第116話 魔改造弁当箱

 海の見える丘。

 そんな場所に陣取り、仲良く――は無いが、適当な距離で座ったリリウム達『夢幻泡影』の四人。

 そこでする事といえばもちろん――。


「朝から揚げ物なんて、今日は素晴らしい一日になりそうですわ!」


 眺めを楽しみながらの食事、である。

 

「一応追加のタルタルも貰ってきている。必要ならば言え」

「タルタルお代わり」

「……はぁ。マジャリス、せめて弁当のタルタルが無くなってから言ってくれ」


 昨日翔から持たされたどか弁。

 それの蓋を開けると、まず目に飛び込んでくる揚げ物たち。

 エルフの――というよりはラベンドラの保存魔法により出来立ての温かさを保持したままのその弁当は、ガブロが揚げ物に嚙り付いた時の、ザクッという音からも分かる通りに出来立てそのもので。


「ご飯が進むぞい!!」


 揚げ物を口に入れ、その後から海苔と共に白米を口へ。

 そして、咀嚼している途中、


「ご飯にも味をつけちょるんか?」


 昨日の夜には感じなかった、妙な味のアクセントに気が付いたガブロは、弁当を作った一人であるラベンドラに質問。

 すると、


「カケル曰く、ふりかけと言ってご飯のお供のようなものをかけているらしい。ちなみにおかかという、魚のフレークがベースのふりかけだ」


 とのこと。

 魚をフレークにするとは、と思いつつ、ご飯に合うその味付けには概ね満足で。


「海苔の風味が素晴らしいですわ! それに、タルタルと『シージャックマイコニド』の柄のフライも組み合わせ最高ですの!!」

「やはりタルタルは魔の調味料だ。合わない料理を探す方が難しいだろう」


 タルタルソースにすっかりとハマってしまったリリウムとマジャリスが舌鼓を打つ中。


「ふむ。いい歯ごたえと塩味。……漬けられたマンドラゴラの香りも素晴らしい」


 ひっそりと高菜に興味を持っていたラベンドラが、いの一番にご飯を掘って高菜と共に口へ。

 そうして感想を言うと、


「むおっ!? ご飯の中から新たな漬物が出てきたぞい!?」

「このお漬物も美味しいですわ!! ご飯にとても合いますの!!」

「本当に驚くほど種類が豊富だ……。そして、そのどれもが米を進ませる」


 辿り着いたらしい三人も、それぞれ高菜を食べてみて。

 口々に、感想を発表。


「実は、カケルに言ってお茶も貰ってきている」


 と、スワンプアリゲーターの胃袋で作った特製の水筒を取り出すと。

 たぽんっ! とたっぷり二リットルは入ってそうな音を立て、三人の意識を集めた。


「それならホレ。酒用に作らせたが、茶を飲むのには困らんじゃろ」


 すると、ガブロが三人へとガラス製のウイスキーグラスのようなものを手渡して。


「それなら、これに注ぎますわね」


 受け取ったリリウムが、自分のグラスへと麦茶を転移。

 次いで、それぞれのグラスに麦茶を転移させ。

 準備完了と言わんばかりに四人が一斉に腰に手を当て。

 上体を逸らしながら、元気にお茶を一気飲み。

 なお、それぞれの弁当はマジャリスが魔法で空中に固定したりしているのだが、まるでいつもの事と言わんばかりに誰もそれを意に介しておらず。


「やはり、米には麦茶じゃな」

「間違いない。……高菜やおかかのふりかけもいいが、やはりたくあんが美味い」

「あら、私は高菜を気に入りましたわよ?」

「こうして容器に食事のおかずや主食をまとめて入れて持ち運ぶのは、何かに使えるかもしれない」

「じゃがこっちの主食はせいぜいパンくらいじゃぞ?」

「パンとは別に挟む具を大量に用意して、その場で好きな具材を挟むお好みサンドとかどうですの?」

「確かに面白いかもしれないが、人気になり得る具材の取り合いになりそうにしか思えないな」


 今度は、お茶のお代わりを転移させたグラスを浮かせ、先程までと同じように弁当を食べ始める四人。


「ハムにチーズ、マンドラゴラ各種じゃ少ないか?」

「カツが欲しいですわ。あとはまぁ、ガーディアンシュリンプのフライも合いそうですわね」

「カツもオークにボア系統にトードにバジリコックと種類があるが?」

「種類を絞る事も無かろう。全種揚げれば問題解決じゃ」

「私に何人前用意させる気だ? そうなったらもう、私たち以外にも人が居る会食のような食事量になるぞ……」


 食事をしながら別の食事の話をする。

 食いしん坊もここに極まる様な会話をしながら、この日、『夢幻泡影』のメンバーは、充実しまくった朝食をご機嫌に平らげるのだった。



「何をしてらして?」

「カケルが弁当の容器を軽く洗って返してくれと言っていたからな」

「まずは大まかな汚れをスライムの粘液でまとめて掻っ攫い、後はドワーフの技術で磨いてやろうか、とな」

「でしたら、私たちも助力いたしますわ!」


 食後、翔の言いつけである、


「容器は軽く洗って返してくれ」


 という言葉。

 これを、言葉通りには受け取ったのだが、どうせなら、と善意全開で拡大解釈しまくった結果。


「穢れ無効の状態付与完成ですわ」

「収納時の状態を維持する効果も付与成功だ」

「自分の顔が映る程ピカピカに磨いたぞい」

「ふむ。ならば、どんなに物を入れても重量が変化しないようにもしておこう」


 おおよそ、現代ではどうやっても再現が不可能な、魔改造弁当箱が誕生したことを翔が知るのは、もう少し後の話である。


──────────


シージャックマイコニド:海辺や浜辺に生息するキノコ型の魔物。群生し、その場所一帯を占領する様子からその名前が付いた。柄の部分は現代で言うホタテの貝柱で統一だが、笠の部分の味は生息する場所や個体により種類がある。

翔たちが食べている牡蠣のほか、アワビやムール貝、果てにはウニの味のする個体も。

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