第366話 ウッ……頭がっ……

 ……忘れてたよ。

 久しぶりだね、君。

 出来ればもう出会いたくなかったんだけれども?

 ――思い出して欲しい。

 ラベンドラさんは、焼き上がったポテトパンケーキに、『果実を添えれば完成』って言ったんだ。

 で、ラベンドラさん達の世界の果物……一つだけ、俺も食べたことあるよね。

 そう!! あの!! 憎き牡蠣の見た目のバナナ味なあいつ!!

 ……お察しの通り添えられました。

 ポテトパンケーキの横に。

 ビジュアルが……っ!! デザートなのに……っ!! あまりにも食事……っ!!

 しかもパンケーキと牡蠣って言う、まぁ、見ない組み合わせなのも悪いな。

 

「?」


 いやその、そんなどうした? みたいな顔して覗き込まれましても。

 こればっかりは四人には分からない感覚よ。

 ……姉貴に共有するために写真撮っとこ。

 別に他意はないよ?


「気を取り直してサワークリームからいただきますか」

「アイス!」

「ジャムが非常に気になりますわ」

「わしは『――』の実から食べるかの」


 というわけで、一旦牡蠣のような果物を視界から外し。

 サワークリームへと手を伸ばす。

 ……恥ずかしながら、サワークリームとは何ぞや? となって、買う時に調べたのは内緒。

 パンケーキに合う物を調べてたら名前が挙がっててさ。

 ポテチの味にもあるじゃん? サワークリーム味って。

 だから、てっきりしょっぱいものだと思ってたんだけど……。

 要は、乳酸菌で発酵させた生クリームなんだね。

 爽やかな酸味があり、生クリームの味わいもあり。

 デザートからそれこそフライドポテトにディップするなど、使い方も甘いしょっぱい関係ない。

 前にシェイクの時にも話したけど、海外ではフライドポテトをシェイクに付けて食べるってのもあるし、じゃがいもと乳製品の相性は抜群らしい。

 だからこそ、ポテトパンケーキの一番手にサワークリームを抜擢したってわけ。


「お、美味い」


 で、早速一口サイズにナイフとフォークで切り分け、サワークリームを付けて食べてみたら。

 表面はカリっとしてて香ばしく、生地は意外にもフワフワ系。

 粉を使わず、侯爵芋だけのはずなんだけど、芋自体がこんな感触なのかね?

 あと、フワフワしては居るんだけど、スフレみたいに途中でシュワっと消えちゃう。

 消えた後にはじゃがいもの旨味が残るんだけど、土臭かったりとかは全然なくて。

 どころか、意外にも? サワークリームと相性良くて、酸味と一緒になって口の中で踊る感じ。

 飲み込んだ後はクリームと共にサッと消えるし、普通に美味い。

 と言うか、人によっては普通のパンケーキよりこっちが好きって人が絶対に居る。

 俺は好き。


「うむ。これが定番の味じゃな」


 牡蠣――バナナと一緒に食べたガブロさんの反応がこれ。

 でもさ、バナナにもサワークリームって合いそうじゃない?


「ガブロさん、次はこれをちょっと付けてみてください」

「ん? おお」


 というわけでサワークリームの強制おすそ分け。

 俺は次はジャムにしよう。


「とっても、とってもとってもとっても美味しいですわ!!」


 何故なら、リリウムさんがこんな反応だからだ。


「このジャム、果肉がたっぷり入ってますの! シャキシャキとした歯ごたえも残してあって、甘さは控えめで果肉の甘さがしっかりと感じられますわ!!」


 リリウムさんが食べてるのはリンゴのジャムだな。

 デパートで買って来たものだけど、保存料とか入ってない、砂糖もそこまで使ってないって事で、賞味期限がかなり早い。

 ただ、この四人の前に何の問題ですか? 何の問題も無いね。


「このジャム……甘いがほろ苦くもある。かなり相性がいい」


 ラベンドラさんが食べたのは金柑のジャムか。

 珍しいと思って買ってみたんだけど、美味しいらしい。

 皮が丁寧に処理されて入ってるらしく、それがほろ苦いとの事。

 朝、焼きたてのトーストに塗ってコーヒーと合わせたら最高だろうな。


「やはりアイスだ! アイスしか勝たん!!」


 で、あそこではしゃいでるn歳児エルフはどうしてくれよう。

 あれはアイスを乗せて食べてるってより、アイス『に』ポテトパンケーキを乗せて食べてるレベルなんよな。

 明らか食べてる量がアイスの方が多い。


「カケルから貰ったクリーム、かなりいけるな」

「でしょ? フライドポテトに合わせて、ビールのつまみなんてどうです?」

「最高じゃな。いや、マジで最高じゃな!」


 で、俺のおすそ分けサワークリームもガブロさんに大好評と。

 ……フライドポテトとか、ポテトチップスに合うようなサワークリームのアレンジもあるんだろうし、調べておこう。

 作ってあげたら喜ぶだろうしね。


「ふわ」


 不意打ちで変な声出た。

 ラフランスジャムを試してみたんだけど、これやっばい。

 ラフランスの高貴な香りっていうの? あの爽やかな香りがポテトパンケーキにかなり合う。

 しかも、瑞々しい果肉がやっぱり食感残っててさ。

 ジャムのシャクッ、生地のパリッ、ザクって食感の織り成すハーモニーが最高ですわ。

 ポテトにリンゴやらラフランスって合うんだね。初めて知ったわ。


「そろそろ独り占めしてないで我々にも寄越せ」

「ちょっとだけだぞ!?」

「貴方だけの物ではありませんわ。ほら、こちらのジャムも美味しいのですから試してみなさい」


 第n次エルフアイスクリーム争奪戦、勃発。


「わしはサワークリームだけで十分じゃわい」


 というガブロさんと共に、事の成り行きを見守っておりますわ。


「そうじゃカケル、『――』の実は試さんか?」


 試さない。

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