第347話 桃栗三年

 ふぅ。肉寿司程暴れはしないけど、シャコナリケリもコシャコナリケリも十分に暴力的な美味さなんだよね。

 ウニ鱗のアクセントも効いて、マジで高級な回らないお寿司レベルと言っても過言ではない。

 ……ていうかさ、ガブロさんが言ってたけど、基本的に異世界の食材は美味いんよ。

 それはもちろん、『夢幻泡影』の面々が狩ってくる相手のランクが高いからなんだけどさ。

 んでまぁ、一旦冷静になって欲しいんだけど……。

 そんな異世界食材とタメ張れてる和牛って、結構規格外なのでは?

 逆説的に、和牛を食べたら異世界の最高級クラスの食材の味という事に……。


「肉とは違った甘みが美味い……」

「鱗と塩の組み合わせで、本当に濃厚なうま味が口の中で産まれますわね」

「やはりこの世界の塩は違うのでは?」

「うむ」


 で、肉寿司を食べ終わって、シャコナリケリやコシャコナリケリ、ウニ鱗軍艦に移動してきた四人。

 元気に食べ続けてますわ。


「この軍艦という形式が美味い。海苔の香りやパリッとした食感がいい味を出している」

「鱗だけでも美味しいですわね」

「昨日のうに丼と同じかと思いきや、米に酢を混ぜるだけで十分な変化が出ている」

「はようわしらの世界の米もこれ位美味しくならんもんか」


 そう簡単に日本の米を再現されてたまるか。

 ……されそうなんだよなぁ。

 時間跳躍とかのチート魔法あるから、1シーズン待たずに品種改良とかバンバン出来るし。

 ……まずそもそも、品種改良とかって概念あるんだろうか?

 ――無かったら変な事教える事になるし、やめとくか。

 マンドラゴラたちが品種改良されてキメラとか産まれたら嫌だし。

 嫌って言うか、こっちに持って来てもらいたくないし。


「ふぅ。美味かった」

「初めて握ったにしては、十分形になっていたのではありませんこと?」

「食べてみて分かったが、握りの時に力が入り過ぎていた。ネタに指の後があったし、何よりシャリが固い」

「……そうでした?」


 ラベンドラさん本人は何やら反省しているけど、別に俺は全然美味しく食べちゃったけどなぁ……。

 多分、本職の人とか、お店に通ってる人レベルじゃないと分からないんじゃない?

 少なくとも俺には無理だった。


「この握り寿司とかいうスタイルは向こうの世界でも流行る気がするわい」

「小腹を満たすため、などに最適なサイズですものね」

「しかもネタやシャリが用意してあれば調理時間も数秒。露店での販売がよさそうだ」


 ……あー、なんだっけ?

 江戸時代は寿司はファストフードだったとかなんとか。

 その頃の寿司は今よりも大きくて、醤油じゃなく炒り酒を付けて食べてたとかなんとか……。

 異世界でも同じような事になるんだろうか?


「肉や魚以外にも、マンドラゴラでも成り立ちそうだな」

「あ、ありますよ、野菜寿司」


 マンドラゴラすなわち野菜、そんな野菜の寿司が日本に無いはずもなく。

 発祥は埼玉にあるお寿司屋さんとかなんとか。

 野菜は彩りが豊かで見た目が華やかになるし、その見た目から子供も食べやすいって事で一時期話題になった気がする。


「やはりか」

「なんでもありますのね、この国は」


 なんでもは無いです。あるものだけです。


「ところでカケル、デザートは?」

「持って来ますね」


 なんて話してたら食いしん坊のマジャリスさんからの催促。

 ちゃんと買って来てありますよー。


「? これは?」

「この季節が旬のフルーツが入った大福になります」

「ほう?」


 というわけで取り出したるは、二種類の柿大福。

 一つはイチゴ大福よろしく、中に柿が入ってる大福。

 もう一つはあんこと柿が混ぜられた柿餡が入ってる大福。

 緑茶と一緒にどうぞ。


「その様子では入っているフルーツは説明して貰えないのだな?」

「食べてからのお楽しみです」


 さて、なんて言っといてあれですけど、知らない人に柿を説明するの、難しくない?

 一番伝わる柿の説明って、多分桃栗三年柿八年じゃない?

 ……実を付ける日数の話だし、この話をしたところでエルフ達には、


「八年? すぐだな」


 とか切り返されかねないけど。


「む? トロリとした果肉じゃな?」

「瑞々しく、そして十分に甘いですわ!」

「あんことは違った甘さだ」

「外のモチモチした皮と相性がすこぶるいいぞ!!」


 で、最初にしっかりと果肉が入ってる方の大福を食べてる四人。

 まぁ、持った感じ分かるからね。


「甘くてトロリとしているが、後味はさわやか」

「季節を感じられるような余韻が残りますわね」

「この果物美味いぞ!!」

「サッパリしとるのがいいわい」


 柿、好評ですね。

 こんな事なら干し柿とかも買ってくるべきだったかなぁ?


「こっちの大福は先ほどの甘さをギュッと凝縮したような味じゃな!」

「より強い甘さと風味が感じられる」

「同じ果物のはずですのに、見せてる表情は全然違いますわ!!」

「先ほどから隠れているがあんこの美味さも段違いだぞ!」


 柿餡の方も好評です、と。

 いやぁ、四人がワイワイ言いながら和菓子食べてお茶すすってる光景は日本人にとって保養ですわ。

 よくあるじゃん? 海外の人が日本食食べてリアクションしてるようなショート動画。

 俺あれ大好きなんだよね。


「一気に食べてしまった……」

「小さいのだけが難点だ」

「違うぞ? あの大きさだからいいのだ。あれ以上大きいとくどくなる」

「そうですわ。この世界のスイーツですのよ? 何事にも理由がありますの」

「そ、そうか……」


 まぁ、大福ってそんなに大きいものじゃないしね。

 すぐ食べ終わっちゃうの分かる。

 というわけで~、食べ終わった四人の前で~。

 俺はゆっくりと、それはもうゆ~~~っくりと大福を頂きますわ。

 どんな目をしてもあげないからね。

 それじゃ、いただきま~す。

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