第345話 伝達ミス

 さて。

 軍艦を作る前にサッとできる下準備。

 コンロに火をつけ、その上で使う海苔を軽く炙っていく、と。


「?」

「あ、気にしないで大丈夫です」


 不思議そうにラベンドラさんから見られたけど、ラベンドラさんは握りに集中してもろて。

 後は海苔を程よい幅に切って準備完了。

 大体の感覚でシャリを手に取り、同じく感覚で形を整えまして……。

 実際に海苔を巻こうとしてみて、取り過ぎた感じがしたので少し千切ってボウルに戻す。

 ……うん、こんなもん。

 海苔を巻きつけたら端っこに米を一粒くっつけまして、これを接着剤代わりに海苔同士をくっつける。

 これで海苔が剥がれないって寸法よ。

 後はスプーンでウニ鱗を乗せたら完成。軍艦が一貫出来上がりました、と。

 これは結構時間掛かるぞ……。


「カケル?」

「なんでしょうリリウムさん」

「今の動きでしたら、全部魔法に任せられますわよ?」

「……お願いします」


 葛藤はあったよ?

 あと、実際にお寿司屋さんやってる職人からしたらふざけんなって思われるかも。

 これだからエルフは……とか言うのかな?

 だが残念、俺は寿司屋でもなければ職人でもないんだ。

 楽が出来るならそれに越したことはない。


「お任せくださいな」


 そう言ってリリウムさんが空中に何やら文字を書けば、あら不思議。

 シャリは自動で浮かび上がり、大きさと形が揃えられ。

 海苔は勝手に空中に躍り出て、シャリに巻き付いていく。

 そこに同じく空中に浮いたウニ鱗が、丁度いい量乗せられまして。

 ……俺の苦労は何だったんだってくらい、秒で、しかも大量に軍艦の完成。


「じゃあこちらもお願いします」


 ウニ鱗が終わったら、次はコシャコナリケリですわぞ~。

 握りより、軍艦の方が乗せられる量は多くなるからね。

 たっぷりと盛って貰いましょう。

 さて――ラベンドラさんは……?


「出来上がっているものからどんどん炙れ」

「任せろ」

「焼き過ぎるんじゃあないぞい」


 エルフとドワーフの前で、めっちゃ手際よく寿司握ってるわ。

 凄いね、あの速さ。

 ……うん? 待って?


「マジャリスさん」

「なんだ? 今炙りに忙しいんだが」

「言い忘れてましたけど、今回のお肉って実は四品種あったんですよ」

「全部同じように見えたが?」

「なんて言うか、産地が違うんです。なので、微妙に味わいとかが変わるはずだったんですけど……」


 俺の視線の先。

 炙り終えられたお寿司が並ぶお皿には、残念ながら規則性というものは存在しない。

 こう、見たことない? 自分の出身国にシールを貼って貰う街頭アンケートみたいなので、日本だけ妙に並んでシールが貼られているの。

 他の国はてんでバラバラなのにさ。

 ……何が言いたいかって言うと、寿司が並んでないんだよ。

 向きとか全部バラバラ。たとえ順番にラベンドラさんが握っていたとしても、どこから置いたか見当が掴ん。

 ――つまりは、どれが何牛なのか判断できない、という事。


「す、すまない!」

「あ、いや、大丈夫です。多分ですけど自分にはその違い感じ取れないと思うので……」


 謝らせちゃったけど、まぁ言うてね? 肉の味……しかも繊細な風味とかの違いを感じ取れるかと聞かれると……。

 俺には無理だろうね、言っといてなんだけど。

 出来るのは多分、普段からそう言うブランド肉を食べ慣れてる人くらいじゃない?

 新年にある某格付け番組で様付けされてるあのお方とか。


「リリウム、暇なら炙り終えた肉寿司に『――』の鱗を乗せていけ」

「分かりましたわ」


 そうこうしている間にも、続々と出来上がっていく肉寿司たち。

 ちなみに言い忘れてたけど、炙りはガスバーナーとかじゃなく、普通に魔法で行われてます。

 が、ガスの匂いとか付かないから美味しいんじゃないかなぁ。

 誰も真似できんけど。


「ふぅ、こんなものだろう」


 出来上がった肉寿司は圧巻だね。

 まぁ、品種の違いは識別出来ないけど、部位の識別は出来る。

 サーロイン、カルビ、ハラミ、みんな違ってみんないい。

 って、違う違う。違わないけど、そうじゃなく。

 とりあえず、見た目で部位は判断出来る、と。


「次は『――』だったな」


 肉寿司を握り終えたら今度はシャコナリケリ。

 回転寿司のメニューにある、大エビサイズに切られたシャコナリケリが、ラベンドラさんの手によってどんどんと握られて。

 握られたものから、どんどんマジャリスさんに炙られていく。


「肉より火の通りが早い。そのくらいで十分じゃわい」


 焼き職人のガブロさんも働いてます、と。

 そうこうしてたら、いよいよ寿司が握り終わりましたわね。


「ワサビを乗せておくので、お好みでどうぞ」


 大皿に並べられた各種寿司の脇へ、チューブのワサビをにゅにゅっと豪快に。

 肉にワサビは合う。ウニにもワサビは合う。つまり今日の料理のマスト薬味ってわけ。


「味付けはシンプルに塩がいいと思う。より素材の味を感じられるはずだ」

「じゃあそうしましょう。あとはガリも置いとくので、合間に食べてください」


 何故か家にある藻塩をテーブルに出しつつ、さらに買って来てあるガリも投下。

 寿司と言えばガリでしょ。

 というわけで準備は万端、後に残すは食べるだけ。


「それじゃあ」

「「いただきます!!」」


 というわけで国産和牛の肉寿司~異世界産のウニを乗せて~と、異世界シャコナリケリたちのお寿司。

 いざ尋常に……いただきます!!

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