第346話 違いの分かる漢()
まず手を伸ばすはメインの肉寿司。
クソぅ……どれが何牛だこれ……?
とりあえず何牛でもいいから、カルビからいただきますか。
……こう、肉の上にウニの乗った見た目の暴力ヤバいな。
こんなの絶対に手を伸ばしちゃうじゃんね。
「まぁ!! お肉も鱗もトロリと溶けて!!」
「酸い飯と相性がいい!!」
「ワサビも効いて脂のしつこさはなく」
「塩の旨味が全体をまとめ上げる!!」
みんな満足そうに食べてますわね。
んだらば俺も、
「んおっ!? 溶ける!!」
この寿司……溶けるっ!!
口に含んだ瞬間、シャリは解れ、肉もウニ鱗も一瞬で塊からうま味のスープに変化しやがる。
冗談でも何でもなく、この寿司飲めちゃう。
あと、カルビだから脂が凄かったね。うま味のスープの中に、脂身だけは感じられたよ。
「見た目だけかと思っていましたけれど、乗せた鱗もいい仕事をしますのね」
「肉と違う甘さと旨味、コクなんかが追加されるな」
「肉の脂に負けん味っちゅーだけで凄いわい」
「それを言うならこの米もだ。単に酸っぱいだけでなく、コクや甘さなんかも感じられる」
「赤酢の効果ですかねぇ……」
赤酢というか、企業様が発売してる赤寿司酢だけども。
いやぁ、初めて使ってみたけどぴったりハマったね。
この肉寿司に。
「見た感じ肉の部位は三種類あった」
「つまりまた別の味と巡り合えるわけじゃな!?」
「どれだ!? 俺はさっきどれを食べた!?」
「私は一度こっちを挟みますわ」
悲報、マジャリスさん。自分の食べた部位を覚えてない。
そんな風に意識してないから、肉寿司を炙った後の並べるのも雑なんだぞ。
反省しろ?
……とりあえず俺は、お次はサーロインに行きましょ。
初めの方に脂の多い奴を食べとかないと、後からは絶対に食べれないからね。
一度ガリを挟み、口の中をリセットしまして。
お茶を飲み、いざ、サーロイン。
「あ、全然違う!」
凄いね。初めてこんなハッキリと肉の部位の違いを感じ取ったかもしれない。
さっきのカルビよりさらに柔らかい。マジで舌で押しただけで消える。
そのくせ味がしっかり濃い。これぞ肉! って味が、ウニ鱗を押さえつけながら口の中に広がるよ。
あと、さっきのカルビより塩との相性がいいように感じる。
ちなみにこっちも当たり前に飲み物です。
「ほぅ……。カケルが言っていた、肉の産地が違う、というのが理解出来た」
「そんなハッキリしてました?」
「いや、ハッキリとはしてない。だが、肉自体の風味が微妙に違った。恐らく同じ肉ではないだろうと分かる」
「……なるほど」
……どうしよう、俺全く分からないんだけど。
だって全部の肉美味しいじゃん? その肉を産地ごとに当てろって、多分出来ないでしょ。
少なくとも庶民には無理。
「酪農ギルドに持って行ってみるか? 生産環境の違いが肉質に影響を与える可能性……とかで」
「大いに有りだ。カケル、この世界で肉を美味くするためにどんなエサを与えている?」
うぇぇ? 知らんが? 国産牛って何食べてるの?
……あ、なんか、リンゴを食べた牛の肉はスッキリとしていて甘いって何かで読んだ記憶……。
あと、ビールとか飲ませてるって話も聞いたことある。
それ伝えとくか。
「果実や酒を与えているとは聞いたことありますね」
なお、ソースは漫画。
間違ってても恨まないで欲しい。
「酒じゃと!?」
あー、落ち着いてくださいガブロさん。
はい、コシャコナリケリの軍艦巻きですよ、あーん。
「もぐもぐもぐ」
大人しく食べてくれるの本当にありがたい。
「ふむ。それらは確かに我々の世界では与えられていないだろうな」
「伝えるだけ伝えておこう」
うし、乗り切った。
さて……続いて肉寿司最後のハラミですが?
その前に?
「リリウムさーん? 俺らの分も残しておいてくださいね?」
シャコナリケリの握り寿司を食いまくってるハイエルフを止めとかないとな。
このままだと一人で食べきりかねない。
「ハッ!? 申し訳ありませんわ。つい夢中になってしまって……」
「そんなにか?」
「炙った事で身がギュッと凝縮され、食べ応えのある食感に代わっていますの。そして噛めば噛むほど溢れる肉汁が、鱗と混ざり合った時の旨味と言ったらもう!!」
「「ゴクリ」」
「名残惜しいのですけれど、これ以上食べては私以外の分が無くなってしまいますわ。自重いたします」
話が通じるエルフで助かる。
てかさぁ、あんな食レポ聞いたら食べたくなるじゃんかー。
……落ち着け、ハラミを食べてからだ。
というわけでハラミの肉寿司……。
「おっほぉ……。うめぇ……」
これヤバいよ?
先の二つと違って、しっかりと噛み締められる。
でも、決して劣ってるわけじゃなくて、肉を噛み締められる喜びを味わえるって点。
あと、全然固くない。マジでずっと柔らかくてさ。
たっぷり沁み込んだスポンジみたく、噛み締めるほどに肉汁が溢れ出すんですわ。
全部ひっくるめて、サーロインやカルビに匹敵する美味さだと断言できるね。
「肉が美味い……」
「ある種感動じゃな。わしらの世界ではダンジョンに入り、運がよく無ければ出会えぬレベルの美味さの食材が、この世界では簡単に手に入る」
一応、簡単じゃないですよ?
それ相応の値段はしますから。
ただまぁ、金があれば手に入るのを簡単とするなら、そりゃあ簡単に手に入りますわね。
「あらゆる秩序が整っているからだろう」
「文字通りの異世界ですわ」
「一応俺からしても同じ言葉を返せますけどね?」
ある程度の実力が必要とは言え、和牛レベルの食材を大量に用意出来るんだもん。
まぁ、俺は絶対にそんな事不可能だけどさ。
例え異世界に行ったとて、ね。
「肉の風味と脂身の味に微妙な違いがある……」
「マジャリス、私が言っていたことが分かったか」
「分かる。かなり繊細だな。肉とは大味なものだとばかり思っていたが……」
「ちょっと、私にもお肉の食べ比べをさせなさいな」
「美味けりゃええわい」
なんかエルフ達で肉寿司の取り合い始まりましたけど?
俺はゆっくりコシャコナリケリやシャコナリケリのお寿司を楽しませてもらいますよ。
……ガブロさんも、しれっとエルフ達の輪に加わって肉寿司の取り合い始めたけど、まぁ、分からんでもない。
美味しいもんね、肉寿司。
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