第257話 割と大事に……?

 お好み焼きに合う飲み物は何か。

 まぁ、大体がビールとか、ハイボールとかって答えになるだろうね、大人なら。

 子供でも、サイダーとかコーラとか、炭酸系をリクエストすると思う。

 というわけで、本日ハイボールをご用意しました。


「む、前に飲んだものと香りが違うな。銘柄を変えたか?」


 で、一口飲んだだけでガブロさんが言い当てたんだけど、前回使ったジャックなダニエルじゃなく、今回使ったのはシーバスなリーガルのミズナラって奴。

 かなり飲みやすく、ストレートやロックならこれって人もいるらしい。

 箱のパッケージが気になって買ってみたんだよな。


「スッキリとした味わいと、様々な香りが口の中に揺らめくようだ」

「香ばしさ、甘さ、そしてちょっぴりのスパイシーな香り。……こういうお酒もいいものですわね」

「余韻も長すぎず、料理と合わせる酒としてかなり評価できるだろう」


 とまぁ、エルフ達にも好評でした。

 ……ワインの時もそうだけど、この人達、お酒を料理と一緒に楽しんで、なおかつお酒の香りを楽しむ様な飲み方を好む様な……。

 ハッキリ言うと、ストゼロとかは口に合わなさそうだなーと。

 あと、チューハイとかは当たり前にジュース判定しそう。

 

「特別感を感じる酒じゃわい。香りの芳醇さや味のまとまりから余韻に至るまで、完璧なコンセプトの元作っとる感じがするのぅ」


 でまぁ、ウイスキーに並々ならぬ熱を持ったガブロさんが言う通り、このお酒、元々は日本人向けに作ったらしいね。

 で、あまりにも出来が良くて、人気が出て定番に名を連ねたらしい。

 らしいを連発したのは買った時に知らなくて、調べてみたら出てきたから。


「濃い味のソースにも合いますし、肉、魚介の両方の後に飲んでも少しも雑味が出ませんの」

「ワインだと合わせる料理で赤白の選択があるが、この酒ならこれ一つでどんな料理にも合わせられるだろう」

「ガブロ、この酒のレシピを書き記しておけ。酒造に持ち込もう」

「ワインに並ぶ人気の酒になること間違いないのぅ」


 なんてまぁ盛り上がっております、と。

 にしても本当によく食うなこの人ら。

 もう既に三枚はお好み焼きを平らげてるぞ。


「ふぅ、ソースとマヨネーズが美味い」

「たこ焼きの時もそうでしたけれど、この二つの組み合わせは本当に美味しいですわ」

「たこ焼きもすっかり私たちの世界で定番になった」

「あ、そうなんですか?」

「うむ。小麦粉と具になる食材さえあれば出来るという手軽さで、港町を中心に広がりを見せとる」


 何の気なしに作ったたこ焼きが、もうそこまで来てるとはねぇ。

 やっぱ美味しいものって異世界とか関係なく共通なんやなって。

 

「場所によって中身を変え、近々どこのたこ焼きが美味いかと大体的なコンテストを行うと発表があった」

「新聞に参加店一覧が載ってましたわね」

「新聞で応募してるんですね」

「わしらも出ようと思えば出られるがな」

「出ないんです?」

「出てもあまり旨味が無い。店を持つものにとっては宣伝になるだろうが、私たちが出ても恩恵が無いのだ」

「なるほど」


 確かに、冒険者の作ったたこ焼きが一番美味いです、なんて事態になったら、店持ってる人たちの面目丸潰れだし、下手したら恨みも抱かれかねないか。

 ……だったら、


「審査員側で応募してみては? 間違いなくそちらの世界で最初にたこ焼きを作ったのは皆さんなんですよね?」

「それはそうだが……審査員か」

「審査員側をやるにしてもメリットというものが……」

「思いつくのは、何か景品を出して売名行為に当てる……とか? 景品なら、こっちの世界のたこ焼きソースとかで――」


 って言った瞬間よ。

 四人の目がぎゅるんっ!! って。

 だから怖いっての!!


「景品……か」

「あらかじめ王にはレシピを献上しておけば、あるいは……」

「また凄いものを持っとると、新聞でも書かれるじゃろうな」

「味も向こうではまだまだこちらの世界のソースを再現出来ていないのだから、画期的……」

「よし、審査員として参加する旨と、景品を持ち寄る旨を戻り次第王へと伝えよう」

「ですわね」

「我らが審査員として参加するなら応募側も引き締まるだろう」

「受賞者には『夢幻泡影お墨付き』の文句でも使わせてやるとするかの」


 で、どうやらまとまったみたいですわよ?

 あと、丁度お好み焼きも平らげたみたいですわよ?


「ふぅ。美味かったわい」

「ソースもだが、マヨの作り方も本当に教えて欲しい」

「向こうの世界ではまだ苦戦していますものね、マヨネーズ」

「まぁ、この世界の……というかこの国のマヨはある種魔法なので……」


 行き過ぎた科学はうんてろかんてろ。

 この四人にうま味成分とか話しても再現出来ないだろうし。


「で、本日のデザートじゃが?」

「この国で作られた果汁酒のゼリーを用意しましたよ」

「楽しみで心が躍りますわぁ」

「甘いやつを頼む」


 で、四人に急かされつつ、冷蔵庫の中のお酒ゼリーを取り出しまして。

 みんなの前に置いたところで、スマホが震える。


「ん、ちょっとごめんなさい」


 と断わりを入れ、スマホの画面を見れば着信は姉貴。


「はいはい」

『明日帰ってくるからご飯は贅沢なのよろ~』


 いきなりすぎる帰宅宣言だけど、一番初めは連絡無しで帰ってきたし、これも進歩と思うべきか……。


「今貰ってる異世界食材が野菜だから野菜のフルコースとかになるけど?」

『ん~……そういや野菜をしばらく食べてないからそれがいいかも! あ、四人にい~っぱいお酒買って来てるから、お酒に合う料理をお願いね~』


 と、言いたい事言って切りやがって。

 はぁ、とため息をつけば。


「姉上か?」

「ですね。明日帰宅するそうです」

「そう言えば久しぶりな気もするな」

「物を送ったりはしてくれてたんですけど、帰ってくるのは確かに久しぶりかもです」

「お会いできるのが楽しみですわー」


 なんて言いつつも、皆さん視線はテーブルの上のゼリーですね?

 食べましょうか。

 ……えーっと、アルコール度数が低かったお酒は確か――。

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