第349話 閑話 昇格会

 昇格会も順調に進み、現在は会食が進行中。

 会食と言っても、本日表彰される功績者の顔見せでもあるわけで。

 貴族の中には、その功績者に支援をしたり、専属にするといった者たちもいる。

 その者たちの引き合わせとして、こうして会食が行われている訳なのだが……。


「……美味しくない」

「食べられなくはありませんけれどね」

「まぁ、食いなれた料理の方が美味いわい」

「デザートも、在り来たりな物ばかりだ」


 純白の装備の四人組。

 ただでさえ目立つ『夢幻泡影』の面々は、その目立つままに上のような事を言っており。

 皆がワイワイと、食事に会話にと勤しんでいる中、その額には皺が寄り。


「これが王城の料理人の腕……か」

「素材が悪い。もっと美味い素材を使うべきじゃろ」

「これはあれではなくて? この後出されるラベンドラの料理を引き立てるためにあえてこのレベルなのではなくて?」

「周りの反応を見るに美味い料理だそうだが?」


 近くにいる貴族たちからは、どうかこの言葉が国王の耳に入らないでくれ、と願われる位にはボロクソに言っているが。

 実はリリウムの考え通り、この後の『夢幻泡影』によるジライヤタンの料理をより引き立たせるために、あえて食材のランクを落とした料理を提供していたりする。

 もっとも、食材のランクを落としたと言っても、この昇格会に参加している貴族からしてみれば、一週間に一度ありつけるかどうかレベルの食材であるが。


「それではただいまより、この国へと多大な貢献をした方々の表彰を執り行います!」


 そうして、集まった功績者たちの表彰が始まったのだが……。


「まずは、数々の情報を告知、拡散させたことを認め、ギルド新聞冒険者ギルド課取材課長、カウダトゥス・アエロス!」

「ひゃいっ!?」


 まさか自分が一番手で名前を呼ばれるとは思っていなかったアエロスが、変な声を上げて飛び上がる。

 口には今しがた頬張ったトロールのステーキが入ったままであるし、何なら手にはフォークを持ったままだったりもするが……。


「そなたは我々王城の者のみならず、多くの貴族達も目を通す新聞を作り上げた」

「あ、いえ、それ自分の力ってわけじゃあ……」

「この功績を称え、勲章が下賜される」

「あ、ありがたいっす!」


 口の中の物を急いで飲み込み、頭を下げ。

 そうして頭を上げれば、その胸に勲章が付けられる。


「これからも、新しい、そして、誰もが興味を引くような情報を期待している」

「しょ、精進するっす!!」


 もう一度お辞儀。

 そして、お辞儀の最中に『夢幻泡影』へと視線を向け。


(これからもお願いするっす……)


 と、欠伸を噛み殺すマジャリスの横顔に期待を乗せ、一歩下がる。


「次! 農業ギルド新規栽培開発部門部門長、『マトリカリア・レクティタ』!」

「はい」


 次に呼ばれたのは、真っ赤なドレスを着飾ったエルフであり。

 その頭や耳には、花を模した装飾品が多数見受けられる。


「そなたら農業ギルドは、この度新たな主食となる植物の発見、開発、栽培に成功。これにより、我が国の食事は大きく幅が広がる事となった」


 そうして功績の内容が読み上げられ、アエロスと同じく勲章が下賜されて。

 その後も、集まった功績者が続々と称えられ、勲章が下賜されていき……。


「最後に、『夢幻泡影』!!」


 大トリとして、四人が呼ばれ。


「この者達の功績は大きく、そして多すぎる。よって、ここで読み上げる事はせず、皆に一覧を配る事とする」


 四人のやらかした……もとい、この国に与えた大きさ、そして数。

 それらをまとめた一覧が、この言葉と共に、この昇格会に参加している全員に配られ。

 それを見た数人から、どよめきが起こる。

 何故なら、これまでに勲章を下賜された様々な功績者。

 そのほとんどが、この『夢幻泡影』と何かしらで繋がりがあったから。

 ……そして、


「この一覧に書いてある事を、にわかに信じられない者もいるだろう」


 進行を行う大臣は、ここで一度言葉を区切り、周囲を見渡す。

 そうして、全員の顔にぐるりと一周、目を向けた後で、


「そこで、こちらで用意した類を見ないような食材。これをこの場で調理し、皆に振舞って貰おうと思うのだが……どうだろうか?」


 と。

 事前に『夢幻泡影』が『ヴァルキリー』から聞いていた情報通り、ジライヤタンが運び込まれて来て。


「この食材は先日、『ヴァルキリー』が採取してきた、ある倭種のモンスターの素材である」


 倭種という言葉に再びのどよめき。

 中には、そもそも食べられるのか? という疑問を近くの者と話す貴族まで出ている中。


「どうだろう? これを美味しく調理することは可能か?」

「無論。任せていただこう」


 大臣から命を受けたラベンドラは、ペグマ工房製作の解体包丁を手に取ると。


「未知なる食材に挑むは料理人としての誉れ。私の全ての技術と知識を持って、調理いたしましょう」


 現代の、翔からの知識もひっくるめた全ての知識を持って。

 ジライヤタンを調理すると宣言。

 それを聞き、まばらに拍手が聞こえてくる中で。

 ラベンドラは、ゆっくりと包丁を動かし始める。

 ……作る料理はネギ塩ダレの牛タン丼と、タンのハンバーグである。

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