第115話 異世界弁当

 どか弁、という物をご存じだろうか?

 いや、某やきう漫画ではなく。

 作中でも主人公が食ってはいたんだけどさ。

 ようは、デカくて深い弁当箱の事なんだけど、うちにはなぜかそれが結構あるんだよ。

 なぜかね。

 んで、それを使ってお弁当を持たせてみようと思いまして。

 白身魚のフライもあるし、弁当といえばで真っ先に出てくるであろうのり弁を作ろうと思うの。

 ……ホタテフライとカキフライの入ったのり弁とは? となりそうだけど、究極海苔さえ敷いていればのり弁なので……。

 というわけで、揚げ物を揚げて油を切ってる間にラベンドラさんに教えながら弁当に詰める作業を開始。


「まずは、薄くご飯を敷いていきます」


 当然最初はご飯を敷くわけですが……。

 ただ、ご飯を詰めるのもねぇ。てな事で、ここで最初の一工夫。

 薄く敷いたご飯の上に、九州ガチ勢の友人から土産で貰った高菜を乗せましょう。

 この友人凄いんだぜ? 唐突に、


「豚骨ラーメンには四種類ある」


 とか言い出して、その四種類を食べるために福岡に旅行に行ったからな。

 なお、帰って来ての第一声は、


「うどんが美味しかった」


 だった。

 今度は長崎でちゃんぽんを食ってくるとか言ってたな。

 お土産は何になるだろうな。


「これでは、ご飯は少ないんじゃないか?」

「はい。なので上からさらにご飯を盛ります」


 高菜を乗っけたからか、ご飯はこれで終わりと認識しちゃったらしいラベンドラさんから質問が飛んできた。

 じゃけんご飯追加しましょうね~。

 で、このどか弁の真意は、蓋が閉まるまでぎりぎりに盛れなので、一気にご飯を追加。

 そこにおかかふりかけを薄っすらかけて、同じく福岡土産の海苔を乗せます。

 どこで買ってきたか知らんがこの海苔、玄界灘産らしく、色が黒じゃないんよ。

 黒紫って言うの? しかも結構赤が強い感じ。

 この海苔がまた風味が良くてさぁ! 舌に触るとスッと溶けるみたいな海苔なの!

 もう極上。九州って美味い物多いんだね。

 ちなみにその海苔のサイズは小学校の頃の教科書くらいの大きさなので、ご飯の大きさにカットして使いますわ。


「じゃあ、この上に揚げ物を乗せていきましょう」


 ご飯という名の土台が出来上がったから、ここからは揚げ物盛り付けタイム。

 まず定番に白身魚でしょー。

 んで、ちくわの磯部揚げの代わりに白身魚のフライ。

 原材料はどっちも魚だからな、実質一緒。

 そしたら茎フライと笠フライも乗せて、上から軽くウスターソース。

 更にタルタルで彩を無理やりにでも補強してやれば……。

 はい完成! 贅沢海鮮フライの海苔弁当!!

 ……俺のは普通のサイズの弁当箱に作ってます。

 どか弁とかね、高校生の頃でも食いきれんて。


「これで完成か」

「ですね。あ、漬物乗せてないや」


 と、閉めかけた蓋を開けて漬物をイン。

 オーソドックスにたくあんを三切れ、入れときました。

 本当はきんぴらごぼうとかも入れたかったんだけどね、作るの面倒だし、いいかなって。


「容器に入れて持ち運びを可能にするのか」

「わしらにはあまりない発想じゃな」

「? ……ああ、かさばるからですか?」


 弁当を珍しそうに見てたガブロさん達が、そんな事を言うもんだから考えたんだけどさ。

 いわゆる冒険者って、ダンジョンに潜るにしろ、次の町に向かうにしろ。

 人数分の食料を確保しなきゃならんわけで。

 ならいちいち、弁当とか作らんよなぁ、と思い当たったわけだ。


「そうだ」


 やっぱりな。

 ゲームでもあるじゃん、道具欄が一杯ですとか、アイテムに重量が設定されてて、一定までの重さまでしか持てないとか。

 あのシステム、面倒だなぁとか思いながらプレイしてたけど、こう考えてみればリアル準拠なわけで。

 まぁ、ある方が自然なんだろうなぁと。


「にしてもこの容器の素材はなんじゃ?」

「ステンレスじゃないんですかね? ちょっと調べてみます」


 ガブロさんに言われて答えたものの、ちょっと違和感。

 なので、便利な調べられる板で検索検索。

 へい俺! 弁当箱の素材を調べて!

 カシコマリマシタ……アルマイト?

 アルミニウムを色々と強化したやつが使われてるらしい。


「アルマイトってものらしいです」

「? ……ふむ」

 

 一瞬なんのこっちゃ? って顔してたガブロさんだけど、急に真面目な顔をし始めて。


「なる程のぅ」


 とか言い始めた。

 ……俺、何も悪い事伝えてないよな?


「それじゃあカケル、これはありがたく貰っていくぞ」

「はい。あ、容器は軽く洗って返して貰えると助かります」

「分かった」


 そんなガブロさんの肩をマジャリスさんが叩き。

 その間にリリウムさんが魔法陣を用意。

 人数分のどか弁をラベンドラさんが持って、四人で魔法陣へ。

 さーて、俺も寝るかぁ。

 明日の朝ご飯は豪華なのり弁だからな。寝る前から胸が高鳴るってもんよ。

 ……と、この時までは――というか、ラベンドラさんから弁当箱の容器を受け取るまではのんきだったんですよ。

 いやぁ、異世界の常識? エルフ達の常識? を舐めてましたわ。

 まさか帰ってきた弁当箱があんなことになってるなんてなぁ……。

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