第313話 しょうがないじゃん……
「待ってました!!」
はい、待たれてたようです。
当然ながら発言者はマジャリスさんで、待っていたのはデザートっていう。
しかもあれよ? 冷蔵庫から取り出したフルーツ白玉あんみつを、早く食べたいと駄々こねまして。
このままでもいいですけど、これで完成じゃありませんよ? って言ったら一度は大人しくなったの。
でもね? すぐに完成させてくれと叫ぶに至り、俺が冷凍庫から業務用のアイスクリームを取り出した瞬間からテンションマックス。
そして、さっきのあんみつの中央にアイスを乗せた時点でテンション爆発。
手が付けられない子供みたいになった。
「もう少し落ち着いたらどうですの?」
「これが落ち着いていられるか! アイスだぞ!? あんこだぞ!? フルーツだぞ!?」
「騒ぎ過ぎじゃ」
「気持ちは分からんでもないが二人の言う通りだ。こういう時にこそ心を落ち着けろ」
「むぅ……」
なお、ちゃんと他三人から注意されて、渋々ながら落ち着く模様。
というわけでそれぞれにフルーツ白玉クリームあんみつを提供しまして……。
「いただきます!!」
瞬間湯沸かし器みたく、テンションが跳ねあがったマジャリスさんに、再び制止をかける。
「まだ完成じゃないんですって!!」
全く……あんみつだって言ってるでしょ。
蜜かけないでどうするの。
というわけで黒蜜のご登場。
水信玄餅の時に使った、沖縄県産のちょいお高めの黒蜜なり。
あのね、普段特に黒蜜とか食べない俺でもこの黒蜜は違いが分かったのよ。
というわけで追加で買って来てたりしてたのさ。
これをたーっぷりとかけまして。
「うぉっほっほっほ!」
動物かな?
なんかもう、マジャリスさんのテンションが変な感じになってる気がする……。
「これで完成です。フルーツ白玉クリームあんみつになります」
「いただきます!!」
俺が完成と言ってから、マジャリスさんが手を付けるまでの記録――0.1秒。
これは目を見張るタイムが出ましたね、解説の俺氏はどう見ますか?
おおよそ人間が出来る反応速度ではないのでしばらく世界記録として残りそうですね実況の俺さん。
「甘い!!」
そりゃあ甘いだろうよ。
というか、そこで甘くないとか言われたら味覚異常だぞ。
デバフ貰った状態でこっちに来たんじゃないかと疑うが?
「黒蜜とアイス……最高に合うな」
「フルーツの酸味とも黒蜜の相性が最高ですわよ!」
「この色とりどりのゼリーみたいなんも美味いわい。よく冷えとる」
「それは寒天と言って、海藻の成分で固めてあるんですよ」
だったよね?
食物繊維とか取れるから、美容にもいいと聞いたことがあるようなないような。
てんぐさ……だっけ? 寒天の主原料的なの。
基本的に寒天としか聞かないからよく覚えてないんだけどさ。
「明らかに和風なのに、あんこや黒蜜がアイスとよく合う」
「むしろアイスが和風に合っとるんじゃろ」
「このモチモチとしたのも美味しいですわ!!」
凄いよね。
三人がこうして感想言いながら食べてるのにさ。
マジャリスさんだけ我関せずで丼に顔を突っ込んだようにしてずっと食べてる。
……、
「ちなみにお代わりはありませんからね?」
「んえ゛っ!?」
どっから出た声だそれ。
というかやっぱりか。
お代わりありきで食べてやがったな。
……丼サイズだぞ? 普通ならそれで満足どころか下手すりゃ一食になる量だが?
デザートは別腹って言ったって限度があるぞ?
「……」
ようやく丼から顔を離したと思ったら、そんな捨てられた子犬みたいな目で俺を見るな。
やらんぞ! 俺のは!!
――はぁ、
「きな粉と黒蜜、アイスだけはありますんで、きな粉黒蜜アイスとかになら……」
「流石だカケル!!」
「あんこもありはしますね」
「好きだぞカケル!!」
……い、いい顔してそんな事言われたって全然嬉しくないんだからね!!
落ち着け、俺の心の中の乙女。
こいつになびいたら絶対に振り回される。
だから出てくるな。
「うちのマジャリスがスマン」
「あまり迷惑をかけてはいけませんのよ?」
「たまには自重ッちゅうもんをじゃな……」
これは確実に俺の問題なんだけどさ?
俺の中の葛藤の後に、うちのマジャリスが……なんて言われちゃったらさ?
お? ジェラシーか? とか良くない発想がですね?
落ち着け……そういう感情を持つのはどっちかというと姉貴だ。
だから落ち着け、腐るにはまだ早い……。
「そう言えばカケル、この白いものなのだが……」
「白玉、ですね。今回は豆腐と混ぜて作ってます」
「つるんとしていてモチモチ、黒蜜もよく絡み、アイスとの相性もいい。万能デザート食材とお見受けしましたわ」
「まぁ、和スイーツには定番な食材ではあります」
ぜんざいとかに入ってても美味しいよね。
ぜんざい……そういや、冷やしぜんざいとかもあったな。
フルーツ白玉クリームあんみつの後に出すのが正解かは分からないけども。
「寒天や白玉の滑るような舌触りと、ぷるぷる、もちもちの二つの食感。あんこ、黒蜜、アイス、フルーツのそれぞれ違う種類の甘さ。フルーツそれぞれの酸味や瑞々しさ。その全てが完全に一つの物として成立していた」
「あんこさえ再現出来れば、向こうの世界でも作れそうですわね」
「早く!! 再現しよう!!」
「簡単に言うが、そもそもの当てすらないんだぞ? お前が探すならば別だが……」
「分かった! 意地でも見つける!!」
「……はぁ」
こうなったら聞かないんだよ、とでも言いたげに首を振ったラベンドラさんの気苦労が見える見える。
きっと、向こうの世界でもデザート! スイーツ! って連呼してるんだろうな。
大変そうだ、ラベンドラさん。
なんて思いながら、マジャリスさんを除く三人と俺は、一足も二足も先に完食したマジャリスさんの視線を受けながら、フルーツ白玉クリームあんみつを食べる事になった。
……あまりにもじっと見られたから、一口あげた。
甘やかしすぎだと、三人から怒られた。
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