第114話 異世界フライの盛り合わせ
「フライが……一杯――」
「カケル、全部にこのソースでいいのか!?」
「タルタルもあるぞい!! ここは理想郷か!?」
「『――』を揚げるという発想はなかった。一体どんな味になってるやら……」
はい。目の前に揚げ物が並んだ途端このテンションの三人なわけですよ。
この人らの頭にはもう揚げ物=美味いのイメージが付いてるんだろうな。
間違ってねぇぜ、その公式は。
……ちょっとだけ訂正というか補足しとくとカロリー=美味いだけどな。
「一応下味は付けてますけど、まぁソースをかけて食べるのが一般ですね」
「どれからいただきましょう!?」
「わしはこれからじゃあっ!!」
というわけで先陣を切ったのはガブロさん。
カキフライ……キノコの笠フライ? にウスターソースを控えめにかけて、一口でパクリ。
異世界バナナの件を思い出したのか一瞬ためらった様に見えたけど、口に入れてからはそんな事も無く元気に咀嚼し。
「こ、こんなことがあるんかい――」
と呆然。
なんだなんだと全員が顔を覗き込む中、
「こ、衣のサクサクとした食感から溢れてくるクリーミーさ! クリーミーであるのにプリプリとした食感で、揚げたせいか味が濃くなっちょる気がするぞ!!」
そう叫びながら次なる笠フライへ箸を伸ばし。
「むほほほ! ギュッと詰まった強いうま味!! 『――』は揚げるとここまで美味くなるもんなんじゃな!!」
ひとしきり叫んだあと、残った笠フライにご機嫌にタルタルソースをかけてらっしゃいました。
んで、こんな食レポされたら黙ってない人が一人。
訂正、二人。
「それでは私はこれを!!」
と、ホタテフライ……柄フライを掴んで食べるリリウムさんと。
「俺はこっちを!!」
と、白身魚フライを掴んで齧るマジャリスさん。
「っ!!? サクサクの衣の中からホクホクの『――』の食感! 歯に触れた瞬間に繊維がほぐれてうま味と甘みが口の中に広がりますわ!!」
「こっちもいける! 魚特有の匂いはあるが、まるで気にならず、ホロホロと身が崩れていくんだ!」
最初から思ってたけどこの人ら食レポ美味いな。
顔もいいし、企業のCMとかで使われててもおかしくないわ。
……ん? 今白身魚フライも異世界飯並みの感想貰わなかった?
お前は業務用スーパーの大量冷凍品だぞ? 弁えろ?
「む、確かに。他の食材に比べると明確に味は落ちるが、別にこの魚のフライも不味いどころか普通に美味い部類だ」
そう。
ラベンドラさんを見習いなさいよ。
少なくとも最近あんたらが持ち込む食材はどれもこれも美味い。
高級食材とタメ張れる美味しさなんだからさ。
「柄の方のフライも美味いわい」
「はぁぁ……笠のフライが美味しいですわぁ――」
「タルタルは暴力。タルタルは暴力」
どうしよう、マジャリスさんが壊れたかもしれない。
――いや、壊れたのは翻訳魔法か?
翻訳出来ない言葉を言い過ぎたかもしれない……。
とはいえ、なんでマジャリスさんの時だけピンポイントでバグるんだろうな?
「カケル、この漬物は?」
「あ、今日は長芋のぬか漬けです」
ラベンドラさんが気になった本日の漬物。
米が無いそっちの世界では再現不能であろうぬか漬け!
しかも俺の独断と偏見で長芋のやつ。
長芋のぬか漬け、好きなんだよね。
下手すりゃとろろより好きかもしれん。
あのねっとりとしたうま味がたまらんのよ。
「かなり舌に残る旨味だ」
「今までの漬物とは方向が違うのぅ」
「これはこれで美味しいですわよ」
「俺はかなり気に入ったぞ? 揚げ物の後に食べても美味さが薄れない」
四人にも好評みたいだ。
さてと、んじゃあ俺も食べますか。
まずは――柄フライ! 君に決めた!!
「あっふ」
ザクッと衣を勢いよく噛めば、中からほっくほくのホタテみたいな柄が口内に侵入。
リリウムさんの言うように、ホタテの貝柱みたいにうま味と甘みが混在した汁が溢れまして。
異世界に負けるなと、ウスターソースの味が参戦して来よるわ。
うっめぇなぁ。
美味すぎだよ……。
「ふぅ。みそ汁も美味い」
「これの再現は出来ませんの?」
「複雑な味じゃあ無い気もするが……」
「……難しくは無いが時間が掛かるな。発酵が必要な材料がいる」
四人はみそ汁も飲みなれたもの。
そうすれば、必然的に向こうの世界でも飲みたくなるよな。
まぁ、俺には無関係と決め込んでお次は笠フライ。
「あっち」
こっちも熱々だった。
ホタテも牡蠣も、フライにするなら中は半生が好みなんだけど、今回は異世界産という事もあってしっかり火を通してある。
にもかかわらず、この笠フライ、トロットロのプリップリなんですけど。
いや、相反するはずなんよ。その二つの食感は。
でも、衣を割ったらトロリと溢れるし、それを噛んだらプリプリしてるし。
食材すらもバグった説ある。それぐらい意味わからん。
なお、美味しいので特に気にしない模様。
うへへ、もう一個タルタルかけていただいちゃうもんねー。
「この漬物も再現は難しいか?」
「同じく発酵が必要だ。それと、そもそもこの漬物に使われているようなマンドラゴラは未発見だ」
「むぅ。既知の魔物ならいざ知らず、未発見の魔物の発見は流石に雲を掴む様な話じゃわい」
「雲なら掴めますわよ?」
「リリウムは少し黙っていてくれ」
ふむ。
何だかんだ白身魚フライも悪くないな。
いや、確実に柄や笠には劣るんだけども。
これはこれで、一応同じ皿に乗る位の味はしてる。
……これ、ウスターソースとタルタルソースのおかげなのでは?
「ご馳走さまでしたわ。今日のご飯もとても美味しかったですわ!」
「やはり揚げ物。揚げ物は全てを解決する」
「こりゃあ持ち帰りの食事にも期待が出来るっちゅうもんじゃわい」
「ふぅ。漬物の後に飲むお茶が美味い」
というわけで先に食べ終えた四人に見守られながら、俺もゆっくりとご馳走様。
美味しかったなぁ……柄フライに笠フライ。
これなら明日もこれでいいかもとすら思えてくる。
……そうだな。そうしよう。
明日の朝ご飯、ラベンドラさん達に持たせるものを俺も食おう。
これくらいなら朝から食っても胃もたれとかしないだろうし。
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