第427話 名付けたかったのか……

 まぁアディショナルタイムとかいったところで、やることは鍋に入れて煮る。

 これだけなんですけどね。

 ちなみに出汁を取るためにじっくり煮る異世界牡蠣と、半生で食べる後入れ牡蠣とで分けてみた。

 牡蠣も食べ比べ出来るって素晴らしい。


「ところでこの鍋の中身なのだが……」

「はい。カニとあん肝、あと魚の白子ですね」


 今回は鱈の白子をご用意。

 あん肝と同じ鮮魚店で買って来たよ。

 お店の人に痛風鍋かい? って聞かれちゃった。

 はいって答えたら、いいウニが売り切れちゃってて……なんて申し訳なさそうに言われたっけ。

 また今度お願いしますって言っておいた。


「肝?」

「白子?」

「そんなの食えるんかい?」


 ……あー、そういや、これらの部位も日本ならではの食べ物なんだっけ?

 白子に関しては海外だとその部位から女性が躊躇うみたいな話聞いたことあるな。

 意外と男の方が食べようとチャレンジするらしい。

 ちなみによく表現に使うクリーミィって感想、白子を食べた時だけは外国人の前で言わない方がいいらしいよ。

 いかがわしい意味になっちゃうんだって。


「絶品ですよ」

「美味しいよね」


 なお、この姉弟は大好物なもよう。

 滅多に食べられないけどね。


「ううむ……」

「我らの世界では、それらの部位は魔法薬の材料でしかない……」

「しかもそのまま使うのではなく、干してすり潰して粉末状にして使いますの」

「味なぞ気にしたことが無い……」


 で、異世界組は本質的には海外だから、どちらかというと躊躇いの方が強い。

 海外というか、惑星外というか……。

 

「でも確実に美味いですよ?」

「物は試し……か」

「じゃのぅ」


 というわけで後入れ牡蠣を入れて、しばし待ち。

 出来上がった痛風鍋をオープン。


「あ、そうそう。ゴーレム君、尻尾生えてた」

「尻尾?」

「そう。タンザナイトのひし形尻尾」

「昨日私が与えたものだな。体に貼りつけたか?」

「何の為にかを考える必要がありそうですわね」

「とりあえず飯じゃ。空腹では頭が回らん」


 姉貴がゴーレム君観察日記を報告するも、ダメだよ姉貴。

 食べ物を目の前にしてこの人らがそっちに気を取られないわけないじゃん。

 はい、取り皿どうぞ。


「香りは凄くいい」

「味もいいですよ?」

「ううむ……」

「ガブロ、行け」

「ゴ―! ですわ」


 またガブロさんが毒見役にされてる。

 じゃあ、このあん肝と白子と、たっぷり旨味が出たスープをどうぞ。


「……あぐっ!!」


 ギュッと目を瞑り、意を決してあん肝を口に放り込んだガブロさん。

 口に入れたまま数秒とまり、覚悟を決めてゆっくり咀嚼。

 ……反応はよ。


「美味い」

「どんな味だ!?」

「濃厚でギュッと詰まった旨味じゃわい。じゃが食感は固くなく、舌と上あごで押しただけで潰れる柔らかさじゃ」

「ん~~!! 最高! 生臭さとか一切ない!!」


 ガブロさんの感想の後、追いうち気味に姉貴の感想が続く。

 ついでに俺もっと。


「滑らかで、ずっと口の中に美味しいが残り続けますね」

「じゃな!! これを魔法薬の材料にしておったのか……」

「た、食べましょう!」

「だな!!」


 というわけで三人も参戦。

 ホイホイどうぞ。半生の牡蠣も美味しいですよ。


「確かに、ガブロが言う通り濃厚でまろやかな味わいだ」

「魚の内臓という事で、確かに魚らしい香りはありますけれど……」

「臭い、とはならんな。……チーズに似てなくもない、か?」


 チーズ……チーズかぁ。

 どうなんだろ。ひょっとしたら、異世界のチーズに似てるとかならありそうかも。


「次は白子じゃな」

「これも得体のしれない食べ物だが……」


 失礼な。ご馳走だぞ?

 鍋にヨシ、天ぷらにヨシ、ポン酢でさっぱり食べてヨシなんだぞ?


「ていうか、スープマジで美味しい」

「出汁がよく出てるよね」


 今だけは異世界組より俺らの方が箸が早いな。

 だが、それも白子の美味しさを知ったら逆転するだろう。


「……むほっ! こっちはトロリとクリーミィじゃな」


 ……しょうがないよ。こればっかりは。


「美味いのか?」

「いらんなら全部貰うぞい」

「やらん!!」


 というわけで全員が一斉に白子を頬張り……。


「口に入れた瞬間はぷるぷるふるふると震えるが、一度歯を立てるとトロリと溶ける……」

「スープを良く吸っている。そして、白子自身の味も美味い……」

「カケル達が絶品というのも納得ですわ!!」

「お代わり!!」


 待ちなさいな。

 ちゃんと野菜も食べるのよっと。


「スープの浸みた白菜が美味い……」

「豆腐を食うたか!? 最高じゃぞ!?」

「牡蠣が……牡蠣が……」

「もう本当に最高じゃないですの!!」


 『夢幻泡影』の食欲エンジン、始動。

 後は勝手によそって食べるでしょ。


「ねぇねぇ翔」

「? どした?」

「この牡蠣、なんて呼ぶか決めた?」

「? 異世界牡蠣でいいんじゃない?」

「私考えたんだけど、悪魔の魔で魔牡蠣とかどう?」


 とかどう? って聞かれても……。

 でも、元は魔物だったわけで、そうすると魔って字は確かに合ってるかも?

 じゃあ魔牡蠣にしちゃうか。

 別に決めたってどうこうなる話じゃないし。


「いいよそれで」

「やったね!」


 なんかテンション高いし。

 まぁ、いいんでね?


「カケル! この鍋の〆はもちろん雑炊だな!!?」

「ですね。まぁ麺も買ってはいますけど……」

「絶対に米が美味いはずだ!! だから雑炊だ!」

「あ、はい」


 凄いな、俺らより後にスタートしたのに、もう鍋の半分は食べてるぞ……。

 ちなみに例によって鍋の数は三つ。

 俺と姉貴の鍋は普通盛り、異世界組の鍋は超大盛なのにさ。

 とっくに俺らの進捗を置き去りにしてるんだもんなぁ。

 美味い美味い言いながら野菜も豆腐も奪い合うように食べてるよ。

 痛風鍋、異世界にも通じる最高のご馳走なようです。

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