第25話 閑話エビで〇〇を釣る

「オズワルド!」

「な、なんだよお前らかよ」


 元の世界に戻り、宿屋で休息を取った四人は。

 ギルドに出勤するオズワルドを捕まえることに成功。

 オズワルド的には、


「早く次のランクに上げろ」


 とでも突き上げられると思っていたのだが……。


「お前の分の飯だ」

「……は?」


 渡された紙包みに不意を食らったような声を上げ。


「例の料理人に朝飯も作って貰えることになったんだが、お前の分も頼んでおいた」


 と、四人からしてみれば好意で行ったこの行動は。


(……俺、巻き込まれてねぇか?)


 オズワルドを不安にさせるには十分で。


(つまりこの飯は、食ったらお前も俺らと同じ穴のむじなとでも言われる代物なんじゃあ……)


 内心冷や汗ダラダラで、良くない方へと考えるオズワルドに。


「なんじゃ? 要らんならワシが食うぞい?」


 何気なく声を掛けたガブロの一言は。


(悩む前に早く決めろって事か!? くっ……こいつらの真意が測れない)


 まるでそんな気がない四人の知らぬところで、オズワルドを追い込む一撃となり。


「……うまいぞ? 瑞々しいグリーンマンドラゴラの頭葉に、たっぷりと塩味の効いたハム。そこにガーディアンシュリンプの身を茹でたものがこれでもかと乗せられ、それらを包んでまとめ上げるオレンジ色の特製ソース」


 そんな追い込まれたオズワルドに、今渡そうとしているものがどんな食べ物なのかを懇切丁寧に説明するラベンドラ。

 その説明が、当然さらなる追い打ちになるとも知らず。


「しっとり柔らかい白パンのふんわりとした食感。グリーンマンドラゴラの頭葉の心地良い歯ざわり。ガーディアンシュリンプとハムの噛み心地に、鼻に抜けるソースの風味。どれもこれも調和は完璧。ここで食べねば、二度と味わえないと確信する」


 マジャリスの援護射撃により、オズワルドは決壊。

 小さくため息をつき、ええいままよ、とエビサラダサンドをひったくるように受け取ると。


「あぁむっ!」


 大きく口を開け、盛大にかぶりついた。


「…………っ!!?」


 結果、説明通りに美味いエビサラダサンドに驚愕し、目を見開くも。

 口はそのエビサラダサンドで一杯で、一言すらも発せずに。

 早く感想を言いたいからと咀嚼を急がせる本能と、こんな美味いものをすぐに飲み込んではもったいないという理性がせめぎ合い。

 結果として普段通りの咀嚼速度になり、ようやく飲み込んだオズワルドは。


「うめぇ……」


 絞り出すような声で、そう呟く。

 それを見て、満足そうな四人。

 そんな四人に見守られ、完食までそこまで時間のかからなかったオズワルドは。


「ふー。美味かった」


 満足そうにそう言って。


「確かガーディアンシュリンプの討伐報告が上がっていたな」


 ギルドマスターの目つきになり、思い出したように話し始める。


「じゃろうな。ワシが解体を請け負ったが、依頼してきたのはBランクの『風追い人ウインドシーカー』達じゃ。素材は全て完璧に解体したぞい」

「なるほど。だったらうちにも買取依頼が来そうだな……。なぁ、ガブロ」

「なんじゃい?」

「タダで解体を請け負ったなんてことないんだろ? ガーディアンシュリンプの殻は軽くて丈夫。火にだけめっぽう弱いが加工も容易で、鎧に盾にと使い道は多岐に渡る。もし報酬として貰ってるなら高く買い取りたいんだが……」


 解体だけで終わるはずがない。

 そう確信していたオズワルドは、ガブロにそう持ちかけるが。


「すまんのぅ。報酬は全部ガーディアンシュリンプの身で受け取ったわい」


 と。

 確かに珍しさはあるものの、普通の冒険者ならば殻よりも優先しない身を報酬としたことに驚きを隠せないオズワルド。

 ――だが、


「今食べたサンドの中に入っていた身がそのガーディアンシュリンプだぞ?」


 というラベンドラの発言に、二、三回瞬きをし。


「な、なるほど?」


 一旦冷静さを取り戻すオズワルド。


(言ってしまえばガーディアンシュリンプは他の冒険者でも狩ろうと思えば狩れる。……だが、こいつの身を使った美味い料理となるとまた別。なまじ身の味の主張が強いせいでソースを選ぶ代物だ。……だが、今日食ったサンドのソースはその主張を邪魔せずに引き立てていた。……料理人秘蔵の特製ソースってわけだ)


 一人で納得するオズワルドに、そう言えば、と前置きし、


「ワイバーンの目撃情報とか来てないか? 討伐報告でもいい」


 ラベンドラが突然言い出したその言葉は、


「あるわけねぇだろ! ワイバーンなんざ見かけたら全冒険者に緊急依頼として通達するわ!!」


 オズワルドの大きな声にかき消される。


「だよなぁ……。ワイバーンの手羽元が欲しいんだよ。それさえあれば、あのソースが再現出来そうなんだ」


 がっくりと肩を落としラベンドラはそう言うが。

 その中に、オズワルドの興味を引く単語が含まれていた。


「あのソース?」

「料理人が作ってくれた飯でな。濃厚でクリーミーなソースを、米とガーディアンシュリンプにたっぷりかけてチーズを乗せて焼くって料理があるんだが」

「ごくり」

「その料理のソース、ワイバーンの手羽元のスープで再現出来そうなんだ」

「あの料理は格別に美味かったからのう」

「皆で夢中になって食べてましたものね」

「だから探し始めたんだが、当然見つからなくてな」


 そう言ってため息をついたラベンドラに。


「分かった」

「?」

「ギルドマスター権限でワイバーンの目撃情報を集める。どんな些細な情報も、だ。……だから」

「だから?」

「その格別に美味かった料理が再現出来たら、俺にも食わせてくれ!!」


 オズワルドは、心の底からの叫ぶのだった。

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