第100話 イャンパクト重視

 盛ったご飯の真ん中を窪ませ、温泉卵を割り入れて。

 切ったトリの照り焼きを乗せ、ごま、ネギ、刻み海苔をパラパラと。

 ここにフライパンに残ったタレを回しかけ、最後にからしマヨネーズをかけて完成!

 温泉卵はスーパーで売ってるやつだし、からしマヨネーズも個包装で売られてるやつ。 

 今日のご飯はどこまでも楽をしたものになってござい。


「むほほ、早速いただくぞい! ……美味い!! 美味いぞい!!」


 出された丼を見ながら気色の悪い声を出し、丼を持って掻っ込むガブロさん。

 マジでおっさんがむほほとか言わないでくれ。

 ……頼むから。


「んほ~! この肉たまんねぇ~!!」


 翻訳魔法のバグかな?

 バグだな。マジャリスさんがこんな事言うわけないもんな。

 たまにバグるんだよなぁ、翻訳魔法。まぁ、誤翻訳とでも思っとこう。


「凄く美味しいです! タレとかも凄く! こう……美味しいんですよ!!」


 リリウムさんのは果たしてバグか?

 いやでも普段ならこう美味しいとか、詳しく言ってくれるしな……。

 でも語彙が無くなる程美味しいと思ってくれてるってのは嬉しいし、バグに分類するのも……。


「甘じょっぱいタレが抜群に合うな……。皮のねっとりとしたうま味も素晴らしい」


 やれやれ、唯一まともなのはラベンドラさんだけか。

 ここまで来ると最後の砦感あるな。

 んじゃあ改めまして、俺も食べよう。

 ……あ、うっま。

 しっかり歯ごたえがある肉は、噛むとジュワッと肉汁が溢れ。

 その肉汁とタレが合わさって最高のハーモニー。

 そこにごまの香ばしさとネギの香り。

 ワンテンポ遅れて、からしマヨネーズのパンチ力が効いてくる。

 卵の黄身をからませてやれば、肉、タレ、マヨ、卵の魅惑の四重奏。

 こんなん、一口で笑顔になるに決まってますやん。


「明確に美味いをぶつけてくるこの味は好みだな」


 翻訳魔法のバグが治ったらしいマジャリスさんが、照り焼きを持ち上げて見つめながらそんな事を。

 ハマっちゃったかー。美味しいよねぇ。

 これがタレと一緒に焼くだけなんだから、企業努力バンザイって感じ。


「卵の黄身が絡むと濃厚な味が一層深くなってたまりませんわ!!」


 こっちも語彙力戻ってきたな。

 まぁ、結局卵黄は最強なんよ。

 丼物で卵黄が合わない料理を探す方が難しいかもしれない。


「味が濃くて酒が進みそうじゃ。もちろん、米は進むんじゃがな」


 そういや、照り焼きで日本酒とかって結構想像つくな。

 ……和食なら何でも日本酒が添えられてても違和感はないが。


「丼も最高だがスープや漬物も素晴らしい働きをしている」


 ラベンドラさんだけはマジで他の三人と目の付け所が違う気がするわ。

 というか、メインの丼じゃなくてみそ汁と漬物に着目するとか、あんた絶対中身日本人だろ。

 ちなみに本日の味噌汁はあおさの味噌汁。漬物は白菜の漬物。

 照り焼きにマヨネーズまでかかってるしね。さっぱりしたものをチョイスしてみました。

 ……みそ汁は俺が飲みたかったからだけど。


「こういう味は私たちにとって珍しいものですし、献上品にはなりませんの?」

「珍しい味ではあるが、再現は比較的容易だ。それこそ、一度出しただけで王の雇う料理人なら再現するに違いない」

「となると珍しさは無くなるわけじゃな。……カレーのような、というからには容易に再現出来ん料理にしなきゃならんちゅーことか」

「カレーもこちらの世界から材料を持ち込んで作った後に献上したんだ。今回もその方法で何か出来ないか?」


 むぅ。話聞けば聞くほど難しそうだな。

 豚肉をメインで使って何かインパクトのある異世界で珍しい料理……ねぇ。


「角煮とかもダメですよね?」

「角煮か……。確かにあの大きさの肉を煮こむというのはインパクトはあるが……。既に私が再現出来ている以上、照り焼きと同じで王に再現されるだろうな」


 ダメかー。

 う~ん……困ったな。

 こんな時は……助けて! 検索エンジン先生!!

 豚肉……料理……一覧っと。


「特大のカツでも作って献上するか?」

「それこそ油があるだけで再現出来てしまうぞ? いや、味は本当に申し分なく美味いんだが……」


 ……ほぉ。

 こんなのあるんか。……これ、ちょっと作ってみたいな。

 問題は……。


「あの、ラベンドラさん」

「? どうした?」

「ラベンドラさん達の世界って、スパイスとか貴重ですよね?」

「かなり貴重だな。商人が取り扱いたがる商品の最高位と言われている」


 なるほど、ここまではおおよそ俺のイメージする異世界的価値観。

 ならば、


「じゃあ、塩ってどんな感じです?」

「塩? 塩はまぁ、ある程度は手に入るぞ?」

「それって……よっと。こんな感じで真っ白の塩です?」


 そう言って持ち上げたのは、スーパーで当たり前に売っている塩、1㎏。

 俺のイメージする異世界ならば……。


「いや、そんな純白な塩はこちらでしか見たことがない」


 やはりか。

 となれば、


「この純白の塩を大量に使って作る、インパクトのある料理があるんですけど、それなんてどうです?」

「そんな料理があるのか!?」


 そう言って、俺のスマホの画面をのぞき込んでくるラベンドラさん。

 ご紹介しよう、その料理の名は……。


「塩釜焼きって言う料理ですね」

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