第348話 ちょっと寂しい

 柿大福、大変美味しゅうございました。

 思ったけど柿って、あんまり食べた事無かったなって。

 なんと言うか、あまり手が伸びないのは俺だけ?

 いやまぁ、大福はマジで美味しかったんだけども。

 柿独特の風味と甘さがあんことマジで調和しててさ。

 果肉が入ってる方は、トロリとした部分もあってね?

 そこの甘さが他より濃くて、あ、柿ってこんな甘いんだ、って思えたよ。

 柿餡の方も、柿自体の食感が苦手な人はいそうだから、そんな人でも美味しく食べられる代物だったね。

 スッと溶けるあんこに、柿の甘さと風味が加わってさ。

 かなりスッキリさっぱりした味わいだった。


「ではカケル、邪魔したな」

「明日、頑張ってくださいね」

「頑張る事などありませんわ。表彰を受けるだけですもの」

「表彰と昇格じゃな」


 お茶をすすっていると、魔法陣を出現させ帰ろうとする四人。

 お持ち帰りはいらないってさ。明日が昇格会らしく、朝から会食やらなんやらで食べる暇ないって。


「本来は数日前に行われる予定だったんだが……」

「準備中に色々と起こしてしまいまして……」

「開催が延期になったんじゃよなぁ……」

「何故俺を見る!? ただ油を見つけただけじゃないか!?」

「異世界にそれまでなかった植物由来の油を、な」

「この報告を受けたオズワルドの反応を忘れましたの? 特大のため息でしたわよ?」

「今あの研究所は凄い事になっとるぞい。国内中の料理人が油を求めて殺到しとる」

「国王命令で工場化の計画が進んでいる」


 ……やらかしたのはマジャリスさんね。

 まぁ、マジャリスさんだしなぁ……。

 大方食欲に忠実に動いた結果だろうよ。

 案外、甘いものを求めて動いたら、油が手に入ったとかだったりして。


「では、カケルまた」

「はい、お気をつけて」

「もしかしたら明日は来ないかもしれない」

「曖昧なのが一番困りますけど、まぁ分かりました」

「ほぼ来れんと思うぞい。夜まで会食がギッシリじゃろ」

「会食などよりカケルのご飯の方が美味いのだがな……」

「それを言ったらおしまいですわよ。元の世界ではカケルの料理より美味しいものなど数える程ですわ」


 とかなんとか言って消えていきました。

 ……と言う事は明日は久しぶりに一人での食事か。

 ――ちょっと寂しいかもしれん。


(わし、具現化しようか?)


 こっちの神様に怒られません? まぁ、お供えはしましょうか。


(楽しみにしとるでの~)


 これ怒られたパターンだろ。

 この神様なら「怒られんぞい」とか言って具現化しようとしてただろ、今まで。


(そ、そ、そ、そんなことないぞい)


 分かりやすすぎるんだよなぁ。

 まぁ、一人ではなくなったな、うん。

 一人と一柱にはなったか。

 んじゃあ、ウニ鱗のクリームパスタと、適当にサラダを買って来ますか。

 それに白ワイン、いいですね? 神様?


(わしからこれと指定することはないぞい。思う料理を供えてくれるだけで十分じゃ)


 ……巨峰。


(あ、いや)


 デザートワイン。


(あ、明日楽しみにしとるぞ~い)


 あ、逃げた。

 ……まぁ、いいか。

 寝よ。



「話が違うっす」

「何がだ?」

「とぼけないで欲しいっす! 自分、新たなSランクパーティの誕生の瞬間を記事にするよう言われて来たっすよ!!」


 ニルラス国、王城。

 その広場にて、大勢の貴族や各ギルド代表が集まる中。

 ただの取材だと思っていたアエロスは、オズワルドへと詰め寄っており。


「別に好きなだけ取材が出来るだろう?」

「自分も表彰されるなんて聞かされてねぇっす!!」


 その理由は、アエロス自身が、自分も表彰されることを知らされていなかったためで。


「ただ『夢幻泡影』の言う通りに記事を書いてただけっすのに……」

「いや、そもそもその四人から取材出来てる時点で凄いんだがな?」


 アエロスとしては、自分から取材しているというより、四人から呼び出されているだけ。

 ただそれだけの事実であるのに。

 アエロス以外の記者はそもそもコンタクトすら取れない。

 そして、アエロスの書く記事もまた、本人は言われたことを書いている程度にしか考えていないのだが。

 そもそも、自分に知識が無いものを言われた通りとは言え書いて読めるものにする、という技術は言ってしまえば稀有。

 ……もちろん、最低限の補足をするために、アエロスの作業室はあらゆるジャンルの参考書などで埋め尽くされているが。


「類を見ない速度で出世している時点で自分も異端だと自覚しろ」

「勝手に上げてるの、オズワルド氏も嚙んでる事知ってるっすよ?」

「お、そら。今日の主役たちのお出ましだぞ」


 そう言ってオズワルドが指を向けた先には、『夢幻泡影』の四人が入城してきたが。


「……なんすか? あの装備」


 その見た目は、オズワルドやアエロス、さらにはその場にいた貴族たちはもちろんの事。

 呼ばれていた『ヴァルキリー』の面々すら驚愕するような物であり。

 純白の鎧に身を包み、強大な斧を担いだガブロを始め。

 純白のローブに、宝石をちりばめた杖を持つリリウム。

 純白のフードを被り、弓すらも光り輝く装飾品まみれのマジャリスに。

 同じく純白のフードに、様々な宝石をぶら下げたラベンドラ。

 翔が見たら噴き出すのでは? と思うほどの、驚きの白さに一同が驚愕。


「……色んな魔物を狩ってる話は聞こえてきたが、ありゃなんの材料だ?」

「分かんねぇっす。でも、明らかに高そうな装備っすね……」

「国王も喜ぶだろうよ。わざわざ、国王直属の騎士の象徴とも言える純白で統一してきてくれたんだから」

「絶対計算っすね。何なら、国王サイドからこういう装備にしろと打診があったとしても自分、驚かないっすよ」


 なんて、オズワルドとアエロスが話している遥か後方。

 国王の椅子の隣に立つソクサルムは。


「リリウムさん、似合ってませんねぇ……。ぶふぉっ」


 言い出しっぺが自分なのを無視し、ただ一人。

 純白の衣装が似合っていないと、リリウムの事を笑っていたのであった。

 ……なお、見つかって遠距離からの空間打撃魔法で小突かれたことを、補足しておく。

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