第33話 閑話 分かる

「お前ら、丁度いい所に」


 朝のとある時間。

 いつものようにギルドに出勤前のオズワルドに、翔からのお土産を渡そうとしていた四人は、反対にオズワルドから声を掛けられた。


「? 何か用か?」


 自分たちがオズワルドを探す理由ならいざ知らず、オズワルドが自分たちを探す理由が思い当たらないマジャリスがそう問えば。


「『OP』枠の件だよ。他のギルドマスターがお前たちを直接見たいと言っていてな」


 そうオズワルドが説明した後。


「はいはーい。というわけで視察に来たよー! レシュラック領冒険者ギルドギルドマスターのアキナでーす」

「グリスト領のギルドマスター、ダイアンじゃ」


 オズワルドの背後から二人の人物が姿を現す。

 この二人にリリウムら四人は会釈し挨拶をするが、


「本当はもう一人居たんだが、早朝は難しいって事でな」


 オズワルドはバツが悪そうに頭を掻いた。

 オズワルドとしては、ここで会議に参加した全員に四人を紹介しておきたかったのだが、カルボスターが、


「普段と違う時間に出勤すれば、不倫を疑われる」


 と、断固としてこの時間の紹介を拒否。

 ギルドマスターという職業上、空いた時間を作ることも難しいため、彼に四人を紹介するのが後日となり。

 結果として、オズワルド自身のスケジュール調整も必要とかなり面倒な事になっていたりするのだが。

 そもそも『OP』枠を外したいと議題を出したのは自分であるし、ある程度のしわ寄せは仕方が無いとため息をつくほかなかった。


「それで? ここにわざわざ来ておいて、顔見せだけで済ませるなんてことは無いんだろう?」

「別の目的……違うな、本当の目的はなんじゃわい」


 そんなオズワルドの苦労を知らず、この紹介の本当の目的を問いただすと。


「実はね、会議中にあなた達から貰ったって言う料理を頂いたんだけど」

「めっぽう美味しくてのぅ。『OP』を外す目的も食材を求めて高ランクのダンジョンに潜るためと聞く」

「それで、他にも美味いものがあるんじゃないかとなってな……。簡単に言うと、飯を食わせろだとさ」

「しーさーつーでーすー!! 大体、オズワルドはいつもあやかってるんでしょ? 今日くらいは私達に共有してくれてもいいじゃん!!」

「ふぉっふぉっふぉ。あまり怒鳴るでないアキナよ。件の冒険者たちが引いておるぞ?」


 なんて話に。

 それを聞いた四人は顔を見合わせると、静かに頷いて。


「今日は幸運な事に大量に貰ってきている。どこかの店に入ろう。飲み物だけはどうしても欲しくなる料理だからな」


 と、オズワルドら三人を店に誘導。

 スープや飲み物を各々注文し、いざ、エビパンお披露目の巻。


「これは……」


 揚げられ、こんがりきつね色になったエビパンを指先で突きながら詳細を求めるアキナ。


「細かく潰したガーディアンシュリンプの身に調味料を混ぜ、スライスしたパンに乗せて多量の油で焼いたものだ」


 それに、最低限の文字数で説明をしたラベンドラは、まるで手本を見せると言わんばかりに一つを手に取りパクリ。

 ザクッと心地の良い音を周囲に響かせ、エビパンをしっかりと味わって。


「まずパン自体が美味いな。こんな見た目なのに固くない。……いや、固くはあるが噛み千切れない固さではないという意味だが」


 まずは食感についての感想。

 そして、


「油を使っての調理のせいか、ガーディアンシュリンプの旨味がかなり濃い。混ぜた調味料も素晴らしく、ガーディアンシュリンプの味を引き立てながら臭みを抑えている」


 と続け。

 この辺りで、我慢出来なくなった他三人がエビパンに飛びついた。


「むほほ。この食感の軽さがいいわい」

「一番は味だろ。今までガーディアンシュリンプは何度も味わっているが、ここ数日の料理はどれもが全て記憶の中にあるものとは一線を画す」

「バリエーションも豊かですわよね。パスタに、パンに、巻物に、ご飯と共に焼いたもの」


 なんて話すリリウム達の話を聞きながら、唾を飲み込んだオズワルドたちは。


「お待たせしました、スープです」


 スープが運ばれたのを合図に、エビパンを手に取って。

 ザクリッ! と勢いよく噛んだ。

 そして、ニヤニヤする四人に見守られながら……。


「うま……」


 小さく、呟くように言ったアキナに続き。


「ほほぉう。こりゃあ美味いのぅ。……ちと固いのが小生には厳しいが」


 ダイアンも目を丸くしてエビパンを凝視。

 最後にオズワルドだが……。


「なんで……」

「?」

「なんでお前ら、こんな毎回満点越えるような飯を持って来るんだよ!!」


 どう考えても理不尽としか言えないような、八つ当たりをラベンドラ達にぶつけた。


「ええ……」

「お前らに分かるか!? お前らからの料理が美味過ぎて、大体どこの店で飯を食っても首を傾げるようになった俺の気持ちが!!」

「分かるぞい」

「明日は何を食えるんだろうと気が付けば期待していて、実際にお前らの姿を朝見かけた瞬間にテンションが上がるようになっちまった俺の気持ちが!!」

「分かりますわ」

「お前らから貰った飯を食い終わった瞬間の虚しさが、お前らに分かるか!?」

「分かり過ぎる」

「オズワルドの叫びは、大体俺らと同じ叫びだからなぁ」

「じゃから『OP』枠からの脱却を直訴したんじゃわい。もっと美味い素材を、定期的に仕入れるためにの」


 なお、その八つ当たりは全て真正面から受け止められ。

 オズワルドの視線は、四人からアキナ達二人へと向けられて。


「頼む! こいつらは悪さなんざ考えちゃいねぇ! こいつらにあるのは純粋な食欲だけだ!」

「心外だが?」

「黙ってろ! 俺はこいつらから貰う美味い飯が――もっと美味い飯が食いたい。だから、だから、こいつらを『OP』枠から外したいんだ……」


 もはや懇願に近いオズワルドの叫びに、アキナとダイアンは。


「……明日から、私達にも朝の差し入れしてくれない?」

「出来ればあまり固くないものがよいのぅ」


 既に、オズワルドと同じ穴の狢であった。

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