身に行き渡るようで、もの凄いリフレッシュ効果を実感したよ。
帰りにバラのソフトクリームなんか買っちゃったりしてさ。
楽しんだ思い出がある。
――もちろん一人でじゃなかったけど……察してください。
二か月ほど続いた、とだけ。
「ほう?」
早速入れようと封を開けたら、ラベンドラさんから声が漏れる。
ちなみに、普通にティーバックに入ってるタイプのやつ。
三角錐の形したやつね。
「一気に香りが広がりますわね」
「甘い匂いじゃが……落ち着くのぅ」
なんて感想を貰いましたとさ。
それじゃあ、お湯を注ぎまして……。
「色も奇麗だ」
「お湯を注ぐと香りが一気に開きますわね!」
と、見た目と色と感想を貰い、
「一度そのまま飲んで貰って、欲しい人は砂糖や蜂蜜がありますんで」
そう伝えると。
紅茶にだけは――後はワインもか、に真面目なマジャリスさんも、流石に即座に砂糖や蜂蜜などに飛びつくようなことはせず。
ちゃんと落ち着いて香りから楽しんでおりました。
このエルフ、ブレイクさえしなけりゃカッコいいんだけどなぁ。
問題はブレイクする条件と対象が緩すぎる事か。
「カケル、蜂蜜」
ほらね? 簡単でしょう?
「私も蜂蜜を」
「……わしもじゃ」
「私は砂糖で」
三人が蜂蜜を所望する中、ラベンドラさんだけが砂糖を希望。
「この香りが気に入った。蜂蜜の香りと混ぜたくない」
との事らしい。
凄いな、蜂蜜の香りとか気にしたことないぞ……?
――へい、姉貴。四人用に高い蜂蜜を買って送って? っと。
「蜂蜜が合う!!」
「蜂蜜の香りもよく合いますわよ?」
「この飲み物には蜂蜜じゃわい」
「気にするな。私はこちらの方がいいだけだ」
三人がラベンドラさんを誘惑するも、ラベンドラさんは初志貫徹。
まぁ、好みなんて人それぞれだしねぇ。
「にしても、この世界のフレーバーティーがこんなに香り高いものだったとはな」
「まぁ、これはインスタントなんで、本格的なのはもう少し香りとかも変わると思いますけど……」
「……そうなのか?」
棚の奥に眠ってたティーパックだしね。
香りが抜けてなくて良かったよ。
「むしろ、お湯を注いですぐに飲めるフレーバーティーがこのクオリティな事に驚くべきですわ」
「それもそうじゃ。あらゆる貴族や王族が欲しがるレベルの代物じゃぞ?」
「是非とも製法を知りたいが……」
「俺は分かんないですねぇ」
普通に乾燥させてティーパックに入れてるだけなんかな?
調べて出てくるようなら教えられるけど……。
「そもそもこちらの世界の紅茶は使用されている葉から違う」
「まぁ、それは」
と、ラベンドラさんからそんな意見が。
そりゃあそうでしょうよ。
「つまり、我々の世界の茶葉が、この世界の茶葉と同じ製法で出来るかどうかの確証がない」
「……確かに」
原材料が違うなら、加工法も違うんじゃね? って事だよね。
まぁ、言わんとしている事は分かる。
「なのでカケル、もしまだフレーバーティーがあるなら、向こうの世界で飲み比べるためにいくつか貰いたい」
うん? もしかしなくてもラベンドラさん、適当な理由つけてフレーバーティーを持ち帰ろうとしてない?
神様、判定は?
(セーフじゃな)
ほな大丈夫か。
「少ししかありませんけど……」
「十分だ!!」
と、俺が棚の奥から発掘したフレーバーティーを回収し、ジャムも全種類手に持って。
異世界への魔法陣を出現させた四人は、いつものように帰って行った。
持ち帰りのご飯、パンとジャムで済ますからいいんだって。
……さて。
――とりあえず、ジャガイモと卵を使ったレシピ、調べますか。
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