第258話 果実酒ゼリー実食

「これがこちらの世界の果実酒か」

「です。希釈とかもしてないんで、アルコール度数が高いままのゼリーもありますけど……」

「誰も気にせんじゃろ。大丈夫じゃて」


 今日のデザートの説明をする前に、先日の会話を覚えていたらしいラベンドラさんが、冷蔵庫から取り出された七色のゼリーを見て一言。

 で、そこから説明に入ったんだけどとりあえず一言言わせてくれガブロさん。

 俺は気にする。何故なら死活問題だからな。


「それぞれのゼリーの説明は?」

「えっと……」


 マジャリスさんに説明を求められ、口を開いたその時。


「折角未知なのですから、何も知らないまま食べたくありませんこと?」


 とはリリウムさん談。

 俺は断固として先にどんな味なのか知りたいけどね?

 こう、牡蠣の見た目のバナナとかあったし。


「なるほど、ではそうしよう」


 まぁ、俺はどれがどのお酒で作られてるか把握してるからいいんだけどさ。


「じゃあわしから……これじゃ」


 手に取ったのは……梨のお酒で作った奴だな。

 そのまま口に運び、指で押し出し吸い出して……。

 食べ方教えてないのに妙に上手だな。恐らく、異世界にああやって食べる食べ物があるんだろうけども。


「む。スッキリした味わいと瑞々しさが弾けるようじゃ。……あまりアルコールを感じるというわけではないが、それでもちゃんとアルコールの感じはあるぞい」

「味は?」

「美味い。甘い! というものでも無く波のように押し寄せ、直ぐに引いて行くような甘さじゃわい」


 梨の味わいを波に例えるのか……ガブロさんもしかして結構詩人だったりする?


「では、私はこれを……」


 とリリウムさんが手を伸ばしたのは巨峰のお酒ゼリー。

 色味的に一番ワインに似てるし、それでだろうね。


「……まぁ! 結構甘いのですわね!」


 とその甘さに驚いてるよ。

 マジでシロップって言われても信じる位の甘さを感じたからな。


「ブドウの風味や味ですのに、私が知るどのブドウよりも甘いですわ」

「この世界の『巨峰』って種類のブドウですね。身も大きくジューシィで人気な品種です」

「こんな甘いブドウがありますのね! 是非とも食べてみたいですわ!!」


 う~む……一旦秋まで待ってもろて。

 季節外れの果物は手に入らないって事は無いんだろうけども……どうしても旬の果物に負けるだろうからね。


「これを頂こう」


 マジャリスさんが手にしたのは桃のお酒ゼリー。

 気に入るだろうなぁ、何より甘いし。


「想像通り甘みが強い。……弾力があるからそう感じるのかもしれないが、噛むほどに果汁が溢れるような感じにすらなる」


 気のせいでしょうなぁ。

 流石にゼラチンをしっかり入れてるし、お酒全部固まってると思う。

 ただ、それはそれとして噛むほどにジューシィさが溢れてくるってのは表現として面白い。

 そう感じても不思議じゃないくらい、お酒の味が濃厚って事だもんね。


「うむ。甘みと酸味のバランスが良く、香りがいい」


 で、ラベンドラさんはりんごのお酒ゼリーに手を伸ばしてた。

 色、綺麗だもんね。黄金色って言うの? しかも透き通っててさ。

 甘すぎず、酸っぱすぎない上品なリンゴ果汁とアルコールが合わさり最強に見える。


「こうしていろんなお酒をゼリーにするのも楽しいですわね」


 と言いつつ蜜柑のゼリーに手を伸ばし。


「酸味先行、後から追いかける厚さのある甘みがたまりませんの」


 要約して美味いという食レポをしつつ、三個目をどれにするかと物色するリリウムさん。


「各種ワインをゼリーにし、利きワインとかを余興でやっても面白そうだな」


 なんて言いながら摘まんだ巨峰ゼリーに目を見張り、思わず俺の方を見てくるのはラベンドラさん。

 この人も巨峰の虜になっちゃったか。


「まずワインを味わい、判断出来る奴らがどれほどいるか、という話にならないか?」


 とか言いながら苺のゼリーに手を伸ばし……。


「ほぅ!? この間食べた苺の酒か! 美味いもんだ」


 苺のお酒に度肝を抜かれた様子のマジャリスさん。

 蜜柑とはまた違った程よい酸味と濃厚な甘みで癖になるよ。

 あと、飲みやすいから絶対に飲み過ぎて二日酔いになる。


「さっぱりしたゼリーがあるのもうれしいわい」


 さっきから梨とライチのゼリーを無限反復横跳びしてるんだよな、ガブロさん。

 でも確かに、甘いだけって感じじゃないお酒は嬉しいよね。

 特にライチなんてサッパリ系の代表みたいに感じるわ。

 ……大体夏の時期に出てくる飲み物のせいだけど。

 美味しいよね、ソルティライチ。


「色がそれぞれ違うから視覚的にも楽しく」

「味が美味しいのは言わずもがな、それぞれに特徴があり違いもありますから飽きも来ません」

「同じ材料でアルコール抜きを作ってやれば子供でも食べられる」

「このゼリーの発想は、貴族の晩餐会などで重宝されるようなやり方じゃろうな」


 だ、そうです。

 確かに貴族って、華やかさとか派手さとか……。

 言うなれば映えってのを意識してそうだもんね。

 ……だったら、色ごとに別々のボウルに分けて、そのボウルの周りを同じ色の花で囲うとかした方が映えそうではあるけどね。

 ……向こうで人を襲わない花があるかは知らん。


「カケル、このゼリーは食べてしまっていいんだな?」

「もちろんです。お酒も全部使っちゃったわけじゃあないんで、持ち帰ってもらおうと思っていますし」

「容器を入れ替え、王へと献上じゃな」

「神への奉納分は別にあるんだな?」

「ですです。そちらの方は開けてすらいません」


 という確認をしっかりとった後、四人はしっかりとお酒ゼリーを平らげていきましたとさ。

 ラベンドラさんだけ帰る時に若干ふらついていたけど、あの四人の中で一番お酒が弱いんだろうな。

 ……他が強すぎるだけとも言えるけど。

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