第67話 刺激的なお味
「これはまた……辛そうだな」
「見るだけで汗をかきそうですわ」
「むぅ……これは本当に食べ物か?」
出された真っ赤な麻婆豆腐に、中々口を付けようとしない三人。
調理工程を見ていたラベンドラさんでさえ、チラチラと俺の方を見て先に食えと言わんばかり。
俺が食えないものを出すわけないでしょ。
全く……。
「いただきます」
レンゲで真っ赤な豆腐と肉を少量すくい、そのまま口へ。
流石にね。辛いのが分かってて一気にいけるほど俺は鍛えられてないんですわ。
「うっま!! でも辛い!!」
で、当然なんだけどまぁ美味い。
いつぞや言った不味くなる条件を何一つ満たして無いんだからそりゃそうよ。
甜面醤と豆板醤のコクとうま味が衝撃的な辛さに包まれてて、口の中に入った瞬間は辛さしかない。
けど、痺れる辛さと火が出る辛さを乗り越えた先に、ご褒美とばかりに訪れるその旨さは、辛さを乗り越えてよかったと思えるほど。
肉汁のうま味と一緒になってご飯が捗る美味しさですわ。
なお、冬だというのに汗は吹き出す模様。
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「鑑定してみたらほぼ毒の数値だったんだが……」
「でもカケルは食っとるぞい?」
「も、物は試しですし……」
今聞き捨てならん言葉が聞こえなかったか?
麻婆豆腐が毒だと?
食べたことが無いからそんな事が言えるんですよ。
食ってみろ、飛ぶぞ。
「い、いただきます」
恐る恐る麻婆豆腐を口に運ぶラベンドラさん。
なお、他の三人はラベンドラさんの反応を見るために待機してる。
そんな毒見みたいな……。
「ゴフッ!!?」
「ラベンドラ!?」
「毒か!?」
失礼な。
今からカプサイシンパウダー追加するぞ?
「マ……待て」
で、何でラベンドラさんはそんな息も絶え絶えに……。
「き、気道に入って咽ただけだ……」
なるほど。辛い麻婆が気道に入っちゃったのか。
……地獄では? 大丈夫かな?
「食べた途端は毒と同じく口の中全体に痺れが周り、飛び上がる様な辛さが来るが、長続きはしない。その後は今までと同じうま味の波が押し寄せてくる」
なんて言いながらもう一口。
「慣れるとそこまで騒ぐほどじゃない。むしろ、美味さが分かっているから次から次に手が伸びるな」
そうしてご飯を口に運び。
「米とも合う。……むしろこうして――」
と、レンゲですくった麻婆をご飯に乗せ、軽く混ぜ合わせて口へ。
「うむ! 辛みやうま味はもちろんだが、こうして食うと米の甘みもプラスされてなお美味い!!」
簡易麻婆丼にしたラベンドラさんは目をキラキラ輝かせながらその食べ方で食べ始める。
その額には、当たり前のように汗が浮かび。
そこまで言って、ようやく他の三人もレンゲを手に取った。
「ん゛っ!!?」
「か、辛いですわ……」
「ぬぉおおおっ!! 頭が痒いっ!!」
三者三様な辛みへの反応ありがとうございます。
ガブロさんのソレ、凄くよく分かるわ。
「確かに、ラベンドラの言う通り辛さはあるがずっとそこにあるわけじゃないな」
「どころか辛みから顔を出すうま味がより引き立てられますわ!」
「こんな辛いもんは元の世界じゃ食えんからな!」
と、どうやら三人も大丈夫だったらしい。
ガブロさんとマジャリスさんの男組は、ラベンドラさんみたく麻婆丼にしながら食べてて。
リリウムさんは、麻婆とご飯を別々に食べてるね。
それぞれ合う食べ方で結構結構。
「それにしても、これまでの味付けとはまた違う感じだな」
「ですわね。これまでの料理ももちろん美味しかったですが、また未知なる味付けと思いましたわ」
「あー……。今までの料理って比較的今自分がいる国の料理だったんですけど……」
と、ここでどうやら日本食と中華の違いに気付いたらしい。
まぁ、流石にね。分かっちゃうよね。
「この料理は海を挟んだ位置にある国の料理なんですよ」
かなり雑な説明だけど、中国の説明をこの人たちにしてもしょうがないじゃん?
というわけでこの位で。
「ほう、海を越えた国の料理か」
「そりゃあ違いも出るっちゅーもんじゃな!」
「あ、ちなみに豚キムチとか、鳥キムチチーズも海を越えた国の料理ですよ?」
「なるほど。……カケルはそう言う他国の料理をどうやって学んでいるのだ?」
「学ぶって言っても溢れてますし……。調べれば作り方から必要な材料まですぐに出てきますし」
「何と言うか、食に関してはとことん強い国じゃな……」
あー、もしかしてこれ、日本が食い物だけの国という認識になってしまったのでは?
そんな事無いよ? ……無いよな? ないよね?
確かに食に関しては何と言うか、貫いてるようなところはあるけどさ。
別にそれだけの国ってわけじゃないよ? うん。
「ひー。しかし完食したが舌の痺れが取れんわい」
「ここでしか味わえないから堪能するといい。……ちなみに解毒の魔法で痺れは取れたな」
「やはり本質的には毒と変わらないのではありません? いえ、私達の世界基準での話なんですけど……」
「食べて何か異変が起こるわけでもないし、口内の痺れと刺激のみの毒……か。――待てよ? 確か元の世界に……」
「流石にこの料理を再現しろとは言わん。だからラベンドラ、頼むから毒物を料理に混ぜるのだけはやめろ?」
みんなきれいに完食してそんな事を。
ていうかマジか。花椒の辛さは毒判定されてるのか……。
……あ、そうだ。そう言えば聞きたいことあったんだった。
「ところでなんですけど」
「ん?」
「どうした?」
「対象の時間を経過させるような魔法って……あったりします?」
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