第23話  エビダトオモワレルモノドリア実食

 話し合いの結果、俺とラベンドラさんの分を後回しにし。

 先に出来上がる三つのドリアは、それぞれリリウムさんとマジャリスさんとガブロさんが食べることに。

 まぁ、これが一番丸いかなぁ。

 ラベンドラさん、さっきの味見の件で他三人から睨まれてたし。


「というわけで出来上がりです。熱いですが、熱いうちに食べるのが一番うまいんで気を付けてどうぞ」


 出来上がったドリアを三人の前に置く。

 鍋掴み越しでも伝わってくる熱は、皿が尋常じゃない熱さであることを物語っているのだが……。


「耐熱魔法は必要なさそうですわ」

「許容の範囲内な熱さだな」

「これ位なら待つ必要もないわい」


 と、なんというか……。

 ちょっと頭が悪いというと失礼かもだけど、飯食うのに防衛魔法の展開を検討しているのは流石に……。

 いやさ? そっちの世界には必要なことかもしれないから深くはツッコまないけども。

 スプーンを渡し、掬って食べる三人を見守ると……。


「んほ♡」


 過去一大きなガブロさんの声が聞けたよ。

 ……正直、あまり聞きたくはなかったけども。


「ソースが美味い。身やご飯に調和し、濃厚なコクが感じられる」

「ソースはクリーミーで濃厚。身はプリプリとしていて噛みごたえがあり、噛めば噛むほど美味しいスープが溢れてきますわ」

「チーズの香ばしさもたまらんのう。ソースや『――』の身を包んでうまさを増幅させとるわい!!」


 んっふっふっふ。

 そうか、美味いか。

 そうかそうか。たんと食え。おかわりはないぞ。


「身自体もかなり美味いが、やはりソースの美味さが上を行くな」

「これまでも感じた、舌の根に響くような旨味ですわね。一体どんな食材を使っているのでしょうか?」

「きっとワシらの思いもせん食材を使っているのじゃろうて。こりゃあ再現するのも骨が折れそうじゃな、ラベンドラ」


 なーんて三人が言ってますけど、レトルトなんだよなぁ……。

 いや、そりゃあ企業様は大層努力してると思ってるよ?

 だってマジで美味いし。

 でもこれなぁ。何が材料ですなんて教えてやれないんだよなぁ。

 ……ホワイトソースの作り方ならいざ知らず、こんな企業努力の塊ともいえるレトルト食品の材料とか、後ろに書いてある成分表示表的なこと以上には分からんわけだし。


「ん? 焼けたようだ。我らも食べよう」


 ドリアが焼けたことを示す電子音。

 それに俺が反応するより数瞬早く、ラベンドラさんは反応し。

 俺が止める前に素手で容器を取り出し俺らの前に。

 ……熱くないんですか?


「? ああ、スマン。いつもの癖で。装飾品に炎耐性を備えた装備がある。それのおかげである程度の火や炎、熱さに耐性があるんだ」


 と、俺が驚いている事に気が付いたラベンドラさんがそんな説明を。

 うん、無事ならいいんです。ちょっと驚いただけなので。


「とにかく食べよう。もう俺も我慢の限界が近い。――それに……」


 スプーンを構え、食すだけの体勢に移行したラベンドラさんは、先に食べていた三人へチラと視線をやると。


「あいつらが俺の分のドリアを狙って来ないとも限らん」


 割と切羽詰まった表情で、そんな事を言いだした。

 いや、確かに。あの三人ならさもありなんなんだよな。

 これでもかなり大量に盛ったんだけどね、ご飯も具材も。

 というわけで俺とラベンドラさんのようやくの実食。

 まずは少し焦げ目の付いたチーズをパリッと割って、大ぶりなエビダトオモワレルモノと米、ソースを軽く混ぜ合わせてスプーンに乗せ。

 三人が当たり前にパクパク食べてたけど、これ出来立てでクッソ熱いからね?

 俺は少し冷まさないと無理。

 まぁ、ラベンドラさんはパクパク派ですけども。


「美味い。三人の言う通り、ソースがやはりうまい。具材全部が互いを引き立てているようだ。それでいて、それらを土台の米がしっかりと支えている。凄いな、この料理……」


 だそうで。

 時折匂いを嗅いだり、ソースだけを掬って食べたりしているのは向こうの世界で再現する為なんだろうな。

 ……大変なんだろうなぁ。異世界の初めて食べる料理と味を覚えて再現するって。

 ラベンドラさんマジがんば。応援してる。

 応援だけだけど。


「いただきます」


 ようやく冷めたドリアを、俺も一口。

 …………うっまぁ~。

 エビを大きく切り過ぎたかと思ったけどそんな事なかったな。

 あと、塩茹でして食べた時より格段に上手いわ。なんだろうな、オーブンみたいなのでじっくり焼いたがいいんかな?

 歯に触れると切れる繊維はそのままに、身がほんの少しだけ固くなって噛みごたえがアップ。

 そうして力を入れて噛むと、ジュワッと肉汁が染み出てきて、口の中でソースと混ざり合う。

 そんでそれが米に絡み、口の中が幸せで満たされる、と。

 あとあれだな。肉でもそうだと思うんだけど、口一杯にエビを頬張るのって幸せ成分が大量に分泌される。

 どう掬ってもエビが絶対にスプーンに乗る程ゴロゴロと入れたし、しばらくはこの幸せを噛み締められそうだ。

 エビまみれの食事マジ最高。あのエビを持って来てくれた四人には感謝しなくちゃな。

 あっという間に完食しちゃったよ。まぁ、俺よりも先にラベンドラさんが完食しているわけだが。


「今日のご飯も美味しかったですわ」


 言わずもがな先に完食していたリリウムさんがお茶を飲みながらそう言って。


「あの食材は大成功だな」


 マジャリスさんがそう言うと。


「丁寧に解体した甲斐があるってもんじゃわい」


 とガブロさん。

 ……解体?

 すみません、その話ちょっと詳しく。

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