第139話 実食南蛮漬け

「じゃあ、揚げ物をそのタレに漬けてありますのね!?」

「ええ、まぁ……」


 四人が家に来て、今日の料理を説明したところ。

 もう完成していると知って落ち込むラベンドラさんと。

 揚げ物とタレの組み合わせの強さに喜びを隠せない三人とに分断され。

 ただいま南蛮漬けがどんな料理かを説明中。

 

「細く刻んだ野菜も一緒に漬けるのか」

「ですね、タレを吸った衣の舌触りの良さと、野菜のシャキシャキとした歯ごたえがたまらないんですよ」


 後はタレの酸味と野菜の甘みの調和とか、鼻に抜ける野菜の風味とかね。

 ピーマンはまぁ、苦手な人が多い野菜の代表だとは思うけど、この南蛮漬けには是非とも入れたいね。

 あの苦みと風味がいい味出すんですわ。


「今は冷やしてるので、温めなおしてお皿に移しますね」


 と説明して電子レンジに入れようとして。


「カケル、一つ試してみたい物があるのですけれど、よろしいかしら?」


 リリウムさんに声をかけられる。


「何かするんです?」

「前に物を温める箱の原理を説明して頂いたでしょう? その原理を模した魔法を完成させましたの」


 物を温める箱ってのが電子レンジだな?

 それの原理……そう言えばなんか説明した気がする……。

 で、それを模した魔法ねぇ……。

 もうそこはかとなく嫌な予感しかしないのは俺だけ?

 みたいですね。


「まぁ、構いませんけど」


 とはいえ断るのもなぁ。

 最悪、料理が消し炭とかにならなきゃいいよ。

 自信あるっぽいし、リリウムさんは魔法に関してはずば抜けてるみたいだし。


「では……」


 そう言ってリリウムさんは俺からタッパーを受け取ると、マジャリスさん、ラベンドラさんに目配せし。

 小声でゴニョゴニョと何かを呟いて――。

 ポフン! とタッパーから音がした。


「成功……ですわね」


 と、ニコニコ笑顔でタッパーをテーブルに置いたリリウムさんの額にはうっすらと汗が浮かんでいて。

 マジャリスさん、ラベンドラさんに関しては息が上がっている。

 ……あの、物を温めただけですよね?

 何故にそんなに疲れているので……?


「思ったより……魔力の消費が激しい」

「そう何度も発動できる魔法ではないな……」

「でも、これで魔法式は正しい事が証明されましたわ。あとは改良を重ねていって、使いやすい魔法に落とし込みましょう」


 以上、俺は入り込みたくないエルフの会話でしたー。

 さてさて、南蛮漬けの方はっと。

 おー、蓋を開けたら白い湯気が出るくらいには温められてますね~。

 ほいじゃまこれをそれぞれお皿に盛りつけましてー。

 完成! シロミザカナモドキの南蛮漬けにござい。

 なお、本日の味噌汁はインスタントです。

 ただ、インスタントの味噌汁に後乗せでを入れます。

 ちょっとでも手をかけた感じを出したかったんです……。

 ちなみに漬物はスーパーで見つけた『すぐき』をチョイス。

 珍しいなと思って手に取っちゃった。


「鼻にツンとくる酸味が既にたまらんわい」

「ご飯が進むおかずなのだろうな」

「やはりこうして野菜と一緒に調理されている料理は不思議ですわね~」

「カケル、このみそ汁に入っている具材なのだが――」


 うん、一人一人喋ってもらえる?

 俺は聖徳太子でもなければグループでお笑いやってるツッコミ担当でもないの。

 おーけー?


「その具材は麩と言って、小麦粉が原材料ですね」

「小麦からこんなものが……」


 とりあえずラベンドラさんには反応しといた。

 汁をたっぷり吸った麩に、目をキラキラさせてたからね。

 

「んまいっ!!」

「ツルリと入っていきますわ!!」

「野菜がよく浸かっている……美味い」


 一方南蛮漬けを食べた三人がこちらです。

 ええか若いの。日本食はみそ汁に始まりみそ汁に終わる。

 最初にみそ汁を一口すするのがマナーや。

 ……知らんけど。

 あと、多分だけどこの中だと俺が最年少だけど。

 ――リリウムさん達って何年くらい生きてるんだろうな?

 見た目なら大学生とか言われても全然違和感ない。

 ただしガブロさんは除く。

 あんたは四十代とかの見た目じゃい。


「酸味は確かに強いが角がない、丸い風味の酸味じゃわい!!」

「酸味の後ろに甘みが隠れていますわ! そこから顔を出す『太刀魚』の味がもう!!」

「酸味、甘みと来てピリリとする辛みが続くのもいい。食欲が無限に掻き立てられる」

「……なるほど、一度冷やすことでタレの浸透性を高めているのか……」


 ええ、大絶賛でござぁますわね。

 まぁ、不味いはずないと思ってたけど。

 それにしても……この人らほんま食レポ上手いな。

 この人達の食レポ聞いた後だと料理の美味しさが上がるもんな。

 動画サイトに投稿とかしてくれないものか。

 美男美女が美味しそうに料理食って食レポする動画。

 世間一般の需要があるかは知らんが俺は見るぞ?

 あ、咀嚼音とかはノイズキャンセルとかで消しといてくれ。


「まぁ、このお漬物、とても凄く美味しいですわ!」

「独特の風味はあるが、それもそこまで強くない」

「南蛮漬けとは違った、澄んだ酸味がある。かなり上品だ」

「さ、酒に合う! これは絶対に酒に合うんじゃわい!!」


 お。漬物も好評だね。

 なんでも、すぐきは献上品とかにもなってたみたいですよ?

 お茶請けから酒の肴まで、何でもござれな漬物っぽいね。


「はぁ、お漬物の後のお茶が美味しいですわ」

「もちろんなのだが米にも合う」

「南蛮漬けと互いに邪魔をしない味で相性がいい」

「さ、酒が飲みたい……」


 ちなみにガブロさんの主張はもちろん無視だ。

 答えは沈黙、ってね。

 さてさて、それじゃあ俺も南蛮漬けを味わうとしますか!

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