第24話 ガブロさんの話
「ガブロさん、解体って?」
「ん? おお、言うとらんかったか? ワシは冒険者になる前は解体士での。これでも腕がいいと評判だったんじゃわい」
みんなに持たせるお土産を作りながら。
気になったガブロさんの発言について尋ねてみると、そんな答えが返って来た。
そういや前に言ってたような……? いやあの、解体士についての説明をですね?
「解体士というのは文字通りモンスターを解体する方々の事ですわ。皮や殻、骨や内臓など、モンスターの素材は多岐にわたりますし、それらを傷つける事無く解体するのはとても技量が必要な事なんです」
「血も素材だったり、その血に毒があったりするモンスターも居るから、知識無く解体すれば死にも繋がりかねん」
「その点ガブロは、解体士等級が特級という凄腕の解体士でな。Aランクの冒険者もガブロに解体を依頼していたほどだ」
「自分で言うのもなんじゃが、生活に困らんどころか、遊んでいても大丈夫なほどには稼いでおったのぅ」
珍しいモンスターにもなれば、素材の値段は期待出来るだろうし、値段が期待出来るならそれ相応の値段で解体を引き受けるよな。
そうなれば腕がある程稼ぎが増える。
ガブロさんのいい方的に、結構実入りは良かったんだろう。
……けど、そんな解体士を辞めて冒険者に?
……妙だな。何か問題でも起こしたとか?
――酒か? ……酒だな。
ドワーフが問題起こすとなれば酒関連だと相場が決まっている。
「あー……表情的に何を考えているか分かるが、別にガブロは問題を起こしたわけじゃないぞ?」
俺の表情を見ていたラベンドラさんがそんな事を言ってきて。
「そうなんですか?」
思わず聞いてしまった。
と、ここで流石に失礼過ぎたと反省したが、
「別に構わん。もう辞めた後だしな」
ガブロさんは気にしていない様子。
いやほんと、申し訳ない。
「でも、問題を起こしたわけじゃないならどうして辞めちゃったんです? 結構いい生活してたでしょうに」
「まー……アレだ。妬みが凄かったんじゃよ」
妬み? なんかあったのか?
「ガブロは自分用に解体のための道具を作っていてな。その道具と、ガブロ自身の腕とで丁寧で正確。かつ迅速な解体が出来ていたんだが……」
「それを不公平だと解体士ギルドに訴えた方が居たんですわ。解体士全体の質の向上のため、自作している道具を配るべきだ、と」
「当然ワシはそんな事をする気なぞ無かったわけじゃ。じゃが、ギルドからは複製させろとのお達しが来ての」
「後で発覚するが、ギルドに訴えた者とガブロに複製させるよう命じたギルド職員に強い癒着があってな。本来ならばどう考えてもおかしいこの要求が行われることになった」
「じゃからワシが作った道具全部をギルドに叩きつけてスッパリ解体士を辞めたんじゃわい」
ガハガハと豪快に笑うガブロさん。
その笑い声の合間に、ゴポゴポという音が混じる。
いっけね、エビ茹でてたんだった。
通常のエビサイズに形成したエビダトオモワレルモノを全てざるに上げ、冷水に晒して身を締めていく。
「それで? その後は?」
「傑作じゃったわい。ワシを名指しで指名する解体依頼が後を絶たなくてな。もう既にワシはギルドに居らず、ギルドを去った理由もギルド起因。その事を依頼者に対し説明しても反感を買うだけじゃろう?」
確かに。自分らが無茶な要求をしたので凄腕解体士は居なくなりました、なんて、依頼者からしたら何やってんだと文句も言いたくなる。
ガブロさんに戻ってくるよう頼み込んだんだろうな。
「再三戻ってきて欲しいという連絡を無視し、ワシは冒険者に。冒険者ギルドも諸手を挙げて喜んどったぞい。何せ、冒険者ギルドも解体士ギルドに依頼を出していた常連じゃったからな」
なるほど、冒険者ギルドからして見りゃ、棚ぼたでガブロさんを手に入れられたわけか。
んで、冒険者ギルドに入った以上、解体士ギルドにも戻らない、と。
「んで、ワシは冒険者ギルドに解体士ギルドにされた仕打ちを告発。後日、さっきマジャリスが言った通り解体士とギルド職員の強い癒着が発覚するっちゅーわけじゃ」
はへー。なるほどなぁ。
結局解体士ギルドはガブロさんを失って、さらには信頼までもを失わせたわけか。
スカッと……までは行かないけど胸がスッとする話ではあるな。
「後はしばらくソロで頑張るか、と思っていた矢先にリリウムに声を掛けられての。リリウムの話は知っとったから、じゃあ世話になるぞ、となったわけじゃ」
……ん?
リリウムさん、最初にパーティに誘ったのがガブロさんだったの?
……滅茶苦茶意外なんだけど。
「そう驚いた顔をするな。ワシも当時は唖然としたんじゃから」
どうやらガブロさんも驚いたらしい。
と、出来ちゃったや。お土産。
題して、茹でエビのサラダサンド。
題してもクソもないか。そんまんまだし。
塩茹でして冷水で締めたエビを、スーパーで売ってるリーフサラダを敷き詰めたパンの上にたっぷりと乗せ。
生ハムを乗せ、サウザンドレッシングを回しかけて完成。
シンプルだけど、絶対にうまい。そう確信が出来るこの一品。
……明日の朝ご飯用にもつくっとこ。
さっき完食したばかりなのに見てたらお腹すいてきちゃったや。
「お待たせしました、これ、今日のお土産です」
「本当に助かりますわ」
「サンドか。食べやすくて助かる」
「前食べたカツサンドが美味かったからな。今回も期待出来る」
「また明日も楽しみにしとるぞい」
そう言って魔法陣に消えていく四人。
さぁて、洗い物を済ませちゃいますかね。
……皿にこびり付いたチーズだけは洗っとかないと、いかに洗浄機と言えど落とせないからさ。
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