第138話 季節外れの
うぅむ……。
レシピに困った。
こういう時は、やほーでググるか。
へい俺! 白身魚のレシピを調べて!!
――あ、そっかぁ。
……ちょっと面白いかもしれん。
作りたい料理が出来た、というわけではないけど今日もいつも通りに定時退社!
早速買い物して、帰宅!!
*
ただいま!
という事でね、今回作っていくのは南蛮漬け。
魚揚げて、甘酢ダレに野菜と一緒に漬け込んだ奴ね。
揚げ物と思うとフライとかしか浮かばなかったけど、これがあるじゃんという事で。
本日は作っていくことに。
これさ、本来は小さめのアジとかをそのまま丸で揚げて漬けたりするんだけどさ。
シロミザカナモドキのどの部位を使っても美味しいと思ってね。
――違うな、美味しいと思って、じゃないわ。
絶対に美味い、だわ。
でまぁ、漬け込む時間が必要だから、久しぶりにラベンドラさんの目の届かないところで調理してくわぞ~。
まずはシロミザカナモドキを一口大にカット。
そこに塩を振り、しばし置く。
その間に漬けダレの準備。
水に溶いた顆粒出汁に、みりん、醤油、更に酢をぶち込みまして~。
こいつを火にかけて、一度煮立てまするる。
このタレの香りがたまらんのよ。
というわけで煮立ったらちょっと味見。
「……ほんの少し甘くしたいな」
完全に好みだけど、俺はもうちょい甘い方が好きだった。
というわけで気持ち程度の砂糖を入れてかき混ぜ、漬けダレの完成。
続いて野菜をスライス。
使う野菜は人参、玉ねぎ、ピーマン。
……個人的にはここにみょうがとか入れるんだけどね。
マジャリスさんがなぁ。
昨日のパクチーnice boat事件があるし、あんまり独特な香りのするやつはやめといてあげようという俺の優しさ。
南蛮漬けを食べられない、ってなったら他に食べるものは作らないしね。
簡単に作り直せるものじゃないし。
なら寛容な心で入れないでおきましょう、ってこと。
実は俺、会社では気配りが出来る社員で通ってるんだ。褒めて良いぞ。
「んで、全部千切りっと」
ちなみにここでいう千切りは千回切る事では断じてない。
いやまぁ、そう思ってる人なんていないと信じてるよ? でもさ、某芸人はそう信じて疑ってないから。
で、千切りしたものがこちらになります。
南蛮漬けに入れる野菜は細ければ細いほど美味い。
俺の持論だけど。
というわけでめっちゃ頑張った。
うん……ラベンドラさんに滅茶苦茶任せたいなって思ったけど頑張った。
「んじゃあ揚げていきますか」
諸々の準備が終わったという事で、いよいよ本命。
シロミザカナモドキを上げていくゾ~。
その前に、塩を振った事で浮いてきた水分をしっかりと拭き取って。
拭き取った身は、そのままジップロックに投入。
全部入れ終わったらそこに片栗粉をぶち込み、全体に満遍なくまぶしまして。
油に投下!!
例によってハードグミ食感部分があるので、普段より長めにしっかりと揚げていきまして。
揚がったら即タッパーへ。
大人しくしてるんだぞ~。あとでタレによる水攻めをしてやるからなぁ!
「揚げ物をしている時の音……落ち着くわぁ……」
揚げ物のASMRとかあるんかな……?
お、あるやん。
にしても揚げてる音より揚げ物食ってる咀嚼音のASMRの方が多いのか……。
人が食ってる音聞いて何がええんや。
ご飯は口を閉じて噛みなさいとおばあちゃんから教わらなかったか?
「後で聞こう」
揚げ物を揚げてる時の音を一旦リストに登録しまして、揚げ終わったのでこれから水攻めタイム。
の前に、先程千切りにした野菜をシロミザカナモドキの上に乗せまして。
追加で輪切りにした鷹の爪を一本分投入。
そこへ温めなおしたタレを回しかけていき、全部入れたら冷蔵庫へ。
このまま、四人が来るまで冷やして完成っと。
ただまぁ、季節的に全然寒いので、食べる時にはお皿に移してレンジでチンするかな。
流石にこのまま食べたら凍えちゃうわ。
*
「王様、献上品が届いております」
王都にそびえる立派なお城。
そこへ運び込まれるは数々の献上品。
あらゆる貴族や冒険者、ギルド幹部などからのその献上品は、もちろん下心ありきな品々ではあるが。
それよりも、王の統治への感謝の方が大きい。
そんなわけで、献上品はどれもこれも高価な品々であることがほとんどなのだが。
「それは、何だ?」
王の目にとまり、指を差したそれは、簡素な瓶一本。
特に包装もされていないそれは、周囲との差があまりにも大きく。
逆に、質素すぎて浮いている状態。
「は! こちらは『夢幻泡影』からの献上品で、非常に珍しい酒であるとのことです!」
「ふむ」
先日『OP』枠を外し、自身にカレーパンと塩釜焼きを献上した、個性的で実力のある冒険者のパーティ。
そのパーティが、非常に珍しい、という酒は大いに興味をそそり。
すぐさま一口だけ味を見ようと、グラスを持って来させた。
そして、少量注がせてみると……。
「奇麗な琥珀色だ」
『夢幻泡影』の持ち込んだ、その酒の色に思わずうっとりと。
そして、僅かに口に含んで味わってみると――。
「……美味い」
トロリとした甘みとサッパリとした酸味。
その両方に隠れたアルコールと、味の調和が完璧であり。
何より、甘みと酸味を兼ね備えたその味は、文字通り未知の味。
飲み込んだ後の余韻に浸り、ゆっくりと我に返った王は、
「この酒の名は?」
「プラムワイン、と表記してありますが……」
「すぐにこれを給仕の者に振舞い、製法を確立させよ。出来ぬと判断したなら醸造ギルドにでも持ち込ませろ。可能な限り急がせるように」
そう言って、一人の大臣を呼ぶ。
「お呼びでしょうか?」
「『夢幻泡影』とコンタクトし、この酒のレシピを聞き出せ。見返りはお前の判断に任せる」
「御意」
そう王に言われた大臣は、一歩下がって王を見送り。
掛けていた眼鏡を上げながら、一言。
「さて……リリウムさんは元気でしょうか?」
と呟いたのだった。
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